瀬戸駅

【夫のターン】


「あー、面白かったねぇ」


 妻が結婚式のVTRにひとしきり満足して、テレビをきる。


「なあ……ちょっと出かけないか?」


「ん? いいよー。ところで、どこに行くの?」


「……内緒」


 そう言って、急ぎ目にその場を離れた。


 なんか、なんでもない日曜日にこんなことするのもどうかと思うけど、思い立ったが吉日とも言うし。


              ・・・


 20分後、里佳は少し綺麗な格好で来た。化粧もしてきて可愛い感じだ。


「温かい恰好して来いって言ったのに」


 そう言いながら俺のマフラーを巻いてあげた。


「あ、ありがとっ……なんかあった?」


「……」


 珍しく素直に心配してくれる里佳に、少し戸惑いつつもなにも言わずに車に乗り込む。


 瀬戸駅に到着。


「あんまり変わらないなー、ここも」


 思わず、そう呟いていた。


「本当に。まあ、変わってるんだろうけどいつもこんな感じなのよね」


 妻もそう言って、同意。


「里佳はさ。俺がここで、告白して嬉しかったっていってくれたろ?」


「う、うん」


「でもさ……俺は自分のためだったんだ。お前が凄くまぶしいから、どうせフラれるなら、一番可愛いって思ったお前がいい、って」


「……」


「でもさ、お前が告白した時『嬉しい……ありがとう』って言ってくれて。それだけで凄く嬉しかった。俺にとっちゃ、それが十分すぎる答えだったんだ」


 きっと、俺の『好きだ』は嘘だったんだろう。そりゃあ、少しは好きだったかもしれない。でも、本当の目的は勇気を出して、告白をすることだった。


「……」


「でも……同時に俺はまた、フラれれなかった。今まで、一人の人を好きになって……でも、それを完結させたことなんて、なかった」


「……修ちゃん」


「そんなん駄目だろう? もう大の大人になろうとしている男が、一人の女の子にも告白したこともなくて、フラれたこともなくて。だから……多分、3カ月間バイトして、お金貯めて、ワーホリ一緒に行けるようにして、できるだけやろうって……フラれてもいいや、って。その時の気持ちは、多分そんなもんだった」


 今更、こんなことを言うのは、卑怯だろうか……今、里佳に俺は、どう映っているだろうか。


「……」


「だから、結婚しようって時も、結構迷ったんだ。俺なんかが、お前を幸せにできるんだろうか、って。お前は『俺がいい』って言ってくれたけど、お前にふさわしい男が、他にいるんじゃないかって」


 目を瞑ると、昔の自分の姿が見える気がした。


 ダサくて、卑屈で、格好悪くて、自分勝手で。


 里佳は、そんな俺にとって、世界一のヒロインだったから。そんな自分が、お前を幸せにだなんて。


「……」


「今もさ。本当にお前を……お前と凜を幸せにできてるかどうか。たまに不安になる時がある。俺とじゃなくて、もっと他の男と結婚しとけば……って」


「修ちゃん……」


「でもさ。お前は、俺を選んでくれた。ダサくて、卑屈で、格好悪くて、自分勝手で。バカで向こう見ずだった俺がいいって。今、振り返ってみても全力でひいちゃうような男を、お前は……俺がいいって言ってくれた。だから……」


「……だから?」


「ありがと」


「……」


「俺と出会ってくれて……ありがとう」


                  ・・・


「……ねっ、修ちゃん。キスしよっか」


「な、なんだよ唐突に」


「したくなった! すっごく」


 そう言って、里佳は俺の胸に額をコツンと置く。


「……だな、まあ人も……まあまあいるけど」


「じゃあ、告白してください」


              !?


「な、お前なに言ってんだよ!」


「あの時と同じ……ううん。あの時以上に大きな声で」


「お前、そんなん。あの時は、若かったというか、なんというか……」


 叫ばなくても伝わることがある。大学生の時にはわからなかった。たとえ、『好き』と言わなくたって、『愛してる』って毎日言わなくたって。俺が、お前をどんなに想ってることか。


「……私、嬉しかったの」


「……」


「あの時、もう会えないんだって泣いてたら……あなたはきてくれた。まるで、ヒーローみたいに」


「……はぁ」


 ……もう、俺の負けだ。いや、最初から惚れた女には勝てやしないのだ。

 周りに……人は……まあまあいる。


 ……フーッ


「俺は――――――! 里佳のことを! 世界中の誰よりも! 愛してる――――――――! 好きだ――――――――――――!」


 全力で叫んだ。












「……うっわー、恥ずかしくないんですか?」


 ……貴様、ぶん殴るぞ。


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