刑音楽部のガールズバンド

神山イナ

Introduction

第1話 メンバー紹介(in the CLUB ROOM)

「あぁん」


 ロッカーは多くを語らない。

 彼女たちは、たった一言でそのすべてを表現してしまうからだ。

 たとえば、現役女子高生による三人組ガールズロックバンド『デスペラードン・キホーテ』の六弦使いギタリストである折田おりた奈緒なおが、相棒のエレクトリックギター《ライトニング・テレキャスター》の弦を、部室での練習中にミスをして切ってしまったことに対する喘ぎヴォイス「あぁん」ですらも、それは始まりの合図として捉えることができるのかもしれない。


「ちぇっ、まあいいわ」


 金髪ミディアムのキツネ目ガール、家出少女歴三か月。

 小柄な身長150センチ、スリーサイズは69。

 学校指定の白いワイシャツを前開けし、そのぴちぴちのイエロウTシャツから窺い知ることのできる尖った乳首と音楽性を武器に、彼女は今日もギターをかき鳴らす。

 その弦を弾き千切りながら。

「あたしのロックについてきな!」




☆☆☆☆☆




「ねぇ、湿布しっぷ張るの手伝ってくれない?」


 続きましては風呂蔵ふろくらレイ。黒髪ロングのお姉さん。

 スレンダーボディに黒革のコートをまとう厚着系女子である。

 ブリンブリンのベースラインと、ぷりんぷりんの尻ラインが特徴的な四弦ベース担当である。セクシーダイナマイト担当でもある。

 しかし、その尻ラインをステージ上で見ることはかなわない。


「もっと下のほう!」


 なぜならば、彼女は腰痛。

 重たい楽器を持って立ち続けることは、彼女にとって酷な話である。

 よって、その問題点を解決するべく編み出されたのが、ステージ上であぐらをかき、恋人の《スティングレイン》を抱きかかえながら演奏するという『座禅奏法』であった。

 楽器を縦に持つことによって、本来ならば恥骨ちこつの右部分だけにかかってしまう負担を大幅にやわらげているのだ。


「もっと下!」


 今現在、国内でこの奏法を扱えるのは、風呂蔵レイと、大阪のオバ=チャン(42)のみである。かつては、これを学ぼうと多くの若者たちが大阪を訪れたらしいが、TAKOYAKIを食べて満足してそのまま帰ってしまったというエピソードが有名であるそうな。

「……もういいや、自分で張る」




☆☆☆☆☆




「やっぱりカラスだけじゃ朝メシ足りないよなあ……」

 グレンG。グレンGである。


 紅蓮寺ぐれんじ優子ゆうこ。通称グレンG。太鼓叩きドラマー

 80キログラム後半の肉体を誇る大柄のイケメン女子高生――

 すなわち、デブ・メガネである。


「このメガネ、美味うまいな」


 しかし侮るなかれ、ただのデブ・メガネではない。

 もともとは視力2.0の可憐な少女であったが、お寺の住職の娘として生まれた彼女は、生後三ヶ月でドラマーとして生きることを余儀なくされた。

 母親の叩く木魚ポクポクのリズムを聴きながら育ったことで、打楽器の魅力に取り憑かれてしまったのだ。

 やがて自宅に棲まう鎮守神ガーディアンに祈りを捧げ、彼女はその容姿と視力を引き換えに、唯一無二のドラミングセンスと退廃的な体脂肪をその身に授かった。

 彼女はドラムという楽器を愛するがあまり、女を捨てたのだ。


「ぺっ。ごちそうさまあ……」


 その演奏スタイルも破滅的有様で、どこから説明すればいいのか、まず、彼女は、ドラムスティックを持たない。

 ドラムを、素手で叩く。いや、殴る。

 ロータムを殴り、ハイタムを殴り、スネアを殴ってシンバルにヘディングする。バスドラムは優しくなでる。

 その演奏スタイルがゴリラの生態ライフスタイルに似ている、というようなところから、生物学者たちによって『ドラミング奏法』と名付けられた。ギャンブル好きの学者からは『台パン奏法』とも呼ばれている。

 野生的な音楽性は、多くの野生動物わかものたちとりこにする可能性を秘めている。このバンドで一番魅力的なのは、実は彼女なのかもしれない。

「おい、カップラーメン出せよ」




 以上三名。

 ギターと、ベースと、ドラムの三人編成。

 ボーカルはいない。

 ボーカルはいらない。

 彼女たちの音楽に、歌声は必要ない。

 言葉など、その轟音のなかでは意味をなさないからだ。

 彼女たちの奏でる《刑音楽》とは、楽器の振動を介して拝聴者リスナーの耳穴へと侵入し、その魂をへと運ぶ橋渡し的な音楽ジャンル――つまり、ロックンロールである。

 これを用いて、彼女たちが伝えたいメッセージは、ただひとつ――


「あたしらは、世の中をこわしたいだけなの」

 奈緒は多くを語らない。

 奈緒のこの発言は、自分以外のすべての音楽に対する宣戦布告としてとらえてしまってかまわない。


 断言しておこう。現代の日本においてロックというジャンルは流行らない。

 それでも彼女たちは、ロックでこの世の中を変えようと言うのである。

 つまり、この物語は、ロックをこよなく愛する彼女たちが、現代の生ぬるい音楽シーンに制裁を与えるべく演奏する過程を描いた壮絶な戦いコンサートの記録である。


 もう一度言おう。ロッカーは多くを語らない。

 ゆえに、この物語はやや伝わりづらいのかもしれない。


 ……少し語りすぎてしまったようだ。駄文で失礼ロックンロール

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