4月17日(木)
今日もいつもの午前7時27分発、各駅停車八神行きを待つ。もちろん、先頭車両の一番後ろの扉が止まる場所で。
定刻通りに電車が到着すると、最後に乗って扉のすぐ近くに立つ。
高津田駅を出発した途端、胸がドキドキしてきた。昨日、私のことを見つめてきた彼が、どんな想いを抱いていたのかが気になって。その想いが私とちょっとでも重なっていたら嬉しいけれど、そんな夢物語が本当にあるのかな。あるといいな。
やがて、鳴瀬駅に到着すると、今日もいつもの場所に彼が立っていた。扉が開くや否や、私は彼に向かって小さく手を振った。
「おはようございます。今日もお話ができますね」
「また明日って毎日言っているじゃないですか」
彼は微笑みながらそう言ったけれど、彼の放つ言葉にちょっとショックを受ける。また明日って言ったのはまずかったのかな。私とまた会わなきゃいけないって彼に思わせちゃったのかな。
「……ご迷惑でしたか?」
彼が気負いしてしまうことは言わないように気を付けないと。
「そんなことないですよ。その……嬉しいです」
彼は優しい笑顔をしてそう言ってくれた。その言葉が彼の本心であることもすぐに分かって。
「……良かった」
ほっと胸を撫で下ろしたところで、鳴瀬駅を出発した。
その瞬間、彼は可愛らしくあくびをする。
「寝不足ですか?」
「……ええ、今日提出の課題に時間がかかっちゃって」
あくびをしたところを私に見られたからか、彼ははにかみながらそう言った。可愛いなぁ。きっと、深夜まで勉強をしていたんだ。偉いなぁ。
「私はまだ宿題を出されたことはないですね」
「羨ましいです」
「八神高校は結構な進学校ですもんね。難関大学にも合格しているんですよね。そんなところだと、スタートから凄そうです」
「それは特進クラスの話ですよ。僕のいる普通クラスはそんなに厳しくないです」
そうは言うけれど、勉強が厳しくないのは彼だからじゃないかなと思ってしまう。
「そうなんですね。眼鏡をかけているので、てっきり特進クラスの方だと思いました。勉強できますって感じがするので」
真面目で、優しくて、頭のいいまさに優秀な高校生って感じがする。それに、かっこいいし。才色兼備って言葉が彼のような人のことを言うと思う。あれ、その言葉って女性に使う言葉だったっけ?
とにかく、そんな彼のことについて気になることはまだまだある。
「そういえば、部活はどこか入ってますか?」
「どこにも入ってないですね。仮入部期間に面白そうな部活を回ったんですけど、どこも入る気にならなくて」
「そういう人もいますよね。私のクラスでも帰宅部に決めた子が何人かいますよ」
「そうなんですか」
運動部でも文化部でも活躍しそうな気がしたけれど、まさかの帰宅部。うちのクラスにも、彼のように面白そうな部活がなかったという理由で部活に入らない子はいる。
「ちなみに私は茶道部に入部しています」
いつかは彼のためにお茶を点てたいな。今はまだ全然上手じゃないけれど。
「茶道部ってことは、お抹茶を実際に点てるってことですか?」
「そうですね。茶道に興味があったのと、あとは……甘いお菓子が食べられるのに惹かれて」
クラスメイトに言っても何ともなかったのに、彼に言うと恥ずかしいな。お茶よりもお菓子の方が一番の目当てに思われちゃったかな。
「……いつか飲ませてくださいね。あなたの点てたお茶を」
彼は私のことを見つめながら、そんなことを言ってくれた。嬉しいな。部活の方で一つ、大きな目標ができた。
「去年の文化祭で茶道部がお茶を出していたので、きっと今年の文化祭でも飲めると思いますよ」
「……そうですか」
そう言う彼の笑みは何だか寂しそうに思えた。文化祭は半年後くらいだから、先過ぎたかなぁ。
でも、初心者も同然の私が、今すぐに彼にお茶を点てることなんてできない。それに、彼のために出すのなら、上手くなってから彼に味わわせたい。
『まもなく、鏡原、鏡原。お出口は左側です』
今日もあっという間に鏡原駅のすぐ近くまで来ちゃったんだ。誰かと話していると、本当に時間があっという間に過ぎていく。もっとこの時間が続けばいいのに。
「あっという間ですね、本当に」
「そうですね。明日もお話ししましょう」
「……うん。そうしましょう」
今日は彼の方からまた明日と言ってくれた。明日も会えるんだと思うと、今から嬉しくなってしまう。本当に私、彼のことが好きなんだな。
電車が鏡原駅に到着したので、私は降車した。
1人になって、駅の改札を出たところで思う。
「そろそろ、彼に好きだって告白することも考えてみようかな……」
今の彼との関係でも楽しく話はできる。
けれど、恋人同士になったらきっと、彼と一緒にいる朝の15分間がもっと楽しくなると思うし、もしかしたらそれ以外の時間にも彼と一緒にいられるかもしれない。できるのなら、今よりももっともっと彼と一緒にいたい。
彼に告白をすること。少しずつでも考えていくことにしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます