止まった時の中で

ねこがめ

#0 観測者

世界の生物の時間が止まったのはいつだっただろう?


つい昨日の事にも思えるが、実際は遠い昔の出来事だ。


世界は今、何も変わらない毎日を永遠に繰り返している。


子供は子供のままで、老人は老人のまま。


誕生も成長も死も、そのままでは何も変わらない。

まるでテンプレートと化した物語の漫画のキャラクターのように、永遠の時を生きている。


妊婦は妊婦のままで、死体は死体のまま。


産まれもせずに、腐りもしない。


人類がその現象に気付いた時、喜ぶ人が殆どだった。

年を取らないのだから、老衰で死ぬこともない。

不老不死。人類の望む終着点。


しかし、その何も変わらない日々が、人類を壊し始めた。


変化の無い日常に少しずつ人々は狂い出し、社会は崩壊。

この永遠の時から抜け出すには死ぬしかない。

自然に死なないのだから、誰かに殺してもらうか自ら死を選ぶか、その二つだ。


そして、多くの人が死んでいった。

死に方は様々だ。誰かに依頼して殺してもらったり、それ専用の業者が現れたりもした。死体は腐らないので土葬は出来ない。そうなると、火葬となるわけだが、そこでも問題が発生した。


死体を燃やしても、灰にならないのだ。

つまりは、死体を消す事が出来ない。


新しく誕生する命が無いくせに、終わった命の形を消す事もできないのだ。増えもしないし、減りもしない。現在そこにあるものが全てで、ただ違うのは魂が宿っているかどうか。


その何も変わらない事実に気付いた人類は絶望し、秩序ある社会を維持する事を諦めた。


それが2年前の事。

父さんと母さんが自殺した、あの時の事。


現在、世界で何人の人が活動しているのかわからないが、僕は死を選ばずにこの永遠の時を受け入れる事にした。そして観測者となり、この物語の結末を見届けようと思ったのだ。


両親が自殺してから2年が経過したが、未だに両親の首つり死体は両親の寝室にある。首が伸びている以外は比較的綺麗な状態だ。


僕は死体に「行ってきます」と告げて家を出た。

太陽光が僕を包む。

夜が来て朝が来る。そして、また夜が来る。

地球は回っているはずなのに、変わらない生物の時間。

そんな世界を僕は歩こうと思う。


この世界で生きる人達がどんな生活を送っているのか、これを読んだ人に伝えるために。

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