結婚式(5)

【新郎のターン】


 披露宴。ひとしきり挨拶も終え、しばしご歓談。


 少しではあるが肩の緊張を下したところで、司会の岳がマイクをとる。


「修、里佳さん。結婚おめでとう。大学の共通の友人だった君らが結婚してくれて、本当に嬉しいよ」


「……」


 親友、こちらこそだよ。本当に、ありがとうな。


「ここで、君たちの結婚を祝福するために、ささやかですが、動画を作ってきました」


 ……やめろよ、泣かせるなよ。


「じゃあ、みなさんどうぞ!」


               *


              ♪♪♪~


 あーのひあのーときーあーのばーしょーで♪


『瀬戸駅ラブストーリー』


 ……なんだろう、凄く嫌な予感がする。


               *

再現VTR


『吉木 里佳さん……俺は君が好きだ―――! 俺は、君のことが 、大好きだ――――!』


             ・・・


 瀬戸駅前で叫んでいる……俺役の人―――――――!?


 お―――――い! なにを再現VTRに―――――!? しかもなぜ知ってる――――――――!? これは、俺と理佳しか知らなっ……


              *


 証言者

 妻Rさん


「ええ、バス停どころか駅前全体に響くような大声。昔のトレンディドラマでもしないような告白をバス停の中心で。突然ですよ突然。本当にビックリしちゃって……」


 り、里佳……貴様、なに出演してんだ。


「まさに、『バス停の中心で愛を叫ぶ』ですね。しかし、これは……大分恥ずかしかったんじゃないですか?」


「そりゃもう。近所のお母さんの友達も数人乗ってたんで。バスの中で、囲み取材ですよ。バスの運転手さんなんて、気をきかせて出発する時に『2人の門出に出発進行』ですよ。もう、恥ずかしすぎて死ねます」


 ……すまんー! それは非常に申し訳なーい!


「で、告白の答えはどうだったんですか?」


「それが断っちゃったんです。その、なんか色々混乱してて。咄嗟にワーキングホリデーでオーストラリアに行くって。友達のことを嘘に使っちゃって」


「なるほど」


                   *


 証言者

 新郎父親Aさん


「いきなり帰ってきて大事な話があるって。驚きましたよー。いきなり、『ワーキングホリデーに行きたい』って言い出したんです。で、『金を出してくれ』と。母さんは反対したんですけど、俺はいいと思ったんですよ。昨今、女のケツ追っかけてるチャラチャラした男よりはよっぽどいいと思って」


 ……どうでもいいが、イニシャルにする意味あんのか。


「なるほど。しかし、新郎は女のケツを追っかけにワーキングホリデーに行こうとしていたわけですが?」


「殴りましたねー。後にも先にも初めてですよ、あれだけ腹が立ったのは」


 ……すまんー! どアホウな息子ですまんー!


「なるほど」


                  *


 証言者


 新郎友人T氏


 あ、あれ……お前、アナウンサ役じゃ……


「いやぁ。真面目なヤツが恋するとヤバイですねー。下手すればストーカーじゃないですか。海外までついて行くって。危ないヤツですよ本当に」


「なるほど……しかし、相談された時には止めなかったんですよね?」


 ひ、一人二役。


「まあ、里佳ちゃんの親友と付き合って……あっ、結婚したんですけど。聞いてたんです。結構いい線いってるって。だから、まあ捕まりはしないかなと。でも、修自身もさすがにヤバイと思ってたみたいで。もし、怖がられたら行き先を一緒のオーストラリアじゃなく、ブラジルに変更するって。もう、完全に頭おかしかったですねこの時の奴は」


 ……いっそ、俺のことを殺してくれないだろうか


「なるほど」


                  *

 証言者

 妻Rさん(2回目)


「久々に電話が来たんです。3ヶ月ぶりだったかな……もう、私のこと、忘れちゃったのかなーって思ってたんですけど、突然 連絡が来たんです。忘れもしない4月1日エイプリルフールですよ」


「4月1日なのは、何か意味が?」


「後から聞いたんですけど、フラれた時の予防線だったんですって。海外まで追ってくるわけじゃないですか。怖がられたら、『うっそピョーン』って言ってブラジルに行き先を変更するつもりだったそうですよ」


「それは……また……」


「ええ、アホです」


 こらー! こら新妻ー!


「で、再び新郎は告るわけですね?」


「だったらよかったんですけど。むしろ告白されたら多分普通にOKするだろうと思うんですけど、彼言ったんです。『もし……俺が一緒の学校に……オーストラリアに一緒に行くって言ったら……』って」


「それは……恐怖ですね」


「ええ。パニック状態。だって、私、行かないんですもん。必死に問い詰めちゃいました。『う……嘘よね! エイプリルフールだもん、嘘よね! 嘘嘘! 嘘ーーー!』って」


「嘘じゃなかったら軽く犯罪ですからね」


「多分、その必死さが怖がってるように映ったんでしょうね。『噓。実はオーストラリアじゃなくてブラジルに行く』って」


「それは、ホッとしたでしょう」


「いえ、途端に、思考が止まりました。パニックがさらにパニック。で、彼は言うんです。『これで……君と会うのも、最後。ずっと、言いたいことがあったんだ……ありがとう……って伝えたかったんだ』って」


「ほぉ、フラれたと思い込んだわけですね?」


「私はもう、頭の中がこんがらがって、訳がわからなくて。でも、修ちゃんはこう続けるんです『こんな俺の告白に、君は『ありがとう』って言ってくれた。本当に、嬉しかったんだ。君を好きになってよかった。心から……そう思う』って」


「完全にお別れムードですね」


「私、何も言えなくて。彼は『それだけなんだ……うん。じゃあ、もう俺、行くから』って去っていくんです」


「それから……追いかけたんですか?」


「ううん。泣いちゃった……もう、修ちゃんはいなかったんですけど。その場でエンエンエンエン。こんなに泣いたのは後にも先にもなかったなぁ」


「なるほど。それで、彼とは離れ離れで?」


「いえ。なぜか、その後戻ってきてくれたんです。で、『なんで泣いてるの』って。私が泣きやむまでずっと一緒にいてくれて」


「なんで戻ってきたんでしょうね?」


「さあ、それは教えてくれなかったです。でも、私、そこで全部白状したんです。ワーキングホリデーが噓だってこと。本当は、修ちゃんのことが気になってるってこと」


「告白……ではなさそうですね」


「はい。まだそこまでは自分の気持ちが整理できてなくて。でも、『ブラジルでのお手紙待ってる』って。それだけ言って逃げました。それが、その時の私に言える精一杯だったんです」


「なるほど」


                  *


 ……えっ!続きあるの!?


 証言者

 新郎妹M氏


「突然、交番から電話が掛かってきたんです。多分この時の直後だったんでしょうね。『兄が地面に向かって叫んでいたので補導した」と」


 噓だ……お前……まさか……


「さあ、ここでみなさんに直後、彼の取った行動を見ていただきましょう」


                    *


 再現VTR


「ブラジルのみなさーーーーん! 聞きましたかーーーーーーー! ブラジルのみなさーーーーん! ブラジルのみなさーーーーん! 聞きましたかーーーーーーー! ブラジルのみなさーーーーん! ブラジルのみなさーーーーん! ブラジルのみなさーーーーん! ブラジルのみなさーーーーん!」


             ・・・


 おい―――――!! 俺役の人―――! 恥ずかしくないのか――!?


                   *


「はい、全力で他人のフリをしました。家族全員で他人のフリを。そしたら、留置所から3日出られなくって。出たときは、渡航日当日。バタバタして出かけて行きました。もちろん、オーストラリアに直行。マジ受けるんですけど」


……視線が痛い。みんなの視線が……


「なるほど」


                    *


 まだあるんですか……


 証言者

 妻Rさん


「それから、毎月ブラジルからの手紙が届くんです。これが一番最初の手紙なんですけど」


                   *


宛先  吉木 里佳

差出人 修君

件名  ブラジル最高! 

本文

 里佳ちゃん、お元気ですか? 俺は元気です。ブラジルへの語学学校もすっかりと慣れました。


 パウロ君という友達もできて、今はポルトガル語の習得に力を入れています。一年という短い期間を無駄にしないように、勉学に勤しむ毎日です。また、ブラジルの街も住んでみればいいところで、いつか里佳ちゃんを案内できればいいなと思っています(笑)……なーんちゃって。


 では、ごきげんよう。


 PS

 この前、イグアスの滝の観光に行きました。

 非常に綺麗でしたので、写真を送ります。


                *


「なるほど……どう見てもブラジルからの手紙ですね」


「私も当然ブラジルにいるって思ってたんです。でも、ワーキングホリデーに行ってるオーストラリアの友達からメールが来たんです。『なぜかブラジル人に修ちゃんがポルトガル語を習っている』って」


「……アホですね」


「ええ。もう、笑っちゃって。でも、私……なんとなくなんですけど、この時思ったんです。こんな人とずっと一緒にいれたらどれだけ楽しいだろうって」


「……かなり、特殊な感性をお持ちですね」


「エヘヘ……似た者同士かもしれませんね」


「最後に、夫に一言お願いします」


「修ちゃん、見てますか? あの時、あなたが告白してくれてなかったら、私はきっともう少し退屈な毎日を過ごしていたような気がします。だから、感謝の気持ちを込めて……みなさんの前で、叫びます。あなたが瀬戸駅でなりふり構わず叫んでくれたように……

 スーッ、いきます!」


「橋場修さーん……私はあなたが好き―――――! 私は、あなたのことが 、大好きだ――――!」


 あのーひーあーのときーあーのばしょーで君にあえーなかーったらー♪


『瀬戸駅ラブストーリー』

                                 FIN


                   *

 ……


「エヘヘ……修ちゃ……泣いてる!?」


「……うるさい」


                   *


現在

 

 ……


「エヘヘ……修ちゃ……泣いてる!?」


「……うるさい」

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