特別編 in 2016
2月14日(日)
特別編-Valentine’s day in 2016-
2月14日、日曜日。
今年のバレンタインデーは日曜日となった。去年、栞と初めて迎えたバレンタインデーと同じように今年もバレンタインデートをする。
「しかし、今年のバレンタインデーは暑いな……」
こんなに暖かいバレンタインデーになることは今後あるのだろうか。そのくらいに今日は季節外れの暖かい気候となっている。
午前は雨の予報なので、午後からデートをすることに予報では午後から晴れるらしいけれど、この雨と風の強さだ。晴れるかどうか不安である。
午後1時半。
僕は鳴瀬駅のホームに立っている。いつも、学校に行くときと同じように、先頭車両の一番後ろの扉だ。今日は栞と一緒に隣の畑町駅の周りでデートをする予定だ。
不安だった天気も風は強いものの、空は晴天。春へと確かに近づいていることを感じさせてくれる強い日差しが僕を照らしている。ワイシャツ姿だけれど、かなり暑く感じた。
数分くらい待つと、八神行きの電車がやってくる。この電車に栞が乗っているはず。
「悠介君」
扉が開くと、そこには白いワンピース姿の栞が待っていた。
「今日は暑いね、悠介君。冬には着ないワンピースにしてみたよ」
「よく似合ってるよ、栞」
「……ありがとう」
栞は頬を赤くし、ちょっと照れくさそうな感じで微笑む。可愛いな。
電車に乗って、畑町駅へと向かう。
「こんなに暖かいバレンタインデー、そんなにないよね」
「去年は寒かったからなぁ」
「バレンタインデーなのに、バレンタインデーじゃない感じがするね。私と悠介君が恋人同士になって初めてデートをしたときのような暖かさだよね」
「そうだな。あのときも畑町でデートしたな」
もう、あれから2年近く経つのか。
栞も僕もアニメが好きなため、結構な頻度でアニメ専門店の多い畑町デートをしている。今日、畑町でデートをするのも、あるアニメが絡んでいる。
「確か、今日はルゼちゃんの誕生日なんだよね」
「そうなの! それを記念して、アニメイクで笑顔を見せれば、スペシャルなプレゼントが貰えるキャンペーンをやってるの」
そう、今日……2月14日は栞の大好きな『ご注文はねこですか?』の主要キャラクターの一人、ルゼちゃんのお誕生日なのだ。僕もその作品は好きで観ていたけれど、ルゼちゃんの誕生日が今日であることを知ったのは昨日だった。
「栞は大丈夫だと思うけれど、ルゼちゃんのような笑顔、僕は見せられるかな」
「大丈夫だと思うよ」
栞はニッコリと可愛らしい笑顔をしてくれる。ルゼちゃんに負けていない。もう既に幸せな気持ちに浸り始めている。
程なくして、畑町駅に到着。
改札を出ると、今日はバレンタインデーということもあってか、いつになくカップルが多い印象だ。そして、この時期にない爽やかな服装の人が多い。
「さっそく、アニメイクに行こう!」
「はいはい」
栞に手を引かれる形で、僕らはアニメイクというアニメ専門店へと向かう。
人気作品の人気キャラクターということもあって、店に入ってすぐにロゼちゃんの誕生日を祝うコーナーが設けられている。
「ルゼちゃん、可愛い……」
栞はルゼちゃんに見とれている。胸がぴょんぴょんしているのかな?
「僕は栞の方が可愛いと思うけれどな。そういえば、今日の栞は……あれか、ラゼちゃんに似てる感じがする」
「分かった?」
「うん、やっと分かった」
何かのキャラクターに似ている感じだと思ったら、普段と違う服を着ているルゼちゃんだったんだ。作中ではお店で一緒に働いている女の子に見つかっちゃって、ラゼちゃんとごまかしたんだったっけ。
「ルゼちゃんみたいな女の子、憧れるなぁ」
「凜々しくてかっこいいよな」
作中でも女の子に憧れを持たれていたな。
それにしても、栞は凜々しい人に憧れを抱くのか。僕もルゼちゃんを見習って凜々しくなっていった方がいいのか……な?
「悠介君、お誕生日祝いにルゼちゃんのグッズを買いましょう」
「分かった」
今までキャラクターグッズを買ったことは全然なかった。リゼちゃんのグッズは一切持っていなかったけれど、この機会に買ってみることにしよう。
例のキャンペーンは会計時にアニメイクの会員カードを出して、作中のルゼちゃんのようなとびきりの笑顔を見せればいいらしい。
まず、最初に栞がレジへと向かう。店員さんにとびきりの笑顔を見せたのか、栞が持っていたものとは違うものが袋に入れられているのが見えた。貰えたんだな。
そして、僕の順番になる。
「今日はごちねこのキャンペーンをしているんです。ご存じですか?」
「は、はい。知ってますけど」
「それじゃ、にこっ、と笑顔を見せてください」
「……こんな感じですか?」
店員さんの顔を見て笑ってみると、店員さんは顔を真っ赤にして、
「あ、ありがとうございますっ! すぐにご用意しますね!」
慌ててグッズを取りに向かった。慌てられるほどに僕の笑顔っておかしかったのかな。ちなみにその店員さんは女性。
ごちねこのキャンペーングッズを受け取って、会計を済ませると、レジの近くに不機嫌そうな栞が待っていた。
「待たせちゃったかな、栞。ごめんね」
「……店員さんが顔を真っ赤にするほどの笑顔を見せたかと思うと、その……羨ましいなと思って」
「そっかそっか」
栞が羨むほどの笑顔を僕は見せることができていたのか。それは嬉しい。
「こんな感じの笑顔を見せたんだよ」
店員さんのときと同じような笑顔をしたら、栞は瞬く間に顔を真っ赤にしていた。
「……ルゼちゃんよりも素敵だよ」
「それは嬉しいな」
憧れの人よりも素敵だと言われるんだ。より嬉しい気持ちになった。
アニメイクで目的を無事に果たした後は、駅の周りでショッピング。いつもと同じようにあっという間に時間が過ぎ去っていく。
日も大分傾き始めたところで、僕と栞は畑町駅へと戻って、潮浜方面のホームへと向かう。
「悠介君。今日はバレンタインデーなので」
そう言うと、栞はバッグから、赤いリボンで結ばれたピンク色の袋を取り出し、僕に渡してきた。
「いつもありがとう、悠介君。今年も手作りしたの」
「ありがとう、栞。嬉しいよ。こちらこそ……いつもありがとう」
栞と付き合い始めてから、本当に毎日が楽しい。たまに喧嘩したり、お互いに嫉妬してしまったりするときがあるけれど、本当に栞と一緒にいることができて幸せだ。
「栞、ありがとう。大好きだ」
本当は口づけをしたかったけれど、周りに人がいるので栞の額にキスをする。
すると、栞はアニメイクでの赤い顔とは比べものにならないくらいの真っ赤な顔になる。本当に可愛い。
「もう、恥ずかしいよ……」
そう言いながらも栞ははにかんで、僕の胸に顔を埋めた。僕はそんな栞の頭を優しく撫でる。
「来年のバレンタインも一緒に過ごそうね。受験で大変かもしれないけど」
「もちろんだ。一緒に同じ大学に行けるように頑張ろう」
4月からは僕と栞は高校3年生となり、本格的に受験勉強が始まる。来年のバレンタインデーは大学受験の最中だ。大変な時期だっていうのは分かっているけれど、バレンタインデーくらいは栞と一緒の時間を過ごしたい。
「来年もルゼちゃんのお誕生日を祝おうね」
「そうだね」
お誕生日なので来年だけに留まらず、再来年以降も続くだろう。
こうして、とても暖かな2016年のバレンタインデーはと終わった。2017年のバレンタインデーがどんな一日になるのか、今から楽しみになってしまうのであった。
特別編- Valentine’s day in 2016- おわり
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