第6話 試験らしい 前編

学園エリアの試験会場に着き、受付に行った。



「すいません。入学試験を受けたいんですけど。」

「…申し訳ありません。試験は昨日で終了しております。」


受付嬢さんは申し訳なさそうだった。

今日が何日なのかは知らないがどうやら間が悪かったようだ。

そこを何とか!いえいえ無理ですよ。などと不毛なやり取りを続けていると


「そんなこと言わないで受けさせてやれ。」


振り返ると受付の人とは違う女性がいた。


「り、理事長!?よろしいのですか?」

「あぁ、こいつはいい目をしている。気に入った。」


理事長とかいう人はレオルを見てふっと笑った。

いきなり何なのだろうか?この女性は誰なのか?いい目とは何なのであろうか?気に入ったとは何なのであろうか?

得体の知れない圧力を感じ、少々引き気味な彼であった。


「よかったねーレオル。」


博士もそばに来て言ってくれた。


「試験は今から2時間後に行う。遅刻するなよ。」

「え、あ、はい。」

「では、がんばれよ!」


理事長は笑いながらどこかに去っていった。

博士も私は保険をかけにいくからと、どこかへ行ってしまった。


 博士と別れてから1時間と少したった頃、レオルは控え室で試験の準備をしていた。

準備といっても一体何をするのか分からない。

昼食も済ませ、あとは全力で試験に望むだけだった。


「うーん…?なんだか上手く行き過ぎてるような…?」


一人ごちながら控え室のベンチに座った。誰であろうとこういった試験の前では緊張するものだ。

しかし疑問は尽きない。


「そういえば試験って何をやるんだろうかな?」


チラシを見てみるが試験の内容は書かれていなかった。


「うえぇ…何も書いてないじゃないか…」


試験の内容も分からず、緊張の勢か次第に不安になってくる。

誰だってそうだ。俺だってそうだ。心臓の音が大きく聞こえる。

ふと、彼の父の言葉を思い出す。


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ソレは彼がまだ幼かったときの出来事


「う~…やっぱりできないよ…」


幼き少年は受け身の練習をしていたが失敗ばかりでやること自体が億劫になっていた。


「お父さん。やっぱりできないよぉ…」


幼い彼は父親にすがる


「いや、絶対できる。」

「でもぉ……」

「いいかレオル。失敗すると思うからできないんだ。失敗を恐れずにやれば何だって出来る。」


笑いながら彼の父はやってみろとばかりに彼の背中を押す。


「大丈夫だ。父さんを信じろ。」


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「そうだな。失敗を恐れずにやれば出来る。」


控え室の自動ドアが開き、受付にいた人が入ってくる。


「えーと、橘レオルさん。お時間なので案内します。私に付いてきてください。」


いつの間にか時間が経っていたことに驚いたが、大切なことを思い出せたから気にならなかった。

レオルの頭の中には全力でやろう。そのことしかなかった。


「はい!」


大きな返事をし、女性についていく。

道中、試験の内容を聞いてみたが着くまで明かせないとのこと。

対策とか全く出来てないし、普通は筆記試験だから、確かに問題は明かせない。が、教科くらい教えてくれてもいいだろう。

『中卒』である彼はその事に気が付き、いやな汗が背中をつたう。


(問題が簡単でありますように……)

「では、がんばってくださいね。」


扉が開き、中に入ると大きなスタジアムだった。

観客席にはたくさんの人がいた。

彼が状況が飲み込めず困惑していると


「おーい、こっちだ早く来い。」


声のする方に目を向けるとさっきの理事長がいた。


「えーとこれはいったい?」

「ん?あ~今日はな入学前の講習会をやっていてな。飽きてぶらついていたら君がいたからイベントとしてやろうと思っ

てな。」


一体何を言っているのか分からない。あまりにも理不尽というか横暴であるというか

ふざけんな!と叫びたくなる。どうしてこうなった。というか筆記試験ではないのか。


「それでは始めよう。」

「ちょ、ちょっと待ってください!この人たちは何故いるのですか!?」

「イベント代わりといっただろう?それに試験日に遅れたんだ、これくらいいいだろう?」

「うっ…そうですけど…分かりましたよ…」

「じゃあ、名前は?」

「橘レオルです…よろしくお願いします…。」


諦めて理事長と向き合うと理事長の他に2人いることに気が付く。


「紹介しよう。こっちは舞園 英莉といって、私の妹でありここの教員だ。」


女性のほうに目をやり一礼する。


「で、そっちはセレン・ヒューレット。本校の保険医の先生だ。」


男性のほうにも一礼する


「そして私が理事長の舞園 千鶴だ。よろしく。」


教員の紹介が終わったところで理事長が観客を黙らせる。スタジアムが一気に静かになった。


「さて今回君にやってもらうのは実技だ。英莉、頼む。」


英莉がレオルの前まで来る。


「今回あなたにやってもらう実技は私との模擬戦です。」

「模擬戦?」


すると後ろのほうのシャッターが開き見ると様々な武器が並べられていた。


「あの中から好きな武器を選んでください。どれでもいいですよ。」


筆記ではなく実技というところに多少は安心したものの、模擬戦というところに不安がある。

武器というわれ取り敢えず見ていくと、斧やら槍やら果ては扇、串まであり刀らしき物もあった。

武器以外にも見慣れぬ黒い玉や、銀色に光る本などもあった。

少し考えて彼は刀を手に取り英莉のもとへ向かった。


「では、はじめましょうか。ルールは簡単です。10分間私の攻撃を凌いでください。」

「え?いや、あの、」

「あと、凌ぐだけではなく貴方の方から私の首を取りに来てもかまいませんよ?」

「あ、はい。」


どうやら本当にやるしかないらしい。ここで喚こうが嘆こうががもはや手遅れ

息を整え集中する。緊張の糸を切らさないように警戒心を高める。

そして自分の荷物と一緒においてある刀に目をやり

(父さん、見ててね。)

と心の中で告げる。


そして----------


「はじめ!」


理事長の合図で始まった。

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