3月1日(水)-前編-
特別編-High School Graduation-
今日から季節は春になった。
また、今日は僕の通っている私立八神高等学校の卒業式の日でもある。ちなみに、栞の通っている私立天羽女子高等学校も卒業式が執り行われる。八神の卒業式が終わったら、栞の卒業する天羽女子高校へと迎えに行くことになっている。
小学校のときは3月下旬、中学のときは3月10日、高校では3月1日と進学するにつれて日にちが早くなっている。まさか、大学では2月中に卒業式を迎えるということは……さすがにないよな。
「今日で卒業なのね。何だか寂しいわ」
「そうだな」
亜実とは3年間同じクラスだった。高校生活の中で一番よく話した八神高校の女子生徒は亜実だったな。
「でも、まだ第1志望の受験が残っているから卒業した感じがしないな」
「確かにそうかもね。あたしは私立だからもう終わったよ」
「おめでとう。あと、受験お疲れ様」
「ふふっ、ありがとう」
亜実は私立大学の文学部に合格した。進学先が決まっていると、今日の卒業式で一つの区切りがつくんだろうな。ちなみに、僕と栞は亜実の進学する大学の経済学部に滑り止めとして受験し合格している。
「何なら、日高さんと一緒にうちの大学に来てもかまわないよ? 学部は違うけれど」
「おいおい、そういうことを言わないでくれるかな」
「ふふっ、冗談よ」
「冗談か……」
まったく、自分はもう受験が終わっているからって。まあ、彼女なりに僕の気持ちを軽くしてくれているんだろうけれど。
「日高さんっていう彼女がいるのに、学校ではあたしと結構話していたよね」
「……彼女ができると男子よりも女子の方が話しやすいというか。もしかしたら、それは亜実だけかもしれないけれど」
「……そういうことを言われるとまた好きになっちゃうじゃない」
もう、と亜実は顔を赤くしながら僕の背中を叩く。
女子なら誰でもというのは大げさだったけれど、亜実とは気兼ねなく話すことができたのは事実だ。亜実と話すことが多かったので、一時は僕と亜実が付き合っているという嘘が校内に広がったほどだ。今となってはそれも笑える思い出の1つになっている。
「さあ、もうすぐで卒業式ね」
「そうだな」
私立八神高等学校は生徒の数がかなり多いので、近くにあるホールを利用して卒業式が行なわれる。
卒業式が始まるけれど、小学校や中学校のときと比べて式典という感じが強い。卒業生の名前が一人一人呼ばれるけれども、その場で立てばいいだけだし。中にはふざけて席から立つ生徒もいて笑いが巻き起こる楽しい卒業式となった。
「何だか楽しい卒業式だったね」
「そうだな」
軽い感じではあったけれど、こういう卒業式を経験できたのは良かった。人数の多い私立高校ならではなのかも。
高校に戻って担任から卒業証書と卒業アルバムを渡される。さすがに、この2つを渡されると、受験が終わっていなくても高校を卒業したのだと実感できる。
「国公立の受験を控えている人もいるけれど、みんな卒業おめでとう!」
担任のそんな言葉で高校最後のホームルームが終わった。
その後は自由となり、教室での最後の時間をゆっくり過ごす生徒もいれば、さっさと帰ってしまう生徒もいた。
僕は友達の卒業アルバムにメッセージを書いたり、スマートフォンで一緒に写真を撮ったりしていた。
「悠介。今日まで3年間ありがとね。楽しかったわ」
「ああ、僕も楽しかったよ」
「その……悠介から日高さんに伝えておいて。卒業おめでとうってことと、国公立の受験を頑張ってねって」
「うん、分かった」
こういうやり取りをしていると今生の別れのように思えてくる。亜実とは割とメッセージで話をするし、今後も時々会うんだろうけれど。
――プルルッ。
そんなことを考えていたら、栞からメッセージが来たな。
『悠介君に会わせたい後輩の子がいるんだ。
というメッセージが届いた後に、栞と後輩らしき金髪の女の子が一緒に写っている写真が送られてくる。金髪の子が朝比奈さんなのかな? 栞に負けず劣らず可愛い。
「可愛いね」
「栞の高校の後輩らしい。僕に会わせたいんだって」
「へえ。さすがは女子校だとこういう可愛い女の子もいるんだね」
思い返せば、栞や金髪の子くらいに可愛い女子生徒は八神にいなかったな。亜実はそれなりに可愛いけれど。
「そういえば、天羽女子も今日が卒業式なんだよね。友達から連絡来たし」
「うん。これから天羽女子に行く予定だけれど、亜実も一緒に来る?」
「あたしはいいよ。色々と誤解を生みそうだし」
「……そっか」
栞がいるから誤解されないと思うけれど。金髪の子も落ち着いている感じだし。
「じゃあ、栞が天羽女子で待っているから、僕はそろそろ帰るよ。亜実、3年間どうもありがとう。これからもよろしく」
「……うん。楽しかったよ。あたしこそよろしく」
僕は亜実と握手を交わした。
その後、友達と担任の先生に軽く挨拶をして僕は八神高校を後にする。今後、ここへと実際に足を運ぶことはあまりないだろう。
「3年間お世話になりました」
学舎に向かって頭を下げ、スマートフォンで1枚写真を撮って、栞の待っている天羽女子高校へと向かうのであった。
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