【理佳のターン】


「おかえりなさーい、あ・な・た」


「……なにを企んでいる?」


 が、ガードが固い。


「ご飯にします? それとも、お風呂? それとも、わ・たーー「だから、なにを企んでいる?」


 や、やっぱりガードが固い。


「ふっ……修ちゃん、その警戒心、あっぱれ。よくもここまで育ったと言わせて頂きます」


 無条件で人を信用する根っからのお人好しである夫が、いつの間にか警戒心旺盛になったのはいつからだろうか。サプライズで富士山にデートに誘ってサンダル・短パン・半袖で登らせたことだろうか。それとも、石見銀山遺跡で迷子にさせて、行方不明者としてテレビニュースで放送されたときだろうか。


「……俺は汚れたよ」


 し、失礼。


「戦国では有能なスキルだよ!」


「ここは現代、平和な国日本だ。ちなみに、来年は平和オリンピックだ!」


「お・も・て・なーー「黙れ」


 き、厳しい。


「パパーーーー!」


「り、凛ちゃーーーーーん!」


 我が娘との熱い抱擁を交わし、ぐるぐるぐるぐる回っている。私には警戒心旺盛な夫だが、かなりの娘バカなので、そのへんの反応はゆるい。今度隙を見て、娘経由でいたずらをかけてやろうと心に決めた。


「ご飯できてるよ」


「おう。ヨモは?」


「今は寝てるよ。凛と違って割と夜泣きがひどいのよね」


「……ご苦労さん」


 そう言って修ちゃんは頭をなでてくれる。それだけでも、結構嬉しかったりするのは、悔しいから内緒だ。


「ほーんと、凛は全然泣かなかったのにね」


 赤ん坊には個性があると言うが、正直ここまでだとは思わなかった。ママ友に聞くと、むしろ凛のようなケースが超レアらしいのだが。


「凛、偉い?」


「偉いというより、ちょっとお医者さんが元気すぎて心配してたくらいだったけど」


「お、お前。そこは偉いでいいんだよ。凛ちゃーん、偉い偉い」


「エヘヘ……」


「……」


 あまりに親バカ過ぎる。まるで、我が父を見ているようで、娘の将来が不安だ。


「今日は俺見ようか?」


「んにゃ。夜泣きの世話は、専業主婦の仕事。修ちゃんは、薄給の方をなんとかして」


「ふ、ふざけんな。普通だよ、普通」


「まあ、とにかく。子守りは私に任せなさい」


「ん……でも、本当に辛くなったら言えな。俺とお前の子どもなんだから」


「修ちゃん……」


 なんていい夫なんだろう。この人と結婚して、本当によかったと心から思える。


「……はは」


「エヘヘ……」


「っと、そろそろヨモが起きてくるかもしれないから。修ちゃん、湧いてるから、先にお風呂入っちゃって」


「おうさ」
























 冷たーーーーーーー! と夫が叫んだ。

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