第五章 我ら、愛の六戦士!
第467話 我ら、愛の六戦士!①
大歓声に沸く会場。
そんな中で、一人だけ頭を抱えて呻く少年がいた。
椅子に座って、ずっと俯いている。
コウタ=ヒラサカ。
アッシュの実弟である。
彼の席の横には小さなメイドさんと、フードを深く被った幼馴染。蜂蜜色の長い髪をリボンで結いだ少女が座っている。アイリ、メルティア、リーゼの三人だ。
そのすぐ傍には、オルタナを頭に乗せた零号の姿もあった。
全員が頭を抱えたコウタに注目している。
そして、
「……コウタ?」
皆を代表してメルティアが口を開いた。
コウタの肩がビクッと震える。
「これは一体どういうことなのでしょうか?」
「ボ、ボクは……」
コウタは、メルティアに視線を向けて喉を鳴らした。
「止めたんだよ。もう必死になって。いくら六人がかりでも絶対に無理だって。けど、ジェイクたちは全然聞いてくれなくて……」
そう呟くコウタに、リーゼは頬に手を当てて嘆息した。
「オルバンらしくもない行動……と言いたいところですが、まあ、オルバンも焦っていたのでしょうね」
リーゼが通う騎士学校の同級生であり、友人でもある少年。
彼が自分の従者であるシャルロットに想いを寄せていることは知っていた。
そしてそのシャルロットが、お義兄さまに揺るぎない思慕を寄せていることも。
それは、オルバンも知るところだ。
リーゼは再び嘆息した。
「どうにかしたい。そんな焦りが生んだ行為なのでしょうね」
「……それでも無謀だよ」
と、アイリが言う。
「……決闘なんて無茶だよ。だって、相手はあのお義兄さんなんだよ。コウタよりもずっと強い人なんだよ」
その台詞に全員が沈黙する。
「……ジェイク、死ななきゃいいけど」
続く幼女の台詞に、コウタたちは言葉もない。
「……ジェイク」
コウタは祈るように親友の名を呼んだ。
「とにかく、怪我だけはしないでよ」
一方、別の席にて。
キャスリンは、額に手を当てて眉をしかめていた。
改めて舞台を見る。
そこには仲間であり、後輩であるダインが鼻息荒く立っていた。
「……あのお馬鹿は何をしているんだい?」
その呟きに対し、隣に座るホークスが「……ぬう」と呻いた。
「一向に、来ないなと思っていたら、な」
ホークスは腕を組んで、舞台を見下ろした。
ダインの同志(?)は五人いるようだが、知らない顔ばかりだった。
それどころか、一人は鉄仮面を被った変人だ。
その人物以外は歳の離れた少年が多い。
「……あいつは、あんなメンバーと、どこで知り合ったんだ?」
シンプルに疑問を覚えるが、ダインの行動をすべて把握している訳ではない。
ホークスとて、たまにレナやダインには告げずにキャスリンと出かけたりする。
仲間であってもプライベートはあるものだ。
しかし、あまりにも統一性のないメンバーだった。
「けど、全然統一性がない集団だね」
それはキャスリンも抱いた感想なのだろう。
彼女は小首を傾げてそう呟いた。が、
「あ、共通点はあるのか」
そう思い直す。
リーダー格らしき鉄仮面の宣言を振り返る。
要は、彼らはあの青年に想い人の心を奪われている集まりなのだ。
オトハにサクヤ。サーシャにユーリィ。
そして、レナも――。
キャスリンが知るだけでも、とんでもないレベルの美女と美少女ばかりだ。彼女たち全員があの青年に強い想いを寄せているらしい。何とも凄いことである。
ただ、あれほどの綺麗どころばかりだ。
彼女たちに横恋慕する者たちがいてもおかしくはない。
その想いに駆られて、ダインたちはあの場所に立っているのだろう。
と、その時、ホークスが渋面を浮かべた。
「……しかし、情けない、話だな」
ホークスが呟く。
「店主殿は、今は、ただの街の職人だ。そんな人物に六人がかりで挑むなど……」
小さく嘆息した。
「ダインなど、現役の傭兵、なんだぞ……」
「あはは」
それを聞いて、キャスリンは苦笑いを浮かべた。
「確かにね。けど、流石にダイン君は、きっとこの場に立ちたかっただけで、六対一なんて考えてはいないと思うよ」
そこで頬に指先を当てる。
「実質的にはアッシュ君との一騎打ちかな。サーシャちゃんたちは結構凄いけど、基本的にこの国の人は闘技さえ知らないみたいだしね。きっと戦力になるとは思ってないよ」
そんな意見を告げるキャスリンに、ホークスは視線を向けた。
「なるほど。要は、この舞台を利用したかった、ということか。考えたな。ダイン」
「うん。まあ、どうなるかは分からないけど、意外といい機会かもね」
キャスリンは視線を観客席の一角に向けた。
そこには、会場の注目を集める白い髪の青年の姿があった。
遠目なので表情までは分からないが、かなり困惑した様子だ。
「……ふふ」
キャスリンは目を細めて笑った。
「アッシュ君。レナの心を射止めた君の実力。見せてもらうことにするよ」
ちなみに、さらに別の場所にて。
キャスリンが不敵な笑みを見せていた丁度その時。
そこでは、ちょっとした騒動があった。
「ええい! 離せ! 俺も行かねばならんのだ!」
「落ち着いてください。主君」
「俺こそが七人目の戦士! オトハにミランシャ! さらには、サーシャちゃんとアリシアちゃんも賭けて、奴に挑まねばならんのだ!」
「……おい待て。本当に二人増えているぞ。まさか本気で言ってたのか?」
「当然だ! だから離せ! 俺の同志が待っているのだからな!」
「頼むから落ち着け。それといい加減にせんと、本当に姫や奥方たちに刺されるぞ」
「それでも行かねばならんのだ! 男には決して退けぬ時がある! そう! 今こそ我が愛機・《黒陽星》を披露する時なのだ!」
「おい! 止めろ! それは我が社の最高機密だぞ! どこで披露する気だ!」
と、色々とあった。
閑話休題。
かくして。
愛の六戦士の聖戦が、いま始まろうとしていた。
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