戦場の(ローカル)アイドル 前編
オニギリ国は、簡単に言えば2つに分けることが出来る。平和な場所と、戦時中の場所だ。
リオノラント半島は、オニギリ国が領土権を主張している。シャケ州という名称で管理されている。
そして隣接するダイナマイト帝国も領土権を主張している。こちらの名前はライカン地域。
オニギリ国もダイナマイト帝国も絶対に引かず、第三国の仲介を双方が拒否しているため、国際的にはリオノラント半島と呼ばれている。
簡単に言うと、最前線の激戦地域であった。
そのシャケ州の第6駐屯所にて、ココロはぼんやりといすに座って天井を眺めていた。
ここは会議室だ。ココロともう1人しかいないが。
「なんだ、これ……」
ココロは歩兵であった。一山いくらで死んでいく使い捨ての歩兵。そのことに疑問を持たず、任務には忠実に生きてきた。
はずなのだが、現在は特殊任務を受けている。
「さぁ! COOちゃん隊長、張り切って行きましょう」
会議室にいるもう一人の少女が言った。
「ちゃん付けするんじゃねえ」
「いやいや、ちゃん付け以外ありえませんって。可愛いですよ。メッチャ似合ってます」
「嬉しくねえ」
ココロは今年で15歳の少女であった。
ココロは赤ん坊の時に捨てられて、最前線にあるシャケ州の幼兵学校で育った。4歳で入学する初兵学校を経て、10歳の時に入隊した。
ゴミのように死んでいく歩兵の数を補うためにいる、前線生まれの前線育ちだ
生まれた時から軍事基地にいるため、ココロの軍属精神は筋金入りだ。だから軍令には絶対に逆らわない。そもそも逆らえば銃殺である。
「COOちゃん隊長は可愛カッコ良いですよ。びゅーてほーです」
雫がそういった。ゴマすりではなく、本心からそう思っている。そしてその意見は、誰が見ても普遍的に正しかった。
ココロは一見して、人目を引く少女に育っていた。
闇夜の月のように美しい肌に、太陽に光り輝く金色の髪。透き通るようなアイスブルーの瞳。
ココロを幼年学校に売り払った母親は、ダイナマイト帝国の敵兵に強姦されたのだろう。ココロには明確にダイナマイト帝国人の血が混じっている。ダイナマイト帝国のさるご貴族様のご落胤と言われれば、誰もが納得するであろう。
簡単に言うと、ココロはシャケ州ではとっても珍しい、パツキンの美少女であった。
「軍装もよく似合いですよ、COOちゃん隊長♡」
「これのどこが軍装なんだよ!」
ココロはピンク色の迷彩柄をした、珍妙なエプロンドレスを着ていた。エプロンドレスにはヒラヒラのフリルが大量についている。布が多いくせに、スカートの丈が短い。極めつけは頭の上にのっかった、ピンク色の猫耳カチューシャだ。
全体を見ての感想は、ふざけているとしか言えない。
だがしかし。これが現在のココロ上等兵の、正式軍服であった。
支給された時には、ココロは鼻血が噴き出るかと思ったほどである。
「雫、てめーも似合ってるぞ」
「えへへー、ありがとーございましゅ♡」
「皮肉だ、ボケ」
ココロは舌打ちした。
ココロの前で話している少女は、ココロの部下である
その反面、知能は年齢の半分で、未だに階級は初等兵のままである。
上等兵のココロは上官にあたるのだが、そういった敬意は雫にはまったくない。
その雫は現在、キグルミを着ている。
丸っこい名の抜けた顔の巨大なキグルミだ。軍服っぽいものをかろうじて来ているが、肩に戦闘機のハリボテがくっついていて、背中に軍艦のハリボテを背負っている。
「いつまでこの特殊任務って続くんだろうな」
「さぁ? でも雫ちゃんは、COOちゃん隊長とこのお仕事できて嬉しいですよ。何よりうれしいのは、死ぬ心配がないことですね」
「死ぬ心配はねーけどよ。……正直、死ぬよりキツイ」
ココロが着慣れないヒラヒラのスカートをつまんだ。軍用ズボン以外に着たことがないので、初めて着たスカートがこのピンク迷彩柄のアイドルスカートである。
2人は現在、軍令により特殊任務に付いていた。
【ココロ上等兵 右の者をシャケ州駐屯軍所属のローカルアイドルに任命する】
【雫初等兵 右の者をシャケ州駐屯軍所属のゆるキャラの中の人に任命する】
その任務は、シャケ州のローカルアイドルとゆるキャラとして、地域を盛り上げていくことである。
ココロはご当地アイドル『COOちゃん』。
雫はご当地ゆるキャラ『シャケぽん』の中の人。
何度も言うが、シャケ州は戦争中の最前線だ。
住民なんてほぼいない。味方か敵兵しかいない地域である。
その危険極まる場所で、二人はアイドル業務を行うこととなっていた。
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