そうだ、旅行に行こう(5)

【夫のターン】


 なぜか、妻が、俺を怖がらせにかかっている。


「お前、霊感ないよな?」


「……」


 だ、黙るんじゃねぇよ。


「今まで、聞いたことないし。ホラーも大嫌いだろう? やめろってマジで」


「……修ちゃん、幽霊って見たことある?」


 そ、そのトーンやめろよ。


「ないよ。一回もないし、見た人も見たことない。お前もだろう?」


「……」


 だから……だ、黙るんじゃねぇよ。


 その時、


「ご飯……」


「「ひっ!」」


 突然外から声がしてビビる夫婦。


「できましたが、おもちしてよろしいですか?」


「よ、よろしくおねがいします」


 そう言うと、ゆっくりと鬼婆女将が下がっていく。


 な、なんだよマジ怖じゃねぇかこの旅館。


              ・・・


 料理は海と山に幸がふんだんに盛り込まれたご馳走だった。


「美味しいね、修ちゃん」


「ああ。めちゃくちゃ空腹だったし、疲れたしな」


 主に、誰かさんのせいで。


「ご苦労様」


 そう言って、妻から受ける晩酌も悪くはない。


 全然苦労の元は取れてないけれど。


「道後温泉で温泉入ったし、あとは寝るだけだね」


「あ、ああ」


 あとは、ねるだけ……か。


 なんか……ソワソワする。


              ・・・


「じゃあ、そろそろ寝るか」


 1つの布団……いつもよりも狭い。


 最初に入ると、まだ少し、ひんやりと冷たい。


「……じゃあ、失礼します」


「……はい」


 なんか、お互いに他人行儀。しかし、そんな新鮮な仕草にいつもよりもドキドキするのは、俺だけだろうか。


 胸にあるのは里佳の小さな頭。


 ど、どーしよ。久々だから、めちゃめちゃ緊張する。


「……ねえ、修ちゃん」


「んー? どうした」


 思わず、声が上ずってしまった。


「昨日ね……本当に寝れなかったの」


「……嘘つけ」


「嘘じゃないよ……ベッドの中には入ってたけど、久しぶりの2人きりに旅行だったから」


「……」


 か、可愛い。なんなんだ、この生き物は。


「里佳……俺も楽しみにしてた。なんかさ、お前と旅行すると、いつも大変だけど……でも、振り返るといつも笑えるんだ。いつも、またお前と行きたくなる」


「……いっつもいたずらばっかでゴメンね」


「っ……ば、バカ。俺はいつも、いたずらばっかりするお前を怒るけどっ! で、本気でたまに怒ってるけど……いたずらしないお前なんて……お前じゃねぇよ」


「……」


「里佳……り、里佳!?」


「……」


 ね、寝てる……嘘だろう?


 車の中であんなに寝たのに? 俺、まだ一睡もしてないのに?


 まだ、夜は、これからなのに!?


「お、おい里佳……りー」


 ……スゥ……スゥ……


                ・・・



 ……まっ、いいか。




 チュンチュン


 ……朝か。里佳は……いない。


「ねえ、修ちゃん。早く起きて、外行こう」


 そう元気に揺さぶってくる。


「う゛ーっ! わかったよ」


「じゃあ、先に行ってるから。早く準備してね!」


 たっぷり睡眠をとってすごい元気だなお前は。


              ・・・







 ひ、額に肉って書いてある……

 

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