第85話 少女の行方②

 その部屋の中は、ずっと静寂で包まれていた。

 時刻は午後七時。部屋の名前は415号室。ホテルの男子部屋だ。


 今、その部屋には四人の少年少女がいた。

 腕を組み、瞑想するように瞳を閉じて壁にもたれるロック。

 眉間にしわを刻みつけたまま、机の上に肘をつくエドワード。

 そして、寄り添うようにベッドに座るアリシアとユーリィの四人だ。

 昨日までなら、そろそろ夕食のためにラウンジへ向かうところなのだが、今は誰も動こうとしない。ただ無言で出かけている二人を待っていた。


 そして――。

 ガチャリ、とドアが開く。

 全員の視線が跳ね上がるようにドアに集まった。


「……待たせたな」


 と言って、部屋に入って来たのは、険しい表情のアッシュだった。

 彼の後ろには同じような表情のオトハもいる。


「アッシュさん!」


 アリシアが白髪の青年の名を呼ぶ。

 それを切っ掛けに全員がアッシュとオトハの元に集まった。


「師匠! 騎士団に協力は頼めたんですか!」


「そうだよ! 第三騎士団はいつ動いてくれんだよ!」


 ロックとエドワードが声を震わせて問う。

 アッシュとオトハは、今までこの街に常駐している第三騎士団の詰め所に出向いていたのだ。目的はサーシャ捜索の依頼である。

 アッシュは一度息を吐いて答える。


「まあ、少し落ち着け。まず騎士団だが……」


 そこで微かに眉根を寄せて、


「今はサーシャの捜索に避ける人員がないそうだ」


「「――はあッ!?」」


 少年達が揃えて声を上げる。

 ユーリィは目を見開き、アリシアは露骨に柳眉を逆立てていた。


「それ、どういうことなんですか! 人が一人攫われたのに、この街の第三騎士団はそんなお役所仕事なんですか!」


 アリシアが吠える。

 彼女の父は第三騎士団の団長だ。こんな体たらくは許せなかった。

 しかし、アッシュはかぶりを振り、


「いや、そういう訳じゃねえよ。純粋に人手が足りないそうだ。話を聞いてくれた騎士のおっさんはすぐさま早馬をラズンに出してくれたよ」


「……え? それってどういう?」


 アリシアが怪訝な表情を浮かべた。

 すると、アッシュの隣に立っていたオトハが口を開く。


「なんでも、今日は街中で十三件も盗難事件があったらしい。それもほぼ同時にな。犯人達は馬に乗って街を出たそうだ。騎士団の大半がそいつらを追っている」


「そのせいで今、街の門は封鎖されているし、詰め所はほぼ無人だ」


 と、アッシュが言葉を続ける。

 ロックがグッと唇をかみしめた。


「それでは騎士団の応援は……」


「全く期待できねえな。いくら早馬を出してくれても、ラズンからだと到着は早くて半日後だろう。はっきり言ってそれじゃあ遅すぎる」


「……サーシャ……」


 アリシアが辛そうに顔を歪めて親友の名を呟く。

 その時、今まで沈黙していたユーリィが口を開いた。


「……ねえ、アッシュ。その十三件の盗難事件って……」


 そこでユーリィは躊躇いがちに視線を伏せる。

 アッシュは苦笑を浮かべた。


「ああ。多分、ボルドの野郎が裏で手を引いているんだろうな」


「……え?」


 アリシアが唖然とした声を上げた。

 ロック、エドワードも驚きで目を剥いている。


「素直に捉えるなら騎士団の動きを封じるのと、後は陽動、か?」


 オトハが腕を組んで、そう推測する。確かにその可能性は高い。

 しかし、アッシュはすぐには答えず、あごに手を当てて、


「……いや。これはアピールだ」


 かつて幾度も死合った男の性格からはっきりと断ずる。

 オトハは眉根を寄せた。他のメンバーも似たような仕種をしていた。


「わざわざ選択肢を一つにしてくれたんだよ。あの野郎……」


 言って、アッシュは獰猛に歯を見せた。

 要するに取り返せるものならばご自由に。といったところか。


(舐めきってくれてんな。ならいいさ。今度こそ塵に変えてやる)


 そう決断して、アッシュは拳を固める。

 そしてオトハに目配せし、


「……オト。大体、サーシャの居場所は分かった。手伝ってくれるか?」


「ッ! 居場所が分かったのか! ならば当然手伝うが……」


 と、答えるオトハ。アッシュは頷き、


「詳しくは道中で話す。今は急ぐぞ」


 そう言って、彼女と共に部屋を出ようとした――が、


「ま、待って下さい! アッシュさん!」


 アリシアがアッシュの手を掴んで止める。


「サーシャの居場所が分かったって本当なんですか! だったら私も!」


「そ、そうっすよ! 俺達も行くっす!」


「級友をこのままにしておけません」


 アリシア、エドワード、ロックの順にそう告げる。

 そして最後にユーリィがアッシュの上着の裾を掴んだ。

 上目遣いの眼差しは「私も行く」と静かに訴えかけていた。

 アッシュは嘆息しつつ、ユーリィの頭に手を置き、


「あのな。気持ちは分かるが、確実に戦闘になる場所にお前らを連れていけるか」


「……そうだな。なにせ相手はボルド=グレッグ。かの《九妖星》の一人だしな」


 オトハが忌々しげな口調でそう吐き捨てる。

 アリシア達は訝しげに眉根を寄せた。聞き慣れない名称を聞いたからだ。


「あの、教官。その『クヨウセイ』とは?」


 ロックがオトハに問う。

 すると、オトハは神妙な面持ちを浮かべた。


「……《九妖星》か。それはな。《黒陽社》における最高戦士に与えられる称号らしい。ふざけた事に私達、《七星》に対抗するために、あつらえた称号だそうだ」


「ッ! それって、敵には今、《七星》クラスの人間がいるってことですか!」


 と、目を剥くアリシアに、今度はアッシュが答える。


「……ああ。どうも連中はキャリアアップに『戦闘力』って項目があるらしくてな。他の支部長や本部長とやらを全員知ってる訳じゃねえが、少なくともボルド=グレッグは俺やオトと同格の実力を持っている」


「さらに言えば、お前達が会ったカテリーナ=ハリスも鎧機兵を扱えば、それに次ぐ実力があるらしいぞ」


 と、オトハが補足する。

 アリシア達は言葉もなかった。事態は想像以上に深刻だったのだ。

 アッシュはユーリィの頭から手を離し、言葉を続ける。


「だから、お前らを連れていく訳にはいかねえ。流石に危険すぎる」


「で、でもッ!」


 なお言い募ろうとするアリシアに、アッシュはかぶりを振る。


「アリシア。サーシャを心配するお前の気持ちはよく分かる。けど、ここは俺達を信じて待っていてくれ」


 言って、アッシュはアリシアの頭に手を置いた。

 アリシアが少し動揺する。アッシュの癖。他の女の子にするところはよく見ていたが、自分にされたのは初めてだった。


 ……頭を撫でられるなどいつ以来だろうか。


「アリシア。分かってくれるか」


 優しいアッシュの声。彼が自分を――自分達を心配してくれているのがはっきりと伝わってくる。アリシアはしばし迷うが、こくんと頷いた。

 リーダー格のアリシアが納得した以上、ユーリィとエドワード達も渋々承諾した。

 アッシュは、そんな彼らにふっと笑う。


「まあ、ゆっくり待っていてくれ。とっととサーシャを連れて帰って来るさ」


「私達は《七星》だぞ。《九妖星》が相手だろうが、二人もいて遅れをとっては沽券に関わる。フラムは必ず救出する」


 オトハが不敵な笑みを見せてそう告げる。


「……お願いします。師匠、教官」


「フラムのこと、頼むッす!」


 姿勢を正して頭を下げるロックとエドワード。


「アッシュ」


 ユーリィに名を呼ばれ、アッシュは片膝をついた。


「メットさんを助けてあげて」


 そしてユーリィはアッシュの首にしがみついた。

 アッシュはユーリィを抱きしめ、頭をポンポンと叩く。


「もちろんだ」


 言って、ユーリィから離れた。

 そしてオトハの顔を見やり、


「おし。じゃあ行くかオト」


「ああ、しかし、お前と一緒に戦場に立つのは久しぶりだな」


 どこか嬉しそうに言うオトハに、アッシュは苦笑を浮かべる。


「ったく。しっかりしてくれよオト」


「ふん。分かっているさ。私はお前と違って現役の傭兵だぞ。救出作戦など腐るほど経験している。断じて失敗しないさ」


 腰に手を当てつつ、たゆんと大きな胸を揺らして自信満々に語るオトハ。

 アッシュは再び苦笑した。


「ふふっ、そんじゃあ頼りにさせてもらうぞ、オト」


 そうやり取りして、二人は部屋を出ていった。

 残された者も全員部屋から出る。

 再び深々と頭を下げる少年達。

 ユーリィは無言でアッシュ達の姿を見つめていた。

 そしてアリシアは、


「……アッシュさん。オトハさん……」


 二人の背中が廊下の奥に消えるまで、その場に立ちつくすのだった。



       ◆



「さて。それじゃあ、作戦会議といきましょうか」


 全員が部屋に入るなり、いきなりアリシアがそんなことを言い出した。

 ユーリィ、エドワード、ロックの三人はキョトンとした表情で目を瞬かせる。


「……? 作戦会議だと? 何を言っているんだ、エイシス?」


 ロックが眉をしかめて尋ねると、


「当然、サーシャを救出する作戦会議よ」


 アリシアがやや慎ましい胸を張って堂々と告げる。

 ユーリィが訝しげな表情で小首を傾げた。


「何をする気なの? アリシアさん」


「はあ? お前さっき師匠達に『待ってる』って返事したばかりじゃねえか」


 と、呆れたような口調で告げるエドワード。

 アリシアはふふんと鼻を鳴らした。


「アッシュさんの前よ。私だってしおらしくなるわ。けど、サーシャが攫われたのよ。ただ待つなんて出来る訳ないじゃない。私達にも何か出来ることはあるはずよ」


「いや、その気持ちは分かるがな……」


 ロックが困惑した声を上げる。


「……危ないことをするとアッシュが怒る」


 ユーリィが渋面を浮かべて告げる。

 そしてエドワードもアリシアの制止に入った。


「そうだぞ! 余計な事をすりゃあ、後で師匠に怒られんぞ!」


「大丈夫よ。ユーリィちゃんが目一杯甘えながら謝って……後はそうね。オニキスが塵にでもなっとけば、アッシュさんはきっと許してくれるわ」


「……まあ、確かにそうかもしれんな」


 アリシアの説得力抜群な台詞に、ロックが腕を組んで呻いた。

 ユーリィも「なるほど」と納得している。

 一人、エドワードだけは「待て! お前、今さらりと俺に死ねって……」とわめいていたが、アリシアはふっと苦笑して、


「まあ、冗談はここまでにして」


 と、前置きし、


「……アッシュさん達が私達を心配してくれる気持ちは理解できるのよ。けど、サーシャは私の前で攫われたのよ。やっぱり私はこのままじっとなんてしていられない」


 そこでアリシアは悔しげに眉をひそめた。


「だけど、私一人じゃあどうしようもないのよ。アッシュさん達には後で私が全責任をとって謝るわ。危険な真似も出来るだけ避ける。だから、みんなには悪いと思うけど、どうか手伝って欲しいの」


 そう言って、アリシアは深く頭を下げた。

 三人は互いに目配せする。アリシアの気持ちは痛いぐらいよく分かる。

 ただこのまま待つだけの状況に苦痛を感じていたのは彼らも同じだった。

 

 シン、とした空気が部屋に流れる。

 アリシアを除く三人は、しばし考え込むように沈黙を続けた。


 そして数十秒後、最初に口を開いたのはロックだった。


「……頭を上げろ、エイシス。俺達も気持ちは同じだ」

 

 続いてエドワードが苦笑いをした。


「ったく。しゃねえなあ」


 結局、少年二人はアリシアに賛同した。

 級友の少女が、みすみす目の前で攫われたのだ。

 騎士を目指す少年としては、やはり大人しくなどしていられなかった。


「……ありがとう。二人とも」


 アリシアは顔を上げると、ロックとエドワードに礼を述べる。

 そして、沈黙を続けていた最後の一人。

 ユーリィは小さく嘆息すると、


「分かった。私も協力する。私も付いて行く」


 そう協力を申し出た。

 アリシア達は目を丸くした。


「ユーリィちゃん、それは……」


 そして、アリシアは躊躇うように口籠った。

 ユーリィは騎士候補生でもなんでもない。ただの一般人だ。

 アリシアとしてはユーリィだけは部屋に残して行くつもりだったのだが……。


「私も付いて行く」


 ユーリィがアリシアの瞳を見据えて、はっきりと告げる。

 有無を言わせない口調だ。


「私はこの中で唯一ボルド=グレッグを知っている。少しは役に立つと思う」


 敵を知っているのと知らないのでは、状況がまるで違う。

 少しでも危険を回避するため、こればかりはユーリィも譲れなかった。

 思わず沈黙する騎士候補生達。

 すると、ユーリィは少しだけ破顔して――。


「みんなで無事に帰ってアッシュに怒られよう」


 そんなことを言われて、アリシア達は思わず苦笑をこぼした。

 ――その通りだ。サーシャも含めて全員で帰るのだ。

 彼らの決意は今固まった。


「んじゃあ、頑張るっきゃねえか」


「ああ、そうだな」


「ガンバろ。みんな」


 と、三者三様の声を上げるユーリィ達。

 アリシアは目を細めて微かな笑みを浮かべた。


「……ありがとう。みんな」


 そして万感の想いを込めて、改めて礼を述べる。

 ロックは少し頬を赤くして頭をかき、ユーリィは微かに笑みを浮かべる。

 エドワードは肩をすくめた後、ふとアリシアに尋ねた。


「けど、実際どうすんだよ? 師匠は、なんか居場所が分かったみたいな言い方してたけど、詳しくは聞かなかったじゃねえか」


「うん。それなんだけどね」


 アリシアがあごに手を当てて俯いた。

 何やら考え込んでいるようだ。三人はただ黙って様子を見守る。

 そしてしばらくして――。


「……さっき、アッシュさんは『選択肢を一つにしてくれた』って言ってたわ」


 アリシアがようやく口を開く。

 ロックが腕を組みつつ、眉をしかめた。


「確かにそんなことを言っていたな。どういう意味だったんだ?」


 一番アッシュと近しいユーリィに視線を向けるが彼女は首を傾げるだけだった。

 そんな二人をよそに、アリシアはぽつぽつと語り出す。


「……この街、ラッセルは海岸沿いにある街よ。ここから外に出るには二つ方法があるんだけど、それって何か分かる?」


 アリシアの問いかけには、エドワードが答えた。


「そりゃあ、門から出るか、後は海から船でも使うかだな」


 アリシアはこくんと頷く。


「その通りよ。要は陸路か海路ってこと。そして今、その一つ陸路が封鎖されている。二つの選択肢が一つになっているのよ」

 

 何かに気付いたのか、ロックが目を剥いた。


「……ッ! そうか、なら敵には……」


「ええ。海路しか逃走ルートがない状況なのよ」


 アリシアが腕を組み、そう断言する。

 対し、エドワードが訝しげな顔をして首を捻った。


「……? なんでだ? 師匠の話だと門が封鎖されたのは盗難事件のせいだろ。敵はそいつらの黒幕なんだろ? なんで自分から逃走ルートを一つ潰したんだ?」


 至極真っ当な意見だった。

 この状況は明らかに墓穴を掘ったようにしか思えない。

 すると、ユーリィが俯きながら、ぽつりと口を開いた。


「……もしかすると、ボルド=グレッグの本当の狙いはアッシュかもしれない」


「どういうこと? ユーリィちゃん」


 アリシアが尋ねると、ユーリィは顔を上げて、


「アッシュとあの男は今まで何度か戦ったことがあるの。けど、いつも何かしらの邪魔が入って決着がついたことがないの。だから……」


「今こそ雌雄を決する、か」


 ロックがユーリィの言葉を継ぐ。


「けど、ユーリィちゃん。それっていくらなんでもリスクが高すぎするんじゃない? だってオトハさんもいるのよ?」


 アリシアの疑問に、ユーリィはかぶりを振った。


「あの男はあまり気にしないと思う。どんな障害があっても今自分が一番したいことを優先させる。どこまでも自分の欲望に従う、そういう男だから……」


「……なにそれ。まるでガキみたいなおっさんね」


 アリシアが呆れ果てた声で呟く。

 エドワードとロックも同意見なのだろう。呆れた表情を見せていた。

 しかし、ユーリィだけは違っていた。


「……昔、アッシュが言ってた。あの男は恐ろしいって」


「……恐ろしい? アッシュさんが?」


 アリシアが目を見開いて反芻する。


「あの男の心には善悪の葛藤がないんだって。仲間のために身を呈することもあれば、何の躊躇いもなく人を殺すこともある。あの男はどちらの行動にも迷いがないの。心の中に善への呵責もなければ悪への陶酔もない。状況次第で簡単に反転する。あまりにも異常過ぎて、時々あの男が本当に人間なのかも疑うって……」


 ユーリィの説明に、アリシア達は言葉を失った。

 空色の髪の少女はさらに言葉を続ける。


「私もアッシュも他の支部長をもう一人だけ知っている。絵に描いたような残虐非道な男だけど、そいつの方が百倍マシだって。ボルドは善良なスタンスから何の前触れもなく悪逆な対応を取るから……それが怖いって」


 ユーリィの説明はそこで終わった。

 アリシア達は沈黙していた。

 しばし静寂が部屋の中に訪れる。


(……そんな奴にサーシャが……)


 アリシアはキュッと唇をかむ。そして面を上げた。


「想像以上にヤバい状況なのね」


「……けどよ。海路っていっても、この街は一応港町でもある訳だし、漁船とかは無数にあんぜ? 奴ら一体どの船を使って逃げる気なんだよ?」


 エドワードの問いに、アリシアはふっと苦笑する。


「そんなの簡単じゃない」


「……? どういうことだ、エイシス。目星がついているのか?」


 今度はロックが問う。ユーリィも小首を傾げていた。

 アリシアは困惑する仲間達に告げる。


「まずそのボルドって奴はアッシュさんと決着をつけたいと考えている、と前提に置くわよ。ならアッシュさんが迷わないように海路の方も分かりやすいものを使うわ」


「分かりやすい海路?」


 ユーリィが怪訝な表情を浮かべる。


「それって灯台とか、何か目立つような場所から出航するってこと?」


 その問いに対し、アリシアは長い髪を揺らして首を横に振った。

 その可能性もありそうだが、恐らく違うだろう。

 この街はリゾート地だ。目立つスポットならいくつもある。まだ選択肢が多い。 それでは辿り着けない場合も考えられる。


「……多分、目立つ場所じゃないわ。目立つ船で出航する気なのよ」


 その可能性が一番高い。アリシアはそう睨んでいた。


「目立つ、船だと?」


「お、おい! それってまさか!」


 ロックとエドワードが驚愕で目を見開いていた。

 一方、「その船」を直接見ていないユーリィだけは半信半疑の顔をしていた。

 そして、アリシアは神妙な面持ちで彼女の推測を告げた。


「遊覧船、《シーザー》……。奴らはあの鉄甲船を強奪してこの街から――いえ、この国から脱出する気なのよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る