同族殺し

 隊長はゆで卵を剥きながら言う。

「命を繋ぐにはな、命が必要なんだよ」

 勇者は何も言えなくなり、ただ言われるがままに食べ続けた。



 イケニエの少女が去った後の村では春の種蒔きが行われていた。ひげ面の村人はボロ布で汗を拭いつつ、せっせと種を蒔きながら話す。

「いんやぁ、困ったもんだで。こん世でもっともおっとろしいものが来るたぁなぁ」


 また他の白髪の村人が笑って返す。

「本当になぁ。イケニエを捧げたんだで、収まってくれるとええんだけんどなぁ」

 はっはっは、と笑い合う村人たち。


 そこに地べたに尻を付かないように座って、煙草を吸っていた村人も口を挟む。

「アレはいかんで~」

 ひげ面の村人が首を捻って言う。


「何がだや?」

「こん世でもっともおっとろしいものの事に決まってんだろぉよぉ」

 煙草の煙を吐きながら村人が言う。


「ありゃあなぁ、そんままでも怖ぇってんのに…同族殺しだってよぉ」

「同族殺しだぁ?」

 白髪の村人が座り込んでツボに溜めた水で手を洗いながら言う。


 煙草の灰を別の小さなツボに落としながら村人が言う。

「そんだぁ。なんでも妻と子を殺しとるでぇ、同族からも嫌われてるっとよ」

 ひげ面の村人が腰に付けた袋状の水筒で湯冷ましを飲みながら言う。


「おっかねぇ話だなぁ~…血も涙もねぇ奴やねぇでか」

 白髪の村人がボロ布で手を拭って頭を掻きつつ言う。

「本当になぁ~。なんでそんなことができんのかわっかんねぇ」


 煙草を吸っていた村人が笑って煙を吐きながら言う。

「そんだけやねぇで。同族みんな束になっても、アレにゃあ勝てんかったゆぅ話だで」

 ひげ面の村人が湯冷ましをごくり、と喉を鳴らして飲み下しながら、冷や汗を流して言う。


「怖ぇなぁ~…ウチん村に寄らんとってくれりゃぁええんだども…」

 白髪の村人が青くなった顔を手でさすりあげながら言う。

「そうなぁ…本当に…こん世でもっともおっとろしいものだぁ…」


 煙草を吸っていた村人は煙草の吸い殻を、器具からカチャンとツボに落としながら、ニタニタと笑っていた。



 雷鳴が轟く黒い空の中で暗雲や雨滴がものすごいスピードで流れていく。高速で飛んでいる竜騎士からはそう見えていた。ゴーグルを付けた目を通して見えるのは、雨粒や雲だけではない。

 

 自分が乗っているのと同じ二本足の竜、ワイバーンの群れである。どうやらワイバーンの縄張りにいつの間にか入り込んでしまったようだ。竜騎士は舌打ちしながら、雨あられと降ってくるワイバーンの吐き出す火炎弾を避けて行く。


 竜騎士の操作によってワイバーンが宙でくるりと返り、火炎弾が他の敵ワイバーンに当たる。火炎弾が当たった敵ワイバーンは火だるまになってしまい、羽根に穴が開き、悲鳴を上げながら落ちていく。

 

 同士打ちさせて敵を減らした隙に、今度は竜騎士が簡易呪文を唱え、補助魔法をかけつつワイバーンに氷弾を撃たせる。かわす敵ワイバーン達だが、氷弾が勢いよく空中で弾けて、三体の敵ワイバーンが一気に凍り付き、そのまま回転しながら落ちていく。

 

 だが激昂した様子の敵ワイバーンが鳴き声を上げ、またワラワラと敵ワイバーンの群れが集まってくる。あれだけ攻撃して落下したとしても、ワイバーンはそれくらいでは死なないのだ。また回復したら追ってくるであろう。

 

 竜騎士はまた舌打ちして急降下する。敵ワイバーンの群れが追いかけてくる。鳴き声で指揮を執っているのか、立体的に囲まれて攻撃をしてくる。竜騎士がついに魔法で防護壁を組む。

 

 それは魔力の少ない竜騎士にとっては、もはや手がないという証明でもあった。防護壁が何とか火炎弾を防ぐが、敵ワイバーンは依然増え続けている。竜騎士は呪詛の言葉を吐く。その瞬間であった。

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