『これから自殺します』『…はあ』

春夏冬 しゅう

そんなどこかの短い話

『自殺します』

『…そうですか』

『はい、もう睡眠薬も用意してあります』

『睡眠薬で死ねるんですか?』

『いっぱい飲めば』

『へえ』

『なんですか』

『いや、そういうの昔流行ったから、今の睡眠薬はどんなに飲んでも死ねないって聞いた気がしたので』

『…ロープも用意してあります』

『首吊り死体って、全ての穴から色々垂れ流しなんですってねー。すごーい』

『カッターも新しく用意しました』

『手首って奥に動脈が隠れてるから、そうとう頑張らなきゃいけないんでしょう?大変ですね』

『お風呂に水溜めてあります』

『湯船にずっと浸かっていると、指がしわしわになるじゃないですか。全身もしわくちゃになるんですかね?』

『近くに高いビルがあるんです』

『上手く落ちれなくて下半身から激突すると、死ぬ事も自分で動く事も出来なくなるんですって。テクニックが試されますね』

『最寄りの駅に行きます』

『あー、じゃあまた電車遅れるのかー。まあいつもの事ですから』

『……』

『…もういいですか?これから納豆ご飯食べるので』

『…止めたりしないんですか?』

『はあ?』

『心配したりとか』

『別に』

『……』

『ていうか、あんた誰』

『……』

『会った事ある?』

『……いえ』

『なんで番号知ってるの』

『…適当に番号いれたら』

『あ、そうなんだ』

『はい』

『……』

『……』

『もういいですか?』

『え?』

『だから、納豆ご飯食べるんです。これから』

『はい』

『はい。なので』

『フラれたんです』

『は?』

『フラれたんです。恋人に』

『はあ』

『全てを捧げて尽くしたのに裏切られたんです』

『そうですか』

『慰めたりしないんですか』

『なんでしなきゃいけないんですか』

『……』

『会ったこともない他人ですよ?』

『冷たいんですね』

『あのねえ、今の聞こえました?』

『はい?』

『今のピーッて音』

『いや、別に』

『ご飯が炊けたんですよ』

『は?』

『今の。炊飯器の音なんですよ』

『……』

『これから納豆ご飯食べるんです』

『……』

『炊き立てのぴっかぴかご飯によく混ぜた納豆かけて食べるんです。卵と混ぜたり、ピリ辛のメンマと混ぜたり、もずくと混ぜたり、色々考えてるんです』

『……』

『試してみようって』

『……』

『絶対美味しいから』

『……』

『わかります?今はご飯を食べる事が最優先事項なんです』

『……』

『だから、こんな話をしている余裕はないんです』

『……』

『……』

『……そ』

『はい?』

『紫蘇は、いかがでしょう』

『…王道中の王道です』

『そうですか』

『はい……』

『……』

『……』

『では、お邪魔しました』

『あ、はい』

『それでは失礼します。おやすみなさい』

『はい、おやすみなさい』

ピピッ

ツー ツー ツー


「……ごはんですよ」

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『これから自殺します』『…はあ』 春夏冬 しゅう @dragonfly_autumn

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