ネコかぶる!

バンブー

冒頭

⑤𓃠 モフモフ・インヴィション

「何なんだこれは!」


 遠くでカラスが鳴き、黒と橙色の混じり合う放課後の廊下を走る山田ヒロハル青少年。

 彼は額に汗を垂らしながら辺りを見渡す。


「コイツ、マジやばくない!」(絶対これ面白い! 爆笑だわ!)

「うわ! 超やば! マジ受けるんだけど!」(つまんねーでも空気悪くなるから笑っとこ)


 たまたまそこに居た女子高生二人とすれ違う。その際に山田ヒロハル青少年は見た。

 彼女達の頭の上に、猫が一匹ずつ乗っかっていることを……


「これから二人カラオケ行かね? 俺マジ歌いたいわ!」(今日こそ、コイツをホテルに誘ってやるわ! マジやるわ! やったるわ!()

「んー、良いよ! 私もちょっと歌いたい気分かも!」(あーあ、下心見え見えでシラケるー、まあ奢ってもらお)


 彼女達だけではない。行き交う生徒達全員の頭の上に猫が乗っている。

 そして、猫達は日本語を巧みに操り喋っていた。


「う、うわああああ!」


 山田ヒロハル青少年は廊下を駆け抜け、息を切らし、暗い階段から光のこぼれる屋上のドアへと向かう。辺りからは言葉が飛び交い、彼はそれらから逃げるように外へ飛び出し、優しい光に包まれる。


「これ、は……」


 夕日でボヤケる視界に目を凝らし、屋上から世界を見渡した。

 行き交う人々の頭にネコ。

 犬や鳥、道ばた端に転がっている猫の上にもネコ。

 車の上にも、はたまた飛行機の上にまでネコ。ネコ、ネコ、ネコ、ネコ、ネコネコネコネコネコ。

 そう、ネコである。


「な、何でだ! いったいどうなっているんだ!」


 山田ヒロハル青少年は膝から崩れ、自分の頭がおかしくなったのかと、ショックのあまり頭を抱える。


「……ん?」


 頭を抱えたその時、水風船のような柔らかく生暖かい感触が頭の上にあることに彼は気付いてしまった。

 モッフモフの毛玉のような感触。

 恐る恐る、彼は頭の上に視線を向ける……


「な、何なんだこれはああああ!」


 そこには、自分より一回り程大きなネコが乗っていたのだ。

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