君と魔術と星空と

@fw_no104

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「あいつ、さかな、たべるかな」

 地下に向かう階段に足を出したシェリーナは、その声に、キッと右肩の辺りを睨んだ。

「食べないなんて言ったら、無理やりにでも口に突っ込んでやるわよ! ふざけんのも大概にしろっての、あの寝癖!」

 彼女は憤然と階段を降りる。

 昼なお暗い廊下の壁は、ごつごつした石がむき出しになっていた。雨が降るたび隙間から染み出す水の跡が、薄気味悪い模様を描き出している。明かりに照らされると、石の凹凸も手伝って、なお悪い。

 木が朽ちたような、湿った泥のような、黴のような、陰気くさい匂いもする。目に見えない小さな生き物が大量に繁殖しているような、そんな匂いだ。

 歩くたびに、床板が嫌な音を立てる。

 彼女が育った場所も、華麗とは程遠かったが、さすがにここまでではなかった。

「今日こそ、あいつに、ごちそうさまって言わせてやる! そんなこともできないやつは、本を読む資格なんてなし!」

「なーんて、また、いいだせずにおわるんだ」

「しぇりーな、おひとよしだからな」

 ぐふふ、と付け加えられた笑いに、彼女は怒気も露わに廊下を進んだ。目的の扉の前で立ち止まると、大きく息を吸う。

「みてなさいよ、ねぐせ!」

「人の思考を読まないで!」

 金切り声で叫びながら、彼女は扉を勢いよく開けた。

「ファルさん、ただ今戻りました! って、ファルさん!」

 新鮮な魚の包みを放り投げて、彼女はファルに駆け寄った。床に積み重なっていた書物が崩れてしまったが、知ったことではない。

「大丈夫ですか? 寝てんですか、うわっ!」

 書棚に囲まれ、大量の紙と書物が折り重なる机に、彼はぐったりと突っ伏していた。最前まで握っていたらしいペンが転がり、インク壺もひっくり返っている。

(だから言ったのに、この寝癖ーっ!)

 口に出さなかったのは、触れた彼の額が、思った以上に熱かったからだ。彼女の肩から、うっすらと光る丸いものが、ふわふわと降りた。てんでにファルに近寄る。

「あつっ!」

「こいつ、しぬんじゃないか?」

「縁起でもないこと言わない! ってか、この人、どこで暮らしてんの? いつもはどこで寝てんの?」

 眉間に皺を寄せて尋ねるが、もちろん、どこからも返事は帰ってこない。

「……仕方ない……」

 ため息をついた彼女は、ファルの肩に触れた。軽く揺すってみるが、起きる気配はない。なるべくそっと、机から引きはがす。

「いよっ、しぇりーな、ばかぢから!」

「うるさいっ! バカ言うな!」

 気の抜ける合いの手に、言い返しながら、彼女はどうにかファルを担ぎ上げた。

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