天才美少女カクヨの日常

宮沢弘

第1話カクヨ研究所

 天才美少女カクヨは、あまりに天才すぎた。幼さが残る見た目、綺麗というようりかわいいという容姿、ボブの髪型。中学生といっても通用するだろう。通用する、ではない。実際に、小学校時代から飛び級に飛び級を重ね、15才だ。だが、IQは100,000を超えると推定されていた。そして複数の学位を取得していた。

 カクヨを入学させてしまった大学は、カクヨが複数の学位を同時にえるにいたり、それも複数の学位を同時にえるということの二回目の事態にいたり、彼女に対しての処遇を考えざるをえなかった。大学にいられても正直迷惑だ。だが、彼女を放り出したとすれば、世間から何を言われるかわからない。あるいは、移った先で彼女がなにか発見や発明をしてしまえば――もちろん、するに決まっている――、この大学においても大損害になる。膨大な特許。それが他の大学に奪われることになる。

 そこで、大学は「カクヨ研究所」を設立し、カクヨをそこにおさめておくことにした。なにをするかはカクヨの自由。そして機材は好きに購入できた。ただ、人員は助手のアラサーのクヨム君ただ一人だった

 そしてカクヨは今日もカクヨ研究所の一室でハンモックにゆられていた。

「あ〜ぁ、退屈。なにかおきないかな〜」

 またハンモックをゆらした。

「こういうときにはクヨム君が、入り口をバン!って」

 そう言って入り口を見た。

 バン!

「博士! 事件です!」

「キタキターーーーーーーーー!」

 カクヨはハンモックから降りるのももどかしく、転げ落ちた。

「イタタタ……」

「博士! 大丈夫ですか?」

「だ、だいじょぶ」

 赤くなった額と頬と肘を撫でながらカクヨは答えた。

「それで、クヨムくん。事件というのは!?」

 立ち上がり伸びでもするように精一杯体を伸ばし、腕を組んで訪ねた。

「はい、博士。こちらの方です」

 そう言って、入り口の外から一人の女性を迎え入れた。


「なるほど〜〜〜〜。帰宅したらご主人が亡くなっていたと。それも部屋の中には争った形跡がある。凶器によるものでもあり、事故ではなく事件だと」

「はい」

「事件以外には考えられませんよね、博士」

「クヨム君、今は静かに!」

「はい」

 クヨムは応接用ソファーの上で身を縮めた。

「えへ、えへ、えへ、えへ、えへへへへ」

 カクヨの頭脳が超超超高速で情報処理をしているの口癖、というかたぶん意識していないだろうが、そういうときに漏れる声だった。声だけでなく顔も緩んでいる。

「わかりました!」

 顔つきが引き締まり、一言そう言った。

「まず、凶器に残っている指紋などですが、それは偽装です。いまどきそんなどどうやってでも作れますから」

「なるほど」

 クヨムが感心して声をもらした。

「それと、部屋の中には争った形跡があるということは、ご主人が招き入れたと考えられます。つまり、どういう形かはともかく、顔見知りだったわけです」

「あぁ!」

 クヨムがまた声をあげた。

「では、誰が犯人なのか」

 その声に応えるように、クヨムはソファーから乗り出しカクヨに身をむけた。

「以上のことから、犯人はご主人の弟さんです!」

 クヨムも女性もどういうことかわからないようだった。

「いや、博士! 他の顔見知りという線は?」

「ありえません!」

 クヨムはまたソファーの上で身を縮めた。

「まぁ、いいですから、その線で調査してみてもらってください。警部のカっちゃんにはカクヨから電話しておきますから」


 数日後、犯人逮捕が報じられた。カクヨの推理どおり、殺害された人の弟が犯人だった。

「博士のおっしゃるとおりでしたね〜。まったく僕なんかは」

「そういう後ろ向きなとこがクヨムくんの悪いとこだよね〜」

 そういうと、カクヨは小さな脚立からハンモックに乗って寝転んだ。

 そしてカクヨは呟いた。

「あ〜ぁ、退屈。なにかおきないかな〜」


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