第13話 舞踏会のための下準備

「では!これより聖都へ移動します!私は別途の用事があるので途中で離脱しますがその間は副団長であるミーアの指示に従ってください」


「サァヤ様⋯⋯張り切ってんなあ⋯⋯」

隣にいるバークスがボソッとつぶやく。


「だな」


真剣な眼差しで俺達、星鎖の騎士団へ指示をだしていくサァヤ様は本当にかっこいい。


「しっかし今回の三美響秋ソウネルブの舞踏会が開かれたのはお前のご主人様のおかげらしいじゃねえか。すげえな」


「おいバークス私語は慎めよ」


「ちょっとくらいいいだろ〜。ロイくんはお固いなあ」

そういってバークスが肩を組んできたところでサァヤ様のからお声がかかる。


「バークスくんは物資の輸送お願いしますね。現地に着いたらミーアから警備場所を聞いてください」


「は〜い。んじゃ」

そういうと若干にやけた顔をこちらに向けて去っていくバークス。

なんだ、あいつ。気持ち悪い。なんて思ってると目の前にサァヤ様がやってきて慌てて姿勢を正しそちらを見る。


「ロイくんはリィンの護衛係に徹してもらいます。なので私と一緒に途中離脱してください。それまではバークス君と物資の輸送をお願いします」


キビキビとした声音でそう言われて「はい!」と大きく返事する。

サァヤ様は用件を伝え終えるとサッと身を翻して他の者のところへ行ってしまったが、少し前まですぐそこにあった温もりを想って胸の奥がキュンと狭くなるような感じがした。

やがて別の者に指示をだすサァヤ様の声が聞こえてきて、ハッとしてバークスの元へ歩いてく。


俺は夢遊病かなんかなのか?それとも?

その先を考えたいのか考えたくないのかすらよくわからず歩みは自然とはやくなった。




今回俺たち星鎖の騎士団に与えられた任務は聖都ミディオネラに物資を運ぶことと舞踏会中の警備だ。

とても大切な役目なので見習い騎士などではなく、上位騎士だけが集められた。

そして聖都ミディオネラとは三つの勢力の真ん中にある都のことで、唯一どこの権力下にもない。だからこそ聖都と呼ばれ三つの異なる勢力が安心して舞踏会を楽しめるのである。

そしてその聖都の大部分を占めるクリスタル製の大きな舞踏会場(時と場合によっては教会や会議場にもなるが)で今回の舞踏会は開かれることとなる。


「おーい、ロイ〜、こっちの馬車に荷物乗せるの手伝ってくれ」

不意にそんなバークスの声が聞こえてきて俺は慌ててそちらへ向かった……。






〜リィン〜

「むむむっ……!」

一人鏡の前で険しい顔をしながら何十分も唸っている私は、リィン。一応魔法使いで今度ある舞踏会で着る服を選んでいるところ。

……なんだけど、生まれてこのかた舞踏会なんてでたことも見たこともないからどんな服装をするのが正解なのか想像もつかない。

それどころかこんな煌びやかな服どれも私には似合いそうにない。

せっかく王がこの中から好きなものをーといって沢山の服を部屋に運んでくれたんだけれど、多すぎて何がいいかわからなくなってきた。

ベッドの上には乱雑に置かれたものが少しと、丁寧に並べられたものが数え切れないほど置かれている。

無論乱雑におかれているのは私が手にとってそして畳みもせずにおいたものだ。

もう畳むのも面倒になってきてしまった。

サァヤが帰ってくるのを待とうかな。

サァヤはお姫様だし舞踏会とか沢山でてるだろうし。


そう思って窓に歩み寄った私はボーッと外を眺める。


侍女や執事、衛兵さんから騎士団の人まで城にいるみんなが忙しなく働いている。


先刻「私も手伝います」と申し出たんだけど王に「リィンは我が国の姫も同然。そんなことはさせられぬ。部屋でじっくりと服を選んでいてくれ」などと言われてしまった。


引き下がらずにそのまま粘ればよかった気もすれけれど王の無言のニコニコ笑顔には耐えられなかった。

逆らわないでね、ってすんごい伝わってくるし。

普段温厚だけどそういうとこはやっぱり王様っていうか……。




不意に視線を上にあげて蒼い空を見上げる。

そうだ。あの日もこんな空だったなあ。

目が痛いくらいの青が、初めての青が、本当に眩しくてーー。


そういえばトウヤは大丈夫だろうか。

体が弱っているのだから、またどこかで倒れてしまっているかもしれない。

そう考え出すと途端に心配になってくる。

大丈夫かな。

またね、とは言ってたけど……。

そんな思いとともに不意に掘り起こされるロイの無神経な言葉。


ロイの何気ない一言はいつも私をイラつかせる。

感謝することもあるにはあるが短気な私と無神経なあいつはやはり根本的に合わないような気がする。


先日いわれたその言葉だってごくごく何気ないものだった。


「トウヤ、大丈夫かなあ?」

不意に漏れたそんなつぶやきにあいつは、耳の穴をほじりながら冷めた声で

「まあ、大丈夫だろ〜」

といったのだ。


こっちは本気で心配しているのに、言い方というものがあるではないか。


そんな思いがフツフツと蘇ってきて怒りの感情に徐々に支配されていく私。


まずい。

そのうちロイくんは星鎖の騎士団での仕事を終えてここへ来るだろうし、そうなったら完全に過去のことで思い切り八つ当たりしてしまうだろう。


なんとかしなくては。


そう思った私は特に何を考えるでもなく窓のへりから身を乗り出して大きく息を吸い込んだ。


「ロイのバカーーーーっ!!」

その声が辺りに反響しているのを聴きながらふと我に帰る。


あれ……私……

そこからやがて完全に状況を把握するとハッとしてバタンと窓を閉じる。

やばい、やばい、やばい。


このままじゃ、ロイくんに殺されるよ。

だってあれ、完全に響いてたし。


けど、元はと言えばロイくんが悪いんだし。


いやいや、でもそれってすごい昔のことだし、それを勝手に私が思い出したってだけで……


もう私なにやってるのよーー!


なんて、服を選ぶのも忘れて悶々とする私。


そんな私の元に当のロイくんが姿を表すのはそう遠くない先のお話。

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