第41話 シャム、失禁する(前編)
【
――ベベンベンベンベンベンッ!
――ベベンベンベンベンベンッ!
まるで
ピンと張られた三本弦が、皆はち切れんばかりに震え続けている。
――ベベンベンベンベンベンッ!
――ベベンベンベンベンベンッ!
やがて、細景が織り成した奇妙な旋律は、幽霊街の静寂を根底から覆した。
その不穏な前奏に釣り上げられるかのごとく、街中に埋もれていた大量の
細景の奏でる
【満員御礼なり! さあ、現世に集いし
三味線を振り上げる細景。
そのライブパフォーマンスに煽られるがごとく、集まった亡霊たちがヘッドバンギングをかましながら奈緒たちの身体へ向かって一斉に
もちろん、これらの
しかし奈緒たちは、この姿なき観客たちの存在を、明らかに体感し始めていた。
「か、からだがだるい……」
倦怠感を訴える奈緒。
拘束された身体に追い打ちをかけられ、その体調は悪化の一途を辿る。
自分の身体が何かに蝕まれていく感覚に吐き気が止まらない。
(マジ最悪……なんなのこの曲……)
「のどが、むかむかする……」
風邪の初期症状を訴えるレイ。
寒気が収まらず、36度5分の体温が加速度的に下降する。
(ホットココアにすればよかった……)
「ラーメンが、飲みたい……」
依然として空腹を訴えるグレンG。
怨霊に取り憑かれ、謎の幻覚症状に襲われ始めている。
(ネギは抜いてくれ……)
つまり奈緒たちは、絶体絶命であった。
このまま細景の演奏を阻止できなければ、その身体は廃人と化してしまう。
(もうやだ……かったるい……)
(お薬飲みたい……安静にしたい……)
(ちくしょう……こんなトコロで……)
演奏を封じられた『デスペラードン・キホーテ』。
もはや完全に勝機を失い、その
―――――しかし、その中でただひとり、この危機的状況をなんとかひっくり返してやるにゃあと目論んでいる若者がいた――――――
(にゃう……)
シャム(16)。
シャムである。
「………………」
シャムは沈黙していた。
大量の悪霊を背中に受けながら、ただじっと黙り込んでいた。
もちろんその沈黙は、ネガティブな意味合いのものではない。
(こんにゃところで……負けるわけにはいかにゃい……!)
言わば、勝利へ向かうための偉大なる
(にゃああ……)
シャムは考えた。
この絶望的な状況を打破するためには、一体どうすればいいのか――。
自慢の楽器は自販機の下に落としてしまったし、そもそも身動きを取ることができない。しかし――――
「……フッー」
『完全に』、ではない。
手足の自由は利かないが、舌や
呼吸はできるし、鼻も利く。
言葉も発せるし、瞳だって動かせる。
生命を維持するためのささやかな行動までは制限されていない。
つまり――――
(いまのボクにできるのは――これしかにゃい……!!)
シャムの出した答えは――――
漏らすこと、であった。
「にゃらあああああああアアアアアアアアアアッ!!にゃんどりゃあああああああああああああああっ!!にゃん……あんっ!?あ…………あんにゃああああああああああああああああああああああああっ!!こんにゃりゃああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」
シャム、失禁する!
これまで何度も失禁を繰り返してきたシャムだが、今度の失禁は一味違う!
先ほどシャムが飲んだコーラの量は、わずか300ミリリットル。
うち、含まれていた糖分は、その全体容量350ミリリットル缶に含まれていた糖分38.5グラム(角砂糖10個分)の6/7に相当する33グラム。
つまり、シャムが摂取した糖分は、33グラム。
これに対し、シャムの腎臓の分泌速度×膀胱の面積は、約47000ヘクトパスカル。
よって、変換された黄金水の濃度はこいめ。
つまり、体外へ放出可能な総尿量は――――――
「ニャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッーーーーー!!」
300デシベル。(?)
(世界へ羽ばたけ……! ボクの水分よ……!)
シャム、オーバードライブ!
ホットパンツ、崩壊!
アンモニア濃度、150パーセント!
禁断の究極失禁奥義、発動!!!!
『
【……何ッ!?】
シャムの股間から放たれた
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