銀河鉄道の恋

@RelaxinHIGH-LOW

第1話

発車のベルが鳴った。

普段なら不快に感じる線路の継ぎ目を乗り越える振動だが、今は不思議と心地良い。

そっと窓を開けると、清々しい夏の匂いが鼻腔をくすぐった。ここはいつでも夏の陽気を漂わせているのだろう。いつも乗っていた通学電車の空気とは大違いだ。

古ぼけた木の窓枠には細かな傷がたくさん入り、この列車の歴史を物語る。

僕が初めてこの列車に乗ったのは高校2年生の時だった。

僕はあの時のことをはっきりと覚えている。


ボイジャー1号が太陽系を脱した。

そのニュースに小学生の頃の僕はおおげさなくらい喜んだ。人類にとって大きな変化。僕も何かが変わるんじゃないかと密かに期待をしていたのだ。

無邪気なものだ。

だけど、世界は当たり前のように粛々とさりげなく、けれど確実に昨日を繰り返していく。つまらないな、と呟いてみても誰も理解してくれない。結局は世界が変わることも、自分が変わることを諦めていた。

それから、6年ほどが経って高校生になった僕はそんなことをすっかり忘れて、無意識のうちにのせられた大人になる線路を、ゆっくり辿っていた。明日を見つめる余裕も、今を見つめる余裕も無かったと思う。ただ、やってくる時を嚥下していた。

高校2年生の二学期も終わりが近づく11月になった。

とても寒い夜。

僕は近くのコンビニに夜食を買いに出掛けた日のこと。そこで僕は雪羽に出会った。


僕と彼女が初めて出会った様子というのはかなり滑稽なものだった。

彼女はコンビニの駐車場の暗いところで一人うずくまっていた。白いワイシャツに淡いブルーのベストという制服で同じ学校だと言うことは分かったが、それでも面識のない、しかも一人で暗いところにうずくまっている少女に話しかけるというのは勇気がいるものだ。

しかし、その日の僕は普段より少しばかり勇気があったようだ。単なる気まぐれだったのかもしれない。とにかく僕は彼女にそっと話しかけてみた。


「…何してるんだい?」


思いの外ぶっきらぼうな詰問調になってしまったのを軽く後悔しながら、少女の前にしゃがんだ。

少々乱雑な揃え方をした前髪の隙間から白い肌が見えた。

彼女が何かつぶやく。しかし、その声はあまりに小さくほとんど聞こえなかった。


「え?」


僕が問い返すと、彼女はやっと顔を上げて僕の眼を見た。大きく潤んだ瞳は女性経験ゼロの僕を動揺させるには十二分だった。


「…星を見てて…」


やはりぼそぼそとした喋り方だったが、辛うじて聞こえた。


「星を見てて?」

「…頭を壁に打ちました。頭が割れそうです」


マンガみたいだな、と思った。星を見上げていて頭をぶつける、現実でそんなシチュエーション見たことはない。マンガでもそうないか。


「…動ける?」


僕は制服で来た過去の自分に感謝しつつ、彼女に差し伸べた。彼女は戸惑いながらもその手をつかんだ。 柔らかくて暖かい。


「…あの、手…」


言われてはっと気付いた。すでに立ち上がっている彼女の手を僕は、しつこく握っていたのだった。


「や、ごめん」

「いえ…、ごめんなさい。あの、ありがとうございました。あなたに声をかけられてなかったら、あのまま眠ってしまっていたかもしれません」


大真面目にそんな風なことを言うと、彼女は大きく伸びをして笑った。

屈託のない、素敵な笑顔だった。


「ゆきは、と言います。1年生です。あなたは2年生でしょうか?」

「ああ…。僕は御宙という。間違っても名前ではなくて名字だ」


みそら、と彼女は口の中で僕の名前を転がした。初対面の女子に、たとえ好意の欠片も無くても名前を反芻されるのにはドキドキしてしまう。女子耐性ゼロの悲しいところだ。


「覚えました。御宙先輩、ありがとうございました」


ああ、とも、うん ともはっきりしない返事を僕はしたと思う。なにしろ人付き合いの苦手な僕にとって、先輩と呼ばれるのはほとんど無かったからだ。恥ずかしかったのだ。


「それで、雪羽…さん。君は何の星を見ていたんだい?」


恥ずかしさを紛らわすための適当な質問に、彼女はこれまでとは打って変わって眼を輝かせながら説明を始めた。


「オリオン座ですよ。知りませんか?真冬には本当に綺麗ですよ。反り返って見上げるほど綺麗です。バルタン星人なんか目じゃありません」


バルタン星人?なぜロマンチックな星座の話に、ドラえもんにジャンケンで絶対負けるであろう怪人が出て来たのだろうか?

すると彼女は僕の怪訝な顔を見て、イタズラがばれた子供のような表情を浮かべた。


「ごめんなさい。バルタン星人ではなく、さそり座のことです」


頬を赤らめて弁明する雪羽に、僕はうっすらと可愛いな、と思った。

それから、僕は彼女を家まで送ってあげた。僕等は家に至るまで、色んな宇宙の話をした。彼女は本当に色んなことを知っていて、様々な星についての知識を教えてくれた。

僕はほとんどうなづくことしかできなかったが、唯一惑星達の間を孤独に旅する惑星探査機については彼女を上回る知識を披露できた。

彼女の家に着いて、その背中を見送る時に僕はほんの少しだけ、明日が楽しみに思えた。


僕はいわゆる恋、というものをしたことがない。強いて言うなら惑星探査機に恋をしている。

単なる無機物、感情も持たない人工衛星に、と言われるかもしれないが僕はそう思わない。一人で広漠な宇宙を旅して、最後は何処かの星にぶつかって四散するか、誰にも知られることなく遠い宇宙に消えゆく。

彼等は強くてロマンチストだ。

例えば、最初に言ったNASAの ボイジャー探査機 だって人類がだれも行ったことがない太陽系の果てへの旅の途中、小さな太陽系の写真を人類にプレゼントしてくれた時はとても感激したものだった。だけど、目的地である土星への道すがらや打ち上げの時には誰も相手にしていなかった。 そんな中で僕は彼が流砂のようにサラサラと光る星々を仰ぎながら、遥かな小惑星を目指して飛んでいた光景を想像し、なんてロマンチックなんだろうかと感動したものだった。

こう言えば、少しは僕の特殊な恋愛事情が分かってもらえるだろうか。

ところが僕は人に恋をした、らしい。


雪羽とはそのコンビニでたまに会うようになった。

僕達は心もとない月明かりに照らされた夜道を、二人並んで宇宙を話した。それこそ夢のような時間だった。


「ボイジャー1号は何処を飛んでるんだろう」


ある日、僕は不意に呟いた。特に何かの意図があったわけでは無かったが、雪羽は小首を傾げて何ですか?それ、と問うてきた。


「ボイジャー1号。土星探査を目的に打ち上げられた人工衛星で、数年前に太陽系を出たんだ」


なぜか胸がチクリと痛む。もうとうの昔に諦めたはずのことなのに。


「太陽系を。凄いですね。想像も尽きませんが、そこは寒いんでしょうか」


雪羽の感傷的な言葉に少し苦笑して僕は答える。


「寒い、だろう。誰もいないから」

「誰もいないのは寒いですね。私がそうでした」


驚いた僕は雪羽を思わず見つめた。すると、僕の視線に気付いた雪羽は崩れそうな微笑みを浮かべた。


「宇宙にしか興味のない女なんて、友達がいてもそれは上辺の友達です。本音が、建前に過ぎないのと同じようなものです」

「…寒かったかい?」


慎重に、言葉を選んで僕は言った。


「少し。でも慣れてましたから」


何も言えず、雪羽を見つめる。


「そんな顔しないで下さい。昔の話です」


何かが喉元にせり上がった。僕は苦しみながら言葉にする。


「ボイジャーは…」


言いかけた言葉が、また戻る。でも、また引っ張り出した。


「もう寒くなんかないだろう」

「え?」


唐突な言葉に雪羽はきょとんとする。それでも僕は続けた。続けなくては、いけない。


「星が見守っている。原子力の炎が消えてもボイジャーは寒くなんか、ない」


雪羽は一瞬眼をしばたたかせていたが、やがてふっと心からの笑みを浮かべた。


「ボイジャーは、暖かいんですね。今でも」

「ああ、きっとそうだ。そしてこれからも暖かいままだろ」

「はい」


そうだ、ボイジャー1号は寒くなんかない。今更気付いた。それは僕等も一緒だ。小さな世界で僕等は二人。

儚い希望。

淡い幻想。

現実というハンマーの一撃を浴びればすぐに粉々になってしまいそうだが、それでも僕等はその世界を二人で必死に守っていた。

宇宙の話でつなぎとてられた紐をほどけないようにしていたんだと思う。世間知らずのティーンエイジャーの細やかな抵抗だった。


寝ても覚めても雪羽のことしか頭に浮かばない。星空の美しさに嘆息するように見上げる、そのわずかに影をさした横顔。

これが人に恋するというものなのだなあと思うと、その辛さを思い知ることにもなった。

コンビニの照明に照らせれた雪羽の影は、とても心もとないものだった。オリオン座を見つめる彼女、人工衛星の話を聞く彼女、玄関に消えていく彼女。その全てが幻なんじゃないかと、次に会うまで不安で仕方がない。

別れの日がいつかくるんじゃないかと。そんな割れたガラスのような尖った想像が僕を苦しめた。

僕は、そんなことはないと自分を落ち着けた。ありえない、と。

実際、昨日まで一緒に歩いていた人間が翌日には消えているということはほとんどあるまい。そんな悲劇が僕に降りかかるはずがない、と。 そう思って、雪羽との日々を過ごした。


月明かりが頬を濡らす時刻。

僕は、読みかけの本を置いてのっそり立ち上がって家から踏み出した。

特に行き先があったわけではない。何故かは分からないが、とにかくその日は初めて外に出た。雪羽のことばかり思って心が破裂しそうで、とても外出する気になんてなれなかったのだ。

春が近いといってもまだまだ暖かくはない。しんしんと寒さが伝わってくる中を僕はぼんやりと歩いた。

気が付くと、雪羽と会うコンビニに着いていた。砂漠の中のオアシスのように、広漠たる夜の世界の中に明明ときた照明で存在感を放っていた。

僕は店内に入るわけではなく、その照明が照らさない影の中、車止めに腰掛けて空を見上げた。

そこにはいつもと変わらない、美しい星空があった。

雪羽。雪羽。

君は今、なにをしているんだろう。

これまでも、コンビニに行っても雪羽と会えない日もあったが、今日は特別寂しく感じた。

僕はやり場のない気持ちを抱えて、背中をコンビニの壁に預けた。

オリオン座が光っている。

いつもと変わらない星空は痛いほど美しいものだった。

僕は少し心が軽くなって、そのまま瞼を閉じた。

しかし、鋭いけれどどこか物悲しい不思議な音が僕を現実世界に引き戻した。

同時に男とも女とも分からない不思議な声だった。その声は、銀河ステーション、銀河ステーション、と繰り返した。

眼をゆっくり開けると、億万の蛍の灯火を箱に閉じ込めて、さあっと一気に開けたかのようなただ明るいだけではない、優しい光線が飛び込んできた。思わず僕は何度も目をこすったが、それは幻ではなく目の前に確かに存在していた。

僕は夢遊病者のように木の扉を押し開けて中に入り、赤いペルシャ絨毯のように見事な装飾が施されたシートに座った。そして、心地よい振動が僕を落ち着かせた。ここが列車の中だとまもなく気が付いた。普段なら間違いなくパニックだろうが、その時の僕に超自然的なことに驚くことができるほどの余裕はなかった。

小さな黄色い電灯に照らされた車内は、がら空きだった。

すぐ前の席に、窓枠に頬杖をついて外を眺める少女がいることに気付いた。そして、その少女の白い横顔に僕は胸が締め付けられた。


それは雪羽だった。


僕が、雪羽、君はいつからここに?ここはなんなんだ?と聞こうと思ったときに雪羽は視線だけこちらに向けて口を開いた。


「こんばんわ、先輩。先輩は普通の人より感度が高いようです」


とよくわけの分からないことを言った。

その疑問は顔に出ていたようで、やはり彼女は視線だけこちらに向けて続けた。


「まあ、今はまだそんなことはどうでもいいことです。先輩、鉄旅っていうんですかね?こういうの。楽しみましょう」


雪羽はそうはぐらかすように言うと、少し俯いて笑った。

僕は妙な心持ちのまま頷いた。

雪羽は、白鳥の停車場までです、と呟いて視線を手元の星座早見のような路線図に落とした。その路線図には深い青の紙上に、細かく停車場や三角標、泉水や森が、青や橙や緑や、美しい光で散りばめられていた。

僕はその美しさに目を見張りつつ、自分がその路線図を持っていないことを残念に思った。


「これは…なに?」


僕は小さな声で雪羽に問うた。雪羽は外をみて黙ったまま答えなかった。

窓の外ではクリスマスの町並みを飾る装飾よりも遥かに美しい光が輝いていた。そこかしこに島があることに気付いて、目を凝らすとその島々には立派な白い十字架や鮮やかな朱色の鳥居が立ち並んでいた。それらは微かに金色の円光をいただいて、静寂に身を任せるかのように永久に立っているのだった。


「ハレルヤハレルヤ」「南無阿弥陀仏」「ああ、神様」


前からも後ろからも吐息のような声が起こった。車室の旅人たちはみなそれらに思い思いの格好で拝んでいた。

僕はぼんやりとそれらを眺めた。雪羽はただ目を閉じていた。


「先輩」


穏やかに目を閉じたままの雪羽が言った。


「なに?」

「これは銀河鉄道ですよ。死者の汽車、銀河鉄道」

「…」


思わず絶句した。

銀河鉄道といえば宮沢賢治の名作。その作品の中で銀河鉄道は死者が乗るもの。そして、主人公ジョバンニと同乗する親友カムパネルラはすでに死者。


「…私は死んでしまったんです」


何気ない風に言ったその声は震えていた。


「交通事故でした。先輩とコンビニで会おうと思って出かけたら轢かれちゃいました」


やはり目は開けない。


「気付いたら、この汽車に乗ってて…。最後に夜空の星を見て死んだ人はこの汽車に乗れるそうです。それであの世に行く旅路につくんです。現実世界と死者の幻想世界の狭間のこの汽車で会いたい人と会えるそうなんです。感度がよければらしいですが」


さっきの言葉はそういう意味だったんですよ、と静かに言って目を開けた。初めて会った時と同じ、涙が零れおちそうなほど潤んだ瞳が僕を捉えた。

僕は思考がまとまらない。これは夢なのか、現実なのかも分からない。


「…なんなんだ。いいから帰ろう。星の話をして家に帰るんだ」


頭が痛い。目の前の雪羽は寂しそうに微笑んで応えない。

これは現実じゃない。嘘っぱちの世界だ。目が覚めれば、きっと目の前に心配そうな顔をした雪羽が立っているはずだ。


「ごめんなさい。でも、私は寂しいですけど哀しくはありません。ボイジャーの話、覚えていますか?」


頭が、張り裂けそうだ。


「太陽から遠く離れて、誰にも声を聞き取ってくれなくなっても、原子力の火が消えても、ボイジャーは星が見守っているから寒くないって…。私は先輩が見守ってくれていましたから、寒くなんかないですよ」


声に涙が滲む。やめろ、やめてくれ。思考がまとまらない。


「もうすぐ白鳥の停車場です」


溢れる感情を押し殺すかのように、涙に詰まった声で雪羽は言った。


「先輩が私を認識できるのはそこまでです」


涙が止まらない。

何か言いたいことがあるのに、口が、頭が、何もかもが痙攣して思い切り殴られたかのように動かない。

何か大切なことを伝えなければいけないのに。


「先輩」


いつの間にか雪羽の手には、痛いほど透き通った金剛石が光っていた。


「これは、私の"想い"です。これが砕けた時、私は本当に消えてしまいます。その前に先輩に言っておきたいことがあります」


雪羽、と僕は声にならない声で名前を呼んだ。

彼女は笑っていた。涙を光らせながらも、彼女は気高く笑っていた。


「これまでありがとうございました…」


待て。待ってくれ。


「…御宙先輩のこと……」

「待っ…‼︎」


雪羽に伸ばした手は空を切った。

赤いペルシャ絨毯のようなシートの上にはただ砕けて輝きを失った金剛石の欠片が落ちていた。やがてそれらも風に飛ばされて行った。

僕は茫然として、涙を流した。

「…現世のお客さん。次の駅で降りなさい。あなたの切符はこの幻想第4次空間では通用しない。不完全な第3次空間と不完全な接線第4次空間の狭間まで」


バリトンのような低く、枯れた落ち着いた声が響いた。気が付くと、茫然とする僕の横には紺色の燕尾服のような制服に、深く帽子をかぶった背の高い男が立っていた。


「…雪羽は…。あなたは、あなたは誰なんですか…?」


男は先ほどと全く口調を変えずに続ける。


「現世と幻世の案内人。分かりやすく言うならこの銀河鉄道の車掌。あの少女…元條雪羽は幻想第4次空間に移った。現世の君に会うことはない」


男はそう言うと、僕に背を向けた。


「…なんで、なんで彼女は…。死んだんですか⁉︎何か悪いことをしましたか⁉︎彼女は、彼女は星が好きなだけの…!」

「交通事故。大型トラックに轢かれ、後輪とバンパーによって顔面の左半分を失った。そこに悪意はない。ただ死んだ、それだけだ」

「なっ…」


それだけ?雪羽が死んだことを、それだけ?


「生きとし生けるものをいつか死ぬ。生物が生まれる目的は子孫を残すことか死ぬことだ」


だが、と男は振り返った。相変わらず口調は変えないまま。


「死ぬ時に後悔しない生き様をするのが最大幸福だろう。あの少女はそれができた。いつかお前もこの列車に乗る。その時のお前が抱くのは後悔だろうか幸福だろうか、どっちだろうか」


無感情にそう言うと、男は懐から鈍く光る切符切りを取り出した。

そして僕に驚く暇も与えず、切符を切った。それが僕の切符であろうことは明白だ。

そして僕は意識を失った。


あれから大変だったな、と移り行く景色を見ながら呟いた。

あの後、眩しく白い病院のベッドで目を覚ました僕は、コンビニの駐車場に放り出されたように横たわっていたのを発見され、ここに運び込まれたらしい。

そしてその翌日、新聞の片隅にとある少女がトラックに轢かれて無惨な死体になったことを知らせる記事を見つけた。

それからのことは、ここで語るほどでもない。愛する人を失った男の脆さは言うまでもない。

あれから何年経ったか分からないほどの時を過ごした僕だが、ガランとした心が埋められることはなかった。あの日、雪羽に言えなかった言葉をずっと考えてきた。

石炭袋のように黒々としたブラックホールの底なし沼の上にかかる鉄橋を通過する時、遠くにプラチナの十字架が見えた。

雪羽。

もうすぐ君に会える。

君に言うべき言葉を、僕はやっと見つけたんだ。

ホームできっと待ってくれているだろう君に贈る言葉を。


雪羽、僕は君のことがどうしようもないくらい大好きだった。

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