第48話 戦慄の生配信(Violence YOUTUBER)
「只今より、公開処刑ライブを執行する!!!!」
折田が怒号を上げると、十数人のテレビクルーが一斉に会場へ押し寄せた。
カメラにマイク、照明器具――大型の撮影機材が奈緒たちに向けられる。
「……なんなの、これ」
奈緒がそう質問すると、折田はとんでもない内容を返した。
「聞いて驚けよ! このライブの模様は全世界のお茶の間に生放送されている! もちろんインターネットもだ! 『ニクニク動画』や『
「な、なんですって!?」
声を裏返すレイ。
自分たちが置かれた状況を一瞬で理解し、今日に限って化粧を控えめにしてきてしまったことをちょっとだけ後悔した。
「へぇ、面白いじゃねぇか」
グレンG、乗り気である。
このグレンG、何を隠そう、人前に出たほうが実力を発揮するタイプである。
「まあ、処刑されるのはお前のほうだと思うけどな」
カメラの前で平然と暴言を吐くグレンG。
例え大衆に見られていようが、相手が友達のお父さんであろうが、その振る舞いがぶれることはない。
「やってやるにゃあ!」
シャムはゆっくりと股を締めた。
今まで公衆の面前で何度も失禁を繰り返してきたシャムだが、もうそんな過ちはおかさない。
全人類がボクを見ている。
漏らしてなんかたまるもんか。
シャムは、『一度も失禁せずにこのライブを終えること』を、自分の中で密かな目標に設定した。
(がんばるにゃあ……!)
「OK, OK, Very Nice!! Take It Easy!!」
スタッフは全員外国人で、何を喋っているのかよくわからない。
皆こなれた様子で撮影機材を役者に向け、淡々と仕事に励んでいる。
☆緊急生特番『執行!公開処刑ライブ!』
企画・立案:折田六誤郎
司会・進行:折田六誤郎
裁判官:折田六誤郎
執行人:折田六誤郎
被告人:デスペラードン・キホーテ
「あーあー、ゴホン!」
折田は咳を払い、カメラのレンズへ顔を向けた。
そして全世界の視聴者に向け、このライブの趣旨を説明し始める。
「
要約しよう。
折田は「音楽による人の殺し方」を世界に実証するため、自らのヴァイオリン演奏で自らの娘を殺害しようとしているのだ。まさに狂気の沙汰である。
「奈緒、お前たちにはこの崇高な立証の
全力で娘を叱責する折田。
「あんたの娘なんてこっちから願い下げよ! ここでサヨナラだわ」
世界の前で絶縁宣告。
奈緒はギターのネックを掴み、仲間の顔を振り返る。
「誰が見ていようが関係ない。あたしたちは、あたしたちのライブをやるだけ」
やがて奈緒たちは、互いの顔を見合ってこくりと頷いた。
誰かがイントロを鳴らした瞬間、このライブは幕を開ける。
鳴らすのはもちろん、リーダーの奈緒だ。
(あたしのロックで、
反抗的な決意を胸に、ギターピックを握る奈緒。
そして、その弦を鳴らそうとする――
が、
しかし、
奈緒は、
(指が…………震えている!?)
奈緒は‶緊張〟していた。
口では強がって見せたものの、やはり17歳の少女であった。
(そんな、ありえない……! このあたしが、‶緊張〟している……?)
指先を不気味に凝視する、無機質なカメラのレンズ。
この向こうに億単位の人間がいると思うと、奈緒の指先はどうしても震えてしまった。
自分の音や恰好が、全世界の人々に観られているという奇妙な感覚。
これまでのライブとは、まったく規模が違う。
(こんなこと今までなかったのに……! どうして……?)
事実、この『公開処刑ライブ』の生放送は、全世界に放映されていた。
宣伝ゼロの緊急特番にもかかわらず、放送開始わずか三分で全世界平均視聴率が80%を突破した。世界各国における視聴率の計算方法は謎に包まれているが、だいたい世界の八割くらいの人間がこの放送を見ているという計算になる(?)
テレビだけでなく、インターネットのほうも異常な賑わいを見せている。
動画配信サイト『YOUTUBAR』でのアクセス数は既に億を超え、現在再生回数トップに君臨している世界的カリスマアーティスト『
このライブの結果次第で、『デスペラードン・キホーテ』の未来が劇的に変わることは、もう間違いがない。
「奈緒がイントロを鳴らすまで、アタシは待つわ」
ベースを構えながら、レイが言った。
「おれも待つぜ」
「ボクも待つにゃ」
横に立つシャムとグレンも、真顔で頷いている。
「みんな…………」
奈緒は心を落ち着かせ、ギターピックを握り直す。
しかし震えは止まらず、手汗で指先が定まらない。
「どうした? 緊張して音を出せないか? 我が娘ながら情けないな」
呆れ顔で娘を煽る折田。
そして、叱りつけるかの如く叫んだ。
「では、こちらから行くぞ! まずは冒頭陳述をさせてもらう!!」
折田の形相に合わせ、慌ててカンペを用意する撮影スタッフ。
折田はその資料を参考に、奈緒たちの黒歴史――
「容疑その①:2016年春、東京都シブヤア区のライブハウス『イヌゴヤーン』にて発生した大量殺人事件。主催者であるパンクバンド『KAMASE-DOGMANS』のライブ中に発生し、数百名の犠牲者を出したにもかかわらず、この事件の証拠や目撃証言はゼロ。生存者もゼロ。記録映像なども残っていないため、その手口を立証することは極めて困難であるとされていた…………」
「しかし! 本法廷は、この事件の被害者のひとりである『
「ええ!? なに!? なんですって!?」
またしても声を裏返すレイ。
しかし今度ばかりは理解が追いつかない!
「私が今から奏でるのは、お前たちの演奏によって命を絶たれた者たちの叫びである!
前口上とともに弓を構える折田。
肩に挟んだヴァイオリンに弓を当てる。
「証人、出頭せよ! その憎悪を糧に現世へと舞い戻れ!」
そして、弦を
『
曲が始まった――。
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