4月30日(水)-前編-
カラオケ店を出た後、僕が鳴瀬駅で降りるまでの僅かな間、栞と色々なことを話した。でも、楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていったのであった。
今日も鳴瀬駅のホームでいつもの電車を待っている。栞と一緒にいられる15分という時間、何を話そうか家を出てからずっと考えながら。そういえば、栞と付き合うことになった翌日も同じことを考えていたな。
あのときは緊張していたけれど、今は違う。本当に栞と話したい気持ちでいっぱいで。それもこの数日間でぐっ、と栞との距離が縮められたからなのかな。
「今日も晴れてるなぁ……」
日光が直接当たっているためか結構暑い。ブレザーを脱ぎたい気分。
『まもなく、1番線に各駅停車八神行きが参ります』
そのアナウンスの直後、八神行きの電車がやってきた。
当然、僕の目の前にある扉が開けば、栞が待っていると思っていた。
だけど、今日は――。
「いない……」
栞の姿がそこにはなかった。僕の顔を見ると嬉しそうに笑う彼女がいなかった。
――別のところにいるんじゃないか。
僕を驚かせようという可愛らしい悪戯心が、栞をここからいなくさせたんだ。
そんな淡い希望を持ちながら、僕は電車に乗った。さあ、僕を驚かすなら早く驚かしてほしい。後ろから君の声を聴かせてほしい。
だけど、そんなことはなかった。
普段より空いているので、僕は周りを確認してみるけれど、栞の姿はどこにも見当たらなかった。
「何かあったのかな……」
誰にも聞こえないように呟いた。
何事もなければ栞はここにいるはずなんだ。
でも、実際にはいない。栞の身に何かあったに違いない。
例えば、家を出てから忘れ物に気付いて家に戻ったとか。ゴールデンウィークだから平日だけど今日も休みだったとか。それか、体調を崩して休んでいるとか。昨日、たくさん歌って、喉の調子がかなり悪くなっているということだって考えられる。
だけど、栞の性格からして、いつもの電車に乗れないことをメッセージやメールで伝えてくるだろう。風邪とかでそれどころじゃない可能性もあるけれど。
でも、なぜか不安になってしまう。これは、一昨日……僕と一緒に帰ることができないときに栞が抱いた不安に似ているのだろうか。
「栞に会いたい……」
きっと、栞も同じ気持ちを抱いてくれていると信じている。
そんなことを考えていても、栞のいない電車は僕を八神へと連れて行く。鏡原駅を過ぎるまでの15分間は、今までの中で一番長く感じるのであった。
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