第42話 心を隠す術
ポーカーフェイスとは、その名の通りポーカーゲームにおいて考えていることを悟られないように繕っている表情のことであるが、普通の人にとっては一時的には実現できたとしても長時間続けるのはなかなか難しい。
しかしながら、私達はしばしば自らの感情や考えを人には知られないように振る舞うものである。実際のところ、自らの状況を知られることにより不利になることを避けるためではあるが、だからといって思うほど隠しきれないのもまた事実。思うがままに任せないのが感情とも言える。
普段より感情を表に出さずに行動できれば問題とならないものではあるが、人間はロボットではないので感情を完全に隠すことは叶わない。では、無意識に感情や考え方が漏れ出てしまうことは人にとって有利なのであろうか不利なのであろうか。この問いに対する答えはなかなか難しい。
そこで、まずここでは感情と考えの二つに分けて考えてみたい。
一般的に、感情を表に出すのは人間らしいと表現される。それは人間らしいのか動物っぽいのかという議論もあるだろうが、単純に感情を表に出すだけでは非難の対象には値しない。もっとも、それも度が過ぎれば感情的であるというネガティブな評価を下される。これは、感情の奔出が周囲の人間に対して邪魔となるレベルに達したような場合である。
ただし、このレベルについては人間的な好感度に応じてレンジが上がったり引き下げられたりするので、万人に共通の尺度ではないのも事実であろう。
一方で感情を出すのを嫌うのは、それにより自分の行動を推測されることを嫌うからであって、自分の気持ちを察して欲しい時には、道徳や規範に縛られたり羞恥心を抱かなければという前提付きではあるものの、感情的になることを抑制する必然性はない。
逆に言えば、自分の立場を有利に運ぶために感情を表に出した方が良いか、出さない方が良いかという議論はあるだろう。
もっとも、現実にはそんな打算以上に個人の性格により態度が決まってしまうことの方が多い。外向的な人は多少であれば感情を隠す必然性をあまり感じず、内向的な人は少しの感情を出すことも恥ずかしく感じてしまう。その上で、誰もがある程度は感情的になることを隠したいと思いながら、現実には自分が考えているほどには隠し切れていない。
では考え隠すことはどうであろうか。考え方を隠すことを、自らの弱みを見せないと言う意味で考えれば交渉においては重要となることもあるだろう。しかし、無表情や無反応によるそれを普段から行っていると何を考えているのかわからないと警戒されたり敬遠されたりすることも生じやすい。だから、あくまで表面的には表情や動作をあまり抑制的にしないよう反応を行いつつも、肝心な点はわからない様に見せる努力が必要となる。
それは、自らの行動を自らの意志でコントロールしていなければ実現できないであろう。それは、行動だけでなく表情や話す内容にまで心を配らなければならないという意味で、それが容易にはできない人も多く出ると思う(もちろん、大した苦労なしにそれができる人も存在する)。どちらにしても、感情的に振る舞えばそれは叶わない。
結局は、自らの考えを隠すにしても感情をあまり表に出すのは不利に働くと言うことで、心を隠す上では造られた感情的行動を示すという必要があるとも言える。
では、必要な部分のみを上手く隠すためにはどのような方法があるのだろうか。
これは容易ではないかもしれないが、最も良い方法がある。それは、自らが忘れるあるいは違った結果を信じ込んでしまうことである。信じ込むとはいえど、それは一時的にわざとするものだ。ずっと間違ったものを信じていてはとんでも無いミスをしてしまうことになりかねない。隠さなければならない場面に際して、異なった結果や考え方を何度も事前にシミュレーションして覚え込むのである。思わずそれが真実だと思えるほどにまで。
それは心の中で繰り返して考えても良いが、鏡を前に口に出して何度も繰り返すことで効果が出る。一種の自己暗示と言っても良い。就職面接の前に問答を覚え込むのと似ているかもしれないが、できれば15〜30分くらいずっとそれを繰り返す。自らの無意識にそれを刷り込むが如く。
もちろんこの効果は短期的なものであるが、一時的とは言え自らが信じ込んでいれば変な反応は出にくい。ただ、真剣にしなければその刷り込みが不足することには注意が必要だろう。
世の中には、こうしたことを特別な努力無しにできる人が存在する。しかし、普段からそういう態度をずっと見せていると、長く付き合ったとき信用が十分おけると思われにくい。できれば、心を隠すのは短期的にしておきたいものである。
「隠そうとすればするほど、他の部分に無理が出やすい。隠すよりは信じる。その方が容易である。」
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