二十四、【第二部】

 第二期


『さようなら』

 須*十四歳の作品。白菊だけの絵である。思い思いの方向を向き、まるで雑草のように雑多に咲き誇るそれらの根元には、地面に横たわる人の影が見えるが、男性とも女性ともつかず、奥に描かれた菊の一輪のみ、赤い絵の具を乱雑に塗られている。まるで不思議の国のアリスの赤の女王だと評論する者もいるが、これは恐らくは、亡くなった『赤髪の少年』のモデルでもある友人を表しているのだろうと考える。あるいは、彼を描き、筆に赤い絵の具を染みこませ続けた須*自信でもあるのかもしれない。

 この作品は、**原爆資料館に寄贈され、現在も飾られている。

 ここから須*の作品は、植物、特に花を描くことに特化されていく。



『夏を殺して』

 須*十七歳の作品。タイトルに似合わず、描かれているのは土手に咲き誇る勿忘草の小さな優しい花畑だ。花畑を手前に、奥には土手に座る人々の影が描かれており人影は青空に溶けそうな灰青でべたりと塗られている。

 また、勿忘草の隣り合う二輪には、朝露、或いは雨の雫とも取れる水滴が付着し、零れており、二輪が泣いているような錯覚を起こされる扇情的な絵画だ。タイトルのセンセーショナルさもあいまって、特に人気の高い作品である。東京国立近代美術館に寄贈されている。



『母』


 須*十八歳の作品。須*本人の面影を浮かべた、優しい女性を描いている。闘病していた須*の母親の病室で描かれたものだと言われているが、その背景には薔薇柄の壁が描かれており、花畑で微笑む女性はさながら聖母のようでもある。後のインタビューにて、須*は「本当は描きたくなかった」と語っている。以下は、そのインタビューでの須*の回答である。

「母の時間を閉じ込めることはしたくなかった。けれど、母を失うと思った時に、描かなかったら、そして母にこの絵を見せなかったら後悔すると思った。けれど描き終えた翌日、母は死んだ。やっぱり、描くべきじゃなかったと思った。もう人は描かない」

 現在は、須*の父親が保管している。





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