第17話 デミアントとの遭遇
翌日になり、私達はエスカロ高原へと向かいました。
今回の討伐は、魔物の数が多いということから結構な大所帯になっています。
途中、丘陵を進んで行きます。
幼い頃、マリーと一緒に遊んだあの丘によく似た場所です。
そこには花畑こそありませんが、見渡す限りの大草原が広がっていました。
「もう少し進むとデミアントの生息地だ。ここらにはまだ自然が残っているが、そこはアントライオンの影響で荒野のようになっていると聞いている」
ロデオ様は、少し緊張の面持ちでおっしゃりました。
つまり、景観が変わることがアントライオンの住処に近付いた合図ともなるのですね。
アントライオンは決して弱い魔物ではありません。
ウィルクの町への道中で遭遇したあの時も、エプリクスがいなければ全滅していた可能性があったほどの魔物です。
今回は、そのアントライオンが更に複数いる上、デミアントという別の魔物もいるのです。
対策として魔道士団に参加していただいたと言っても少数です。気を抜くことはできません。
「地図によると、目的地まであと少しだ。着く前に、ここらで一度休憩をとるぞ」
ここまで結構長い道のりだったこともあり、疲弊している方々も大勢見えます。
主に魔道士の方々が体力の限界みたいです。
ロデオ様からの号令で、私達も休憩を挟むことになりました。
◆◇◆◇
「メアリ様は、アントライオンと戦ったことはあるのですか?」
「そりゃあ、あたしは冒険者だからね。他の冒険者と組んで何度か戦った事はあるよ。楽勝だったけど」
水筒の水を飲みつつ、メアリ様は得意そうに答えました。
「そうなんですか……さすがはメアリ様ですね!」
私達があれほど苦戦したアントライオンを、メアリ様には楽勝と言われてしまいました。
「まあでも、弱点さえわかっちゃえば、どんな敵にだって戦い方があったりするものよ」
「弱点ですか。あんなに強靭なアントライオンにも、そんなものがあるんですね」
「うん。アントライオンなんかは特に火に弱かったりするからね。これは虫系の魔物に大体当てはまることなんだけど」
あの悪魔に弱点があるだなんて、思いもしませんでした。
ということは、アントライオンにとってエプリクスは天敵のようなものだったのですね。
「でも、やっぱり他の協力も必要だよ。だってあの魔物、砂で火を消そうとしてくるし」
「ああ……」
そういえば、そんな動きしていましたね。
「だから、足止めをしてくれる戦士系の人の役割も重要だったりするのよ。詠唱の時間稼ぎもしてくれるし」
「なるほど……」
アントライオンの弱点は火。
火属性の魔法でしたら、私も幾つか習得させていただきました。
今回はこんなに大勢の騎士団の方々も一緒ですし、砂による消火にさえ気を付ければ、エプリクスを使わなくても何とかなりそうです。
「アントライオンくらいさっさとやっつけて、あたし達は騎士団とデミアントの戦いを高見の見物と行きましょうか」
「それは……ちょっと……」
やはり魔物とは言っても、前世の自分と同類の生物が、騎士様達に剣で斬られるところを見るのはなんとなく嫌です。
できれば、アントライオンを討伐したら私は帰りたい……。
「リズちゃんって、もしかして虫とか嫌い? なんだか顔色悪いし」
「え……? そ、そんなことないですよ! どちらかというと虫は好きな方ですし!」
「そうなの? それはそれでちょっと意外だわ」
どちらにしても、もうすぐ戦いが始まってしまう……。
心を落ち着けるために、私も少しお水を飲んでおきましょう。
冷たい水が、乾いたのどを潤します……。
「……メアリ様、ちょっとお花摘んできます」
急に冷たい水を飲んだせいか、こんな時なのに催してきてしまいました。
こうなると場所を探さなくてはいけませんし……こういうところは、アリだった頃と比べて不便ですね。
「いってらっしゃい、気を付けてね」
まだこの辺りが自然の残っているところで良かったです。
荒野に入っていたら、さすがに我慢するしかありませんもんね。
とりあえず、茂みになっている場所を探すとしましょう。
◇◆◇◆
すっきりとしたところで、私は近くにあった沢を見つけました。
こんな高原にも川が流れているのですね。
せっかくなので、水筒に少し水を汲んでいきましょうか。
すると、私の背後を誰かがツンツンと突いてきます。
もしかして、メアリ様?
あの方は魔道士様として尊敬はしていますが、急に抱きついてきたり、頬ずりしてきたり……そういった突拍子もない行動に出るところがあります。
あまりエスカレートする前に、たまには少し怒った方が良いのかもしれません。、
「メアリ様、悪戯はおやめ……え……?」
『────?』
振り向くと、そこに立っていたのはメアリ様ではなく、私より少し大きいくらいの魔物でした。
「……デミアント?」
アリの頭に六本の手足、前世の
魔物は再び触覚で私を突いてきました。
「ちょ、ちょっと! くすぐったいです!」
抵抗しても、彼(彼女?)は私を触覚で突くことをやめません。
そういえば、前世ではこうして触覚を使ったコミュニケーションをしていましたっけ。
でも、人間になった私には、くすぐったさしか感じません。
ついに耐えきれなくなり、私はデミアントの体を軽く両手で押しました。
「あ、ごめんなさい」
私のとった行動に驚いたのか、デミアントはあっさりと尻もちをついて倒れてしまいました。
人に害を為す魔物と聞いていましたが……これはちょっと意外です。
「あの……大丈夫ですか?」
魔物なのに、酷くうろたえてしまっています。
触覚も垂れ下がり、怯えているようにも見えます。
人間になってしまった私には、この魔物から発せられるフェロモンはわかりません。
ですが、なんとなくコミュニケーションの仕方は覚えています。
指でデミアントの体を数回突いてみました。
『────!』
デミアントは顎が大きく開きました。
その表情は、どこか喜んでいるようにも見えます。
こうしていると、なんだか私も前世に戻ったような感じで嬉しくなってきました。
よく見てみると、デミアントの体は少し汚れてしまっています。
私は水で濡らした布を使い、デミアントの手足と触覚を拭いてあげました。
すると、デミアントも顎を細かく使い、私の髪の毛をグルーミングしてくれました。
どうやら、久しぶりの同類とのコミュニケーションは上手く行ったようです。
「あの、言葉は喋れないですよね?」
『────?』
無理みたいです。首をずっと捻っています。
そんなに捻ると首が落ちてしまいそうなので慌てて止めさせます。
でも、一つわかった事があります。
このデミアントは人に害を為すどころか全く無害な魔物のようです。
ロデオ様達に説明しなくては……このままでは|無益な殺生が起こってしまいます。
「私に付いてきてもらえますか?」
『────?』
ああ……やっぱりわからないですよね。
どうしましょうか。前世では、こういう時、相手を咥えて連れていったりしたんですけど……。
『────!』
デミアントが、私に触角をピタッと付けてきました。
どうやら、わかってくれたみたいです。
デミアントの触覚が離れないように、慎重に歩いて行きましょう。
さて、ここからが問題です。
この子をロデオ様達のところへ連れて行って、果たして無害な魔物だとすぐに信じていただけるのでしょうか?
それどころか、出会い頭に斬りつけられてしまう可能性も考えられます。そうなっては居た堪れません。
振り返りデミアントの方を見ると、無邪気な様子で顎を動かしています。
この顎は、時として強力な攻撃手段にもなります。
ですので、なるべくなら騎士団の方々の前では動かさないでほしいのですけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます