⑭𓃠 デッド・イディオット!
「ほら委員長、元気出た?」(もう、ほら涙拭いて、男の子でしょ?)
「す、すまない」
涙を拭われる。
結局、セックスどころか接吻もせず、ただ抱きしめ合うだけだった。性的興奮も上がらず、ただ必死に涙を堪え、何もない時間をしばらく過ごしたのだ。
「すまない、急に泣き出してしまって」
「本当だよ。委員長までイジメちゃったのかと思っちゃったよアタシ」(やっぱり思ってた通り、ちょっとダメ男で可愛かったかも)
言われてしまったな山田ヒロハル青少年。
「すまない……」
「謝らなくて良いよ! でも、これじゃあ、エッチする雰囲気じゃないね」(あ~あ、振られちゃったな~、委員長の楽しみにしてたんだけどな~)
「す、すまない! そ、そのだな、別に川崎君とセックスがしたくない訳じゃないんだ! 寧ろ、君のことは凄く魅力的な女性だと……」
そうすると、川崎氏は優しく山田ヒロハル青少年の口を塞ぐ。
「抱きしめてくれたから、それで許して上げる。童貞の委員長には少し大人過ぎる内容だったんだね」(あ~、辛いよ~、委員長とエッチしたかったよ~)
川崎氏のことを少し傷つけてしまったのかもしれないな。山田ヒロハル青少年がさらに沈んでいると、川崎氏から話しかける。
「委員長、気にしないでよ。アタシはキャサリンちゃんをイジメてたのを口実に委員長のこと利用してただけなんだから」(委員長が落ち込んでどうするの! マコちゃんの方が落ち込んでるんだよ!)
「……」
「委員長、なにもそんなに他人のことで悩む必要ないよ! 自分以外の人なんて、ただ利用するだけの存在なんだから」(……)
川崎氏は笑顔をこちらに向ける。
「そ、そんな……」
「そんなことあるよ。イジメも友達付き合いも恋愛もエッチも、ぜーんぶ自分の自己満足。だいたいの人がそう思ってるし、アタシもそうだと思ってるから、他人がどうなろうと自分に被害がなければどうでも良いと思ってるよ! ふふーん、アタシって結構悪い女でしょ」(でも……)
川崎氏は目を伏せる。
「でも……委員長は、そう思わない人だったんだね……だからアタシ、委員長のこと……」(だから、他人に優しい委員長のことを気に入ったのかもね)
「……」
自分は、優しいのではない。
ただ、人と接するのが怖い、
ただ、臆病なだけ、
そう山田ヒロハル青少年は考えている。
「それじゃ、アタシ行くわ!」(気まずくなってきたからにーげよっと! それじゃあ委員長ばいば~い)
「え!? ど、どこに行くんだ?」
「へへーん、それはヒミツ! それとも委員長も着いてくる?」(出会い系のサイト漁って、泊めてくれる人の家探すんだ~、まあ最悪友達の家に押し入って泊めてもらうわ!)
「だ、ダメだそんなもの! 出会い系なんかするんじゃない!」
山田ヒロハル青少年は川崎氏を止めるが、彼女は当然キョトンとした表情を浮かべる。
「何でアタシが考えてることが分かったの?」(マコちゃん困ってるよ! 委員長キモ~い)
「あー……いろいろ説明するとめんどくさいのだが……簡単に言うと私は君の考えていることが分かるんだ」
「アタシの考えてること……」(へー、正直に言っちゃうんだ)
「あ、ああ……だから、その……あまり不健全なことをしないでほしい……私が言えた義理ではないが……」
しばらく、お互い沈黙に包まれていると、川崎氏は笑う。
「……へー、今の委員長って、キャサリンちゃんみたいだね」(本当あのムカつく外人みたいいいいいいいいい!)
「キャ、キャサリン君に似てる?」
山田ヒロハル青少年は思ってもみなかった人物に似てると言われ、不意をつかれた。
「うん、アタシのこと見透かしてるみたいで、なんかムカつくんだよね」(ああああああ! 思い出しただけで、ムカつくううううううう! あ! マコちゃんがムカついてるだけで、アタシはムカついてないからね☆)
川崎氏が話し始める。
「委員長が胸に弱いってことを教えてくれたのは、あのキャサリンちゃんなんだよね。アタシが委員長に少し気があるのを知ってたみたいで、胸で押せば落とせるって聞かされたんだんだよ……まあ、実際は落とせなかったんだけどね」(あのキャサリンって子はネコと話すのが凄く上手くてさ! つい、口の堅いアタシもベラベラ話してしまった訳ですよ!)
たぶん、山田ヒロハル青少年がネコを見ることが出来なければ、今頃性に乱れていたであろう。
「で……今更だけどゴメン」(ゴメンね!)
「え? な、何がだ?」
「昨日、キャサリンちゃんを階段から突き落としたのはアタシなんだ」(衝動的にやりました! だってムカついたんだもん!)
「え!? あの時キャサリン君が落ちてきたのは、君のせいだったのか」
なるほど、あの場に川崎氏も居たのか。
「アナタは、山田ヒロハル青少年君のこと好きなんでしょ? 何で好きなら好きって言わないのって言われたんだ。超ムカつかない? 意味分かんない上にアンタ何様って感じでしょ?」(にゃあああああああああああああ! ムカつくうううううううううううううう!)
「ああ……キャサリン君らしい意見だ」
「だから思わず階段だったことを忘れちゃって、突き落としちゃったら下に委員長達が居た訳、それで怖くなって逃げ出しちゃったんだ……本当にゴメンね!」(あの時はマコちゃんも頭に血が上ってたんだよ! この通り許して! アタシ何でもするから!)
「い、いや、良いんだ。結局誰も怪我しなかったからそれで良い……ネコが見えるようになってしまったが……」
「猫?」(あー、その時か!)
「いや、何でもない」
あの現場の根底には、そんな背景があったのだな。
「それじゃあ、そろそろ本当に行くね。大丈夫、変な所には行かないから!」(友達の家行くから安心して!)
「あ、ああ、それなら分かった」
教室を出ようと、川崎氏は出入り口の手前まで向かう。だが、入り口の前でこちらを向き直る。
「ど、どうしたんだ? 川崎君?」
「委員長のバカ野郎ー! 死んじゃえバーカ!」(好きだったのに振りやがって!諦めないからなこの玉無し野郎だって! じゃあね委員長! 頑張ってね! アタシもマコちゃんも応援してるよ!)
「え、ええ!?」
そして、そのまま川崎氏は廊下へと飛び出していった。途中で泣き声が聞こえたが、徐々に遠ざかっていく。
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