このおめでたいニュースに祝福を!【1】

辺りが夕闇に染まる頃。

アイリスの側近であるレインのテレポートでアクセルの街に戻ってきた俺は、屋敷に戻ると。


「カズマ、カズマ。お帰りなさい。待っていましたよ。やっぱり魔王討伐の報奨金でしたか?」

「おい、カズマ。アイリス様に失礼はなかっただろうな? いくら魔王を倒したとはいえ、王族に失礼なことがあったら流石の私でもできないことはあるぞ。で、王城はどうだった?」

屋敷のドアを開けた途端、めぐみんとダクネスが一斉に飛びついてきた。

俺と一線を越えるか越えないかの瀬戸際にあるこの二人は、どうも接触が多いというか距離が近い。


「あ、ああ。みんなに話があるんだ。あれ? アクアは?」

「アクアならカズマが王城に行ってからずっとそわそわしてて、ゼル帝の小屋と暖炉前のソファーの間を行ったり来たりしていましたよ。今はゼル帝の小屋にいるのじゃないでしょうか」

めぐみんが俺に慎ましい身体を押し付ける。


……ほう、これはこれで悪くない。


対抗してダクネスの方も豊満な身体を押し付けてくる。

こいつらは最近こんな風にお互いけん制し合ってる。

こうやってけん制し合うことがなければ、どっちかとはサクッと一線を越えられているはずなんだが……。


そうこうしているうちにアクアが戻ってきた。

アクアは晴れない顔をしていたが、俺の顔をみてパアッと笑顔をみせ。

「カズマさん、カズマさん。私、ずっと朝から悪い予感がしてたの。大丈夫だった? また死刑になったりなんてしてないわよね……? ……ね?」

魔王を倒してからというもの、この駄女神はどうも調子がおかしい。

一丁前に俺のことを心配してくるし、暇さえあればこっちをチラチラと見てくる。


なんだろう。

なんだろう、これ。


最近、こいつ相手にドキッとさせられっぱなしだ。

おかしい。


「あ、ああ。三人揃ったところで、ちょっと話を聞いてほしいんだが——」




「!? アイリス様と結婚!? 魔王を倒してから散々王族とのお見合いを断り続けてきた私の立場はどうなるんだ、カズマ!? それよりもだ、アイリス様はまだ14歳になったばかりだということを忘れるな!!」

「はあ? 寝言言ってるんじゃないわよ、ロリニート!! 私、カズマさんが寿命を全うするまで天界に帰れないんですけど、一緒にいなきゃいけないんですけど。頭のおかしくなったカズマさんはいらないから、今サクッと楽にしてあげるわ」

「……カズマ、私の心を弄んだ罪は重いですよ。……さあ! 今すぐ消し炭にしてあげましょうか!!」

三人が轟々に非難の言葉を投げつけてくる。

俺は聞きなれた詠唱を始めためぐみんを慌てて止め。

「待ってくれ!! めぐみんも詠唱はやめて話を聞いてくれ、頼む!! これは俺にとっても本意じゃないことなんだ」


俺は必死になって三人をなだめて説明した。

以前、アイリスを助けるために銀髪盗賊団としてアイリスの婚約指輪を奪ってしまったこと。

銀髪盗賊団であることが王家には既にばれていて、断ると死刑にされてしまう可能性があること。

王家は代々魔王を倒した勇者を血族に入れ、血の強化を図っていること。

現在王城は、魔王の娘によって以前よりも苛烈な攻撃にさらされていて、王家の人間の戦力の強化が急務なこと。

アイリスの実の兄であるジャティス王子が、魔王の娘にいろんな意味でやられてしまったせいで王家の跡取りがいないこと。

つまり今回の結婚は、この国のトップである王様の半ば命令なこと。

エトセトラ、エトセトラ。


俺はこの結婚が既に避けられないことを強調し、虚実織り交ぜて思いつくままに言葉を並べていく。

ときには、婚約指輪の件を解決できなかったダクネスの責任を追及したり。

めぐみんに銀髪盗賊団の正体を明かして、俺が憧れの人であることをアピールしたり。

アクアが俺にしている多額の借金のことを蒸し返したり。

小一時間もすると、三人の非難の声も次第に小さくなっていった。


そして。

だめ押しの一言。

「アイリスと結婚をして王様になった際には、俺は後宮を持つことが許されているんだそうだ。俺はエリス教徒ではないし、王族が一夫多妻なのは普通のことらしいな。アイリスもお前らだったら側室として迎えても許すって言っていたし、俺だってお前らのことは憎からず想っている。……めぐみん、ダクネス。……あとついでにアクア。この国の妃にならないか?」



「嫌よ」

アクアが呆れ顏でそう呟いた。

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