宝くじ
【妻のターン】
「ただいまー……なにやってんの?」
夫がリビングに並べられた宝くじを呆然と眺める。
「エヘヘ……買っちゃった」
「そんな可愛く微笑む量じゃないぞ」
全力でひいている修ちゃん。
確かに、5万円分は少し、買いすぎたかもしれない。
私は、宝くじが好きだ。あの、当たるか当たらないかの瞬間がたまらなくゾクっとする……まあ、当たったことはないのだが。
「あっ、でも俺も貰ったんだ1000円分」
「ププッ……よかったね」
「な、なんなんだそのムカつく感じは」
1000円ぐらいの投資で幸運を得ようとする浅はかな夫を嘲笑ったまでだわよ、とは怒られるから言わない。
「まあ、せいぜい頑張って。でも、修ちゃんは私というウルトラ宝くじ的幸運を手にしたわけだから、もう幸運は残っていないと思うけど」
「……外れだよ、お前は」
な、なんて失礼な夫だろうか。
・・・
そして、宝くじ当選発表日。
「ない……ない……ない……ない……」
当たりくじが、一つもない。
「なんで!? どうして!? ねえ、神様、どうして!?」
そんな……私、こんなにも、いい子なのに。
「日頃の行いじゃないか?」
めちゃくちゃ嬉しそうにツッコんでくる夫。
その時、
「あっ……当たった!」
と夫の声。
「またまたぁ。1000円で当たるわけないじゃーん」
「えっ、だってホラ」
修ちゃんは宝くじを私に渡す。
えっと番号は……!?
じゅ、10万円当たってる。
「ほーらな、普段の行いがいいと、神様が幸運をくれるんだよ。お前も少しは悔い改めて――」
く、悔しい。ここぞとばかり説教する夫の顎を思いきりぶん殴りたい。
「ねえ、ちょうだい」
「!?」
夫は、びっくりした。
「理佳……お前、なんて言った?」
「その宝くじ、ちょうだい」
「……」
「……」
「駄目に、決まってるだろう?」
「ええっ! ケチ」
「……」
「だって、私、5万円買って1円も当たってないんだよ。修ちゃんは1000円なんだから、ちょっとぐらい分けてくれたっていいじゃん」
「……俺は今、お前が妊娠してるからなにもしないが、普段だったらタイガーアッパーカットを喰らわして、最終的にパイルドライバーでお前を沈めているよ」
夫が物騒なことを言う。
しかし……修ちゃんは忘れている……私が、まだ宝くじを手元に持っているということを!
「あーーーっと手が滑った」
そう言って、宝くじを外れくじの海に放つ。
「ちょ、お前なにを……」
「ゴチャゴチャゴチャ―――――――! ゴチャゴチャゴチャ―――――――! ゴチャゴチャゴチャ―――――――! フハハハハ、どうだ、これで探すのが大変であろう。わーっはっはっは、わーっはっはっはっは」
「……」
頬っぺたを尋常なくらい引っ張られた。
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