第7話 試験らしい 後編
実際の所、彼は本気で殺しには来ないだろうとたかをくくっていた。
しかし瞬間、目にも留まらぬスピードでレオルに接近する。
英梨は抜き身の刀身を腹から肩まで逆袈裟に切り上げる。レオルはほぼ反射的に刀の腹で受け止める。
「やりますね。割と獲る気で言ったのですが。」
------!!???!?!?!?
(やばい!この人本気だ!?本気で殺しに来てる!)
冷や汗が背中をつたる。
たったの一撃だけで彼女にとってレオルは殺すのは少々面倒だと思われたらしい。中々に物騒である。
考えるもつかの間。英莉の剣戟は休むまもなくレオルを襲う。
しかしレオルもそのスピードについていくように英莉の剣戟を受け流していく。
(死ぬ!嘘だろお前!?入学試験でマジで殺す気か!?)
「あぁ!糞ッ!死んだらどうする!?」
「…死にはしませんよ?たぶん…?」
「それに、保険医の先生がいますから安心してください。」
まあったくもって安心できない。
だが、相手はそなことを気にもせず、流れるように、しかして鋭く重き斬撃が彼の上から下から左から右から、襲い掛かからせる。
そのたびにレオルは峰や鎬、時には鞘までをも使って受け流していく。
(この人スピードだけじゃない!力も相当なものだ!一瞬でも気を抜けばやられる!)
3分ほどたったところで英莉はある違和感に気が付く。
(おかしい……先程から攻撃の速度を上げているのにこの少年はついてこれている……)
レオルの方からの攻撃はないものの彼女からの攻撃があたることは一切なかった。
その姿を見ていた理事長は感心していた。
「成程な。嘘ではないようだ。」
書類を見ながら理事長が言うのを聞いていたセレンも驚きを隠せずにいた。
「こんなことをできる子がいるなんて…信じられませんね。」
模擬戦を見ている2人であったが、彼らの打ち合いはさらに激しさを増していた。
「すごいですよ!レオル君!ここまで粘っているのはのは久々です!」
と楽しそうで、興奮した顔で言う。
「…ありがとうっ!ございますっ!」
苦笑いするしかないレオルであった。
それもそのはず、現段階で彼女の剣撃についてこれようとする他の入学予定者はいなかったのである。
状況が変わったのは、それから5分ほど経ったときである。
じわじわと英梨の攻撃の速度が上がっていくのに対してレオルの動きは鈍くなっていく。
攻撃に対する反応する速度が鈍り、彼の身体に傷がついていく。
先ほどまで対応できていたフェイントに引っかかる。
「どうしたのですか?動きが鈍いですよ!?」
「ハァ…ハァ…まだ、まだですよ…」
「先程から、反撃もしてこない上、息も上がっている…体調が優れませんか?」
「どう…で、しょうねぇ…!」
強がって言い返したが実のところ限界に近い。
体力が削られ、集中力が落ちているのである。
加えて身体中を切られ、血を流し末端まで血が廻らなくなったため繊細さがなくなる。
また、彼の剣技は受け流すことを主流としているため、相手に対して有効打が出せずにいる。とんだ縛りプレイだ。
それでも、気力を振り絞って喰らいついていく。
「のこり30秒!」
残り時間はあとわずか。あと少しだとと自分に言い聞かせる。
「残り時間も少ないわけですし、私も少し本気を出しましょうか。」
英莉はレオルから距離をとる。
何だ?と警戒するレオルであるが、気づいたときには遅かった。
レオルに向かって黒いボールが3つ英莉から投げられていた。
それは単なる煙玉であるが、会場に煙が広がり視界が悪くなる。
「くそっ…!やりやがった…!汚い手を使いやがって…!」
「あそこにあるものは何を使っても構いませんと言いましたが?」
声のするあたりを探るが英莉はいない。
気配すら見えなくなった。
(どこだ?どこから来る?正面?左?右?どっちだ?まさか後ろ!?)
「焦るな、落ち着け、感じるんだ。」
焦った心を静める。感覚をむき出しにして攻撃に備える。
視覚が使えない以上、頼るべきは聴覚である。
目を瞑り己が耳に全神経を集わせる。
その時、僅かながらも何者かの息遣いが聞こえた。
場所は自身の背後の左。反射的に獲物を構える。
そしてキイィンと甲高い音が聞こえた後、ピーとタイマーの音が鳴った。
「そこまで!」
理事長が終了の合図を出し模擬戦は終了した。
(お、終わった…)
終了とともに地面に座り込んだレオルであった。
煙幕が張られていたせいで煙がはれるまで試合がどうなったのが分からず、しばらく会場がざわついていた。
「どうして、分かったのですか。」
腑に落ちない顔で聞いてきた。
「えーと…英莉さんの息遣いが聞こえたので…そこに、反応したって感じですかね…」
「呼吸で分かったのですか。私もまだまだですね……」
いえいえ、そんな事ないですよ…? そうですかねー?などと話していると
「試験終了だ。結果は後で伝えに行くから受付で待っていてくれ。」
理事長が監督席からこちらに来ていた。
「はぃ…、わかりました…」
「ついでにセレンに傷を治してもらえ。」
理事長と一緒に来たセレンがレオルの体に向け、何かを呟き手をかざすと、彼の体に淡い色をした青い幾何学模様が浮かびがった。
見る見るうちに戦闘でついた傷がふさがっていく。
あっという間に元の傷跡の残っていない皮膚になっていた。
「ありがとうございます。」
「いいのよ。これが私の仕事だしね。それじゃ行くわよ。」
ふらつきながらレオルとセレンが会場を去ったあと、理事長は英莉を笑う。
「ハハハっ、お前もまだ詰めがあまい。というか呼吸で見つかるって、クククッ」
「うるさいです!何か文句あるのですか!?姉さん」
「お前は本気出す時、いつも動きが雑になるからな。だからと言って、呼吸っ、ハハハッ!」
「ぐぬぬ…もっと精進です…!!」
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