ヤンデレエリス

もょもと

プロローグ

「お兄様、テレポートです。これで王手ですね……」

魔王を倒してしばらく経った頃。

この国の首都の中心にある城に俺は呼び出されていた。


「なあ、アイリス。やっぱり駒がテレポートするのはおかしいと思うんだ。このゲームのルール考えたやつ頭おかしいだろ。テレポートで盤外から王手できるのは絶対に間違ってる」

以前にした約束通りボードゲームの決着をつけるため、最上階に位置するアイリスの部屋のテラスで、アイリスと二人っきりでゲームに興じていた。

俺がエクスプロージョンで盤をひっくり返す準備をすると。


「ええっと……。その……エクスプロージョンは……困ります……」

王女様は、微かに震えた声でそう呟くと。

「……はあ」

ため息をひとつ。

王女様はどうやら盤上への集中が切れているようだった。

落ち着かない様子で、他よりも少しだけ日に焼けてない左手の薬指をしきりに触る。

そこは銀髪盗賊団として俺が奪った指輪が嵌まっていた場所だった。


……今回の呼び出しの本当の理由はボードゲームの決着なんかではなくて、やっぱり盗んだ指輪の一件なんだろうか。

城に来てからボードゲームをし続けて、このゲームで五局目だ。

アイリスがそこまで楽しんでいる様子がないのに、一向にゲームを止めようとしない。

それに、側近のクレアとレインがこの部屋に全く訪れて来ないのも不気味だ。


銀髪盗賊団に賞金二億エリスかけられて約一年。

仮面の盗賊の正体が王家にばれてしまっていてもおかしくない。

アイリスは盗賊団の一件に関して、伝えづらいことを伝えようとしているのではないのか……?


「な、なあアイリス。ほら、俺って魔王を倒した功労者だろ? いわば勇者みたいなもんだ。まさか、勇者を捕まえるとか処罰するとかそういうことはありえないよな……? いや、や、やましいことはこれっぽっちもないんだけどさ」


ここのところ派手に活動しすぎたせいか、銀髪盗賊団の指名手配書には生死を問わないデッドオアアライブという記述が加えられていた。

念願の魔王も倒してこれから面白おかしく生きていく予定の俺としては、前みたいに司法の厄介になることは避けたい。

この辺でアイリスに銀髪盗賊団の一件を全部洗いざらい白状して、指名手配を取り下げてもらったほうがいいような。

……よし。

「な、なあアイリス。実は話が——」


アイリスはぎゅっと拳を握り締めると、何かを決意したように顔を上げて。

真剣な表情でこちらを見てくる。

まさか、いきなり死刑なんてことは……。


「私もです。サトウカズマさん。大事なお話があります……」

荒い息を吐きながら、どこかよそよそしく俺の本名を告げるアイリス。

アイリスは温情で、俺に逮捕前の猶予を与えてくれようとしているのだろうか。

俺は銀髪盗賊団検挙の瞬間が近づいているのを察する。

この雰囲気は重罪に違いない……!


……仕方ない。

こうなったら、全ての責任をクリスに押し付けてしまおう。

クリスことエリス様は幸運の女神様だから、最悪の事態でも多分どうとでもなるはずだ。


「アイリス、銀髪盗賊団の主犯は俺ではなくクリ——」


「結婚してください、お兄ちゃん」


「喜んで」

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