第6話 その六
僕の名前は磐神武彦。高校二年生。ごく平凡な男子。
でも僕の姉は平凡ではない。多分非凡だ。
そんな姉が、携帯で彼氏と話をしているのが、隣の部屋から聞こえて来た。
「やっだあ、リッキーたらァ。美鈴はァ、そんなに食べられないよォ」
人格が入れ替るのかと思うくらい、姉は彼との電話では言葉遣いが変わってしまう。
ちなみに彼の名は、力丸憲太郎。柔道の有段者だ。
イケメンで、スポーツマン。姉の大好物だ。
でも、そんな憲太郎さんと比べられる僕は悲惨だ。
何かにつけて、引き合いに出され、
「あんたは、もっと強くならないと!」
と言われる。
僕は別に強いばかりが男ではないと思っている。
姉に言わせると、そんなのは弱い男の言い訳なのだ。
「あーあ」
そんな嫌な事を思い出して、僕が溜息を吐いていると、
「武彦くーん」
姉が猫撫で声で入って来た。ノックもなく、承諾を待つでもなく。
もし僕が同じ事をしたら、ハイキックが飛んで来そうだ。
「な、何、姉ちゃん?」
僕は警戒心MAXで尋ねた。
「あのさあ、姉ちゃんさあ、今度の土曜日、リッキーとデートでさあ」
土曜日は姉が炊事当番だ。多分その事なのだろうと予測する。
クネクネしながら近づいて来る姉は、少し気持ち悪い。
「悪いんだけどお、当番引き受けてくれないかなあ、なんて思ってるんだけどお」
「当番を引き受ける」という言い方が罠だ。
僕は日曜日が炊事当番なのだが、それはそれでこなし、土曜日も私の代わりに働けという事なのだ。
あくまで、「交換」ではないところが、いかにも姉らしい。
かと言って、僕は拒否などという選択肢を選べるほど度胸もないし、バカでもない。
「いいよ。僕が代わりに炊事当番するよ」
もうそう言うしか、生き残る道はないのだ。
「ありがとー、武彦! 愛してるわん!」
姉はいきなり僕に抱きついて来て、右の頬に長いキスをした。
ほっぺたが吸い取られるかと思うくらい、強烈だった。
「感謝の気持ち。ウフ」
そう言い残し、姉は部屋を出て行った。
何となく嬉しい僕は「姉萌え」なのだろうか?
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