日替わり魔法少女

カエデ

プロローグ

「青島くんって……何か……謎だよな」

 ふと、聞こえた男子クラスメイトの声につい耳を傾けた。

 その言葉は今私のイチオシお気に入り小説から意識を引き剥がすのに、十分な効果を持っていた。

教壇に尻を乗っけている男子が身を乗り出して同調した。

「分かる! 俺も謎に思ってた!」

 窓際席で目線だけは目の前の文庫本から必死に外さず、それでいて耳をしっかりと機能させる。

「あんま他人と話してる所見ないし、確か帰宅部っしょ? なのにいっつもすぐ帰るじゃん」

 うんうん、と思わず頷きそうになるのを抑える。

「でさでさ、何て言うかな……別にコミュ障とかオタクとかそういう訳でも無いじゃん? 話しかけても普通だし、挙動不審じゃなし、って言うかぶっちゃけイケメンだし」

 そうなのよ! と胸中叫ぶ。その疑問は私も常々思っていた事だ。彼らと違い、私の席は青島くんの席から真後ろなのだから余計気になる。

「勉強も超出来るしな。今度さ、話してみようよ。普段何してんの? とかさ」

 無駄だよ、とまたも脳内で答える。彼らはまだ青島くんの謎について何も分かっていない。

 いつも窓から外を眺め、心あらずなのに先生から「問題を解け」と言われたらしっかり解く。

 普段何をしているのか、と聞くとそれもしっかり答えてくれる。だが、その内容が……酷くありきたりなのだ。

 誰しもが普通とは違った何かを持っていておかしく無い。なのに彼は何を聞いても「へえ、そうなんだ」としか思わない答えが帰って来る。

 どんな話をしても印象に残らない。

 おかしな所など一つも無いのに、それがおかしい。

 そんな雰囲気を持った人なのだ。その謎は少し話せば分かる、なんて浅いものじゃない。

 彼らじゃ青島くんの謎は解けないだろうな……なんて勝手な事を思っていたら教壇に座った男子が言った。

「でも謎って言えば荻原さんも謎だよね。こないださ」

 そこまで言い掛けた時、もう一人の男子が「おい!」と肘うちをした。

 どうやら私が近くに居た事に気付いていなかったらしい。私は聞こえていなかった振りをして、読んでもいないページをめくる。

「やべっ」などと言いながら、男子二人がそそくさと教室を後にする。

 意識を本に戻そうとしたが、先ほどの会話が頭の中をグルグルと巡りとてもじゃない内容に集中できない。

 諦めて本を閉じ、窓から空を見上げた。

 入道雲が広がる夏らしい空だ。

「謎な人……かぁ」

 私が普段何をしているか知った時、彼らは一体どんな顔をするのだろうか。

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