Dreamf-6  強き力、優しき心(A)

       1





 この、頭に血が上る感覚。

 思考から反射へ。

 平静から興奮へ。


 まるで自分の体が赤く燃え上がるような感覚が、円は嫌いであった。

 どんどん、自分が人ではなくなっていく。獣になっていくような、この感覚が嫌いであった。

 あげく、嫌いな拳まで握ってしまっている。それほどにまで、興奮しているのだ。


(考えろ。考えろ……! 落ち着け、俺!)

 血が上る頭で必死に思考し、平静を保たせようとする。 そんな事に意識を回すものであるから、ビーストが眼前に迫っていることに気づくのが遅かった。


 すでに、円をその豪腕を以て潰そうと振り上げていた。

 息が詰まる、喉を締め付けられたような感覚とともに、円の思考力が引き剥がされた。


「――ッ、ゼェアッ!」

 普段の円とは違う、野太い気合。

 円の握られた拳は、ビーストが振り上げた腕を振り下ろす速度よりも速く、

 また強く、

 ビーストの体を穿った。


 拳の衝突部からは赤い光が散り、

 ガキガキッという音は、堅牢で重厚な装甲が砕け散った事を現す。

「……ッ。――ッ!!」

 小さく息を吐いた後、円は穿つ拳をさらに深く突き刺す。

「デァアッ!!」


 ビーストをその拳を以て地面に叩きつけた。

 圧倒的な破壊力。強さ。

 ビーストは悲鳴をあげることも出来ず、地面を数バウンドしながら向こうへと飛ばされた。


 静かにそのビーストを見つめながら、円は歩み寄る。




      2




「円……」

 恵里衣は襲い来る殺意を軽くいなしながら、戦慄した。

 これが天ヶ瀬円なのか、と。恵里衣の知っている円とは全く違う。


「これじゃ……ビーストじゃない……」

 円を見てそうつぶやく。

 本能、殺意の赴くままに敵を破壊する。それは人としての思考を捨てている。

「……ッ!?」


 そんな、余所に意識を回している暇などなかった。

 恵里衣の攻撃によって所々の装甲が砕け散っている、四足のビーストだが、それすらもダメージにもなっていないかのように絶え間なく攻撃を仕掛け続けてきているのだ。


「クッ!」

 前足を高くあげ、恵里衣をその巨体で踏みつぶそうとしてきている。

 その攻撃が自分にふれる前に、地面を転がってい受け身を取るように回避する。

 ギリギリの回避なので体勢が大きく崩れる。


「やばい……ッ」

 立ち上がっている暇はない。

 ビーストはが光弾を撃ちだしてきた。


「ウアッ!」

 シールドを張ろうとするも、光弾の速さは光と同等。

 光弾を張ることにも間に合わず。

 被弾部位から火花が散る。

 殴られたような痛みと、衝撃に思わず息が詰まってしまう。


「グッ……」

 そうやって隙が生まれ――。

「なに……ッ!?」

 ビーストの顔を囲うように円形に光弾が広がり、展開されている。

(あんなものを食らったら――ッ!?)


 そうおもった矢先だ。

 うなり声をあげながらビーストが顔を大きく振るとその無数の光弾が恵里衣にめがけて打ち出された。


「ハァアッ!!」

 だが、今回はシールドの発動が間に合った。

 手を突きだし、赤い光のシールドがビーストの攻撃を阻む。

 ビシンッビシンッと赤い光のなかに光弾は散り、こちらには届かない。


「グッ……!」

 だが、こうも苦しいのはエネルギーが限界に近づいてきているからだ。

 シールドの限界も近い。

 ピシンッと早くもシールドにヒビが入り始めた。


「クッ、ほんとにマズイ……ッ!」

 今シールドが割れれば今度こそ勝負が決まりかねない。

「チィッ!」

 割れる直前、恵里衣はシールドを解除し次の光弾をかわした。

「アッ、しま――ッ!」


 いつもの癖だ。

 いつも一人で戦うから、背後に円がいることを忘れていたのだ。

「グッ!?」


 バヂンッという音とともに火花が円の背中から散った。

 円の眼光がこちらに振り向く。


「――ッ!?」

 これは、恐怖だ。一体いつ以来だろう。このように息が詰まるほど戦慄したのは。

 血のように、炎のように赤く染まった瞳はビーストが此方に向けるそれよりも強い殺意と敵意が込められていた。




      3




 静かにそのビーストを見つめながら、円は歩み寄る。

(だめだ……ッ。また、僕は……ッ!)


 そう、分かっている。

 円でも今やっていることはただの暴力であるのだと。

 だが、それを分かりつつも止める事が出来ない。

 自分の本能を押さえつけることが出来ない。

 ビーストが立ち上がり、体勢を整えようとしている。


「――ッ!」

 当然、円はそれを許さない。

 ビーストに向かって飛び向かおうと、足に力を込め――

「グッ!?」


 その時、バヂンッと背中から火花が飛び散った。

 攻撃された。

 背後を振り向き、自分の背中を撃ったものを見る。


「クッ……!」

 歯を軋り、恵里衣が相対しているビーストを見る。

 自分が戦わなければならないビーストはいま立ち上がり、体勢を整えようとしている方である。

 だが、円の本能は今自分に危害を加えた敵の方へと向けられている。


「お前か……ッ!」

 あの敵を破壊する。

 破壊、蹂躙し、その心に刻み込ませる。自らが行った罪を。


「――――ッ!」

 足に力を込め、跳ぶ。

「――ッ!? 円ッ」


 恵里衣の円を呼ぶ声も聞こえない。

 突然、別の標的が入り込んだためか、四足のビーストは戸惑ったようにうろたえる。


 しかし殺すべき標的であるのは変わりない。

 うろたえも刹那ほどしか行わず、角で突き刺そうと――――


「ハアァッ!!」

 そもそも、ビーストがうろたえるなど、円の計算の中には入っていなかったのだろう。


 臆さず、拳をビーストへと突き刺す。

 それはちょうどビーストの角に叩きつけられる。

 またしても赤い光が衝撃部位から飛び散り、

 すると角にヒビが入り――

 その隙間から赤い光が漏れだし――

 ついには大きな破砕音と共に砕け散った。

 ビーストは悲鳴を上げ、後ろへ退く。

 止めを刺してしまおうと、円はそのビーストに飛びよろうと足に力を――


「――ッ!?」

 突然、円の進もうとする別方向から力が加わり、突き飛ばされた

 その刹那、


「ウグッ!?」

「――ッ! な……ッに!?」


 空を切り裂く光刃と、

 血の様に飛び散る赤い光。

(こ……これは……ッ)


 その時思い浮かんだ記憶。

 それは、人間、天ヶ瀬円の最期。

 だがこの形は、その逆だ

 恵里衣が円で円が――。


「ぐあっ」

 突き飛ばされた円は地面に体を上手くつけられず転がる。

「グッ……そんな……ッ」


 起き上がり辺りを見渡す前にまず円の視界に入り込んだのは、恵里衣の現状であった。


 おそらく、もう一体のビーストが打ち放った、

 円が本来相手にするべきであったビーストの攻撃を庇い、体を切り裂かれた恵里衣。

 その傷口からは空に散るように光が漏れ出してきていた。


「やばい……ッ」

 そう、円がつぶやいた束の間。

 恵里衣の体に光の波紋が走り始め、それはすぐさま間隔が速くなってきた。

「くっそッ」


 瀕死の恵里衣に止めを刺そうと迫る二体のビースト。

 その二体が辿り着く前に円は恵里衣のそばにまで駆け寄り、彼女の体を持ち上げてすぐさま大きく距離を離すよう飛びのいた。

 円自身も、そろそろエネルギーの限界が訪れるころだ。が、


「恵里衣ちゃん……」

 恵里衣の傷口を掌でなぞり、押さえた。

「う、んぐ……ッ!」


 傷口に触れているため、恵里衣はその円の手を振り払おうと体を揺らすがもう片方の出て体を押さえているので、振り払われることは無かった。


「ま……円……?」

「ありがとう」

「え……?」


 とりあえず恵里衣の傷口を塞ぎ、光の漏出を防いだ円は立ち上がり、二体のビーストの方を見る。


「おかげで目が覚めた」

「なに……言ってんの」


 立ち上がって復帰しようとする恵里衣だが、「くはっ」とエネルギーの限界が訪れ

ているせいなのか、ダメージが大きすぎたのか、立ち上がることができずにいた。


「こんな奴のために――」

 それは、ビーストに向けては言っていない。

 このビーストを作りだした、あの光に言っているのだ。

 二体のビーストは、円をまたその手で殺そうと殺意を立たせ――


「誰かが傷つくのも――ッ!?」

 また、この戦いの最初の様に光弾を雨あられと打ち放ってきた。

「ハァッ!!」


 その光を溜める動作はほんの刹那ほど。

 そして円が撃ちだした光刃は光弾の光を吸収しながらまっすぐとニ体のビーストへと向かって空を切り裂く。


 強い閃光と、強烈な爆裂音。

 円の光刃をまともに受けたビーストの堅い装甲が砕かれた。


「誰かの涙もいらない」

 円は拳を握る。

 怒りでもなく憎しみでもなく本能でもない。

 円にその決意させたものは、紛れもなく――。


「皆には笑顔でいてほしいから――ッ!」

「円……」

「そのためなら、僕は戦える!」

 また、円の体を覆うコロナのような赤い光が現れた。


「これが――」

 だが、この光は先ほどまでのものとは違うものであると、円自身、感じた。

「俺の強さだ!!」


 一方のみがいまだ変化しきっていなかった円の片方の瞳もいつの間にやら炎の様に紅色に染まっていた。


「円……この光は」

「ここからは僕がこの二人を相手にする。恵里衣ちゃん、そこから動くなよ」

「二人って、どいつの事よ」


 言うことは言った。

 ニ体のビーストに立ちはだかるように、

 恵里衣を守るように円は立った。

 大きく息を吐いて今自分が冷静であることを確かめる。

 先ほどのように頭に血が上っているようなことはなさそうだ。


「行くぞ……ッ」


 静かにそう口にすると、ゆっくりとニ体のビーストの方へと歩み寄る。

 ビーストからすればそれはただの的である。

 だが、光弾は円の攻撃を以て吸収されてしまう。と言うように考えたのだろう。

 ニ体、円の方に走りだし、接近戦を仕掛けてきた。

 細く小さく息を吐き、徐々に歩みを速め、円もビーストと同様、走り出した。

 ビーストが足を踏み込む度に地面に亀裂が入るほどの衝撃が走る。

 それほどのパワーと重量があるのだ。 

 二体のビーストが放つ気が滅入るようなプレッシャー。

 だがそれに臆する事はなく、円はビーストの目前にまで迫っていた。



 先に仕掛けてきたのは二足のビーストの方だ。

 突進スピードのエネルギーをそのままに、足を出してきた。

「クッ……!」


 何も考えない。

 何も予測しない。

 自らの反射神経のみを頼りにビーストの動きに対処する。


「ハッ!!」

 繰り出された攻撃が届かぬ範囲から円は回し蹴りを入れた。

 攻撃の範囲は円の方が広い。

 ビーストの攻撃は届かず、無防備となった腹部に円の蹴撃が食らわされる。

 炸裂した部位から赤い光が飛び散り、ビーストの重殻が砕け露わになった皮膚に深い傷を付ける。


 痛みにふるえるビーストの声。

 それをも気にせずそのまま足を踏み込み、


「デァアッ!!」

 正拳突きをビーストの深いところへ、回し蹴りを食らわせた点へ突き刺した。

 その瞬間、傷口の中からビーストをよみがえらせた銀河とおなじ色の光が噴き出してきた。


 円にとって、その時のビーストの悲鳴は今まで聞いたものよりも強く、悲しくなって、苦しくなって――。


「クッ……!」

 流れ込んでくる感情を胸に留める。

 喉元につっかえている水のような固まり。

 それを吐き出してしまったら、間違いなく戦えなくなる。


「――ッ、ラアッ!!」

 のけぞった所にさらに足を踏み込みもう片方の手で正拳突きをまたおなじ点に突き刺した。

 するとまた、混沌とした色の光が噴き出す。


「――ッ!?」

 追撃を加えようとしたがさすがに四撃目を食らわせることはできないようだ。

 もう一体のビーストが前足を高くあげ全重量で円を踏みつぶそうとしてきた。


「――チッ!」

 すぐさま二足のビーストを蹴り押し飛ばし、もう一体の四足のビーストの攻撃に備えた。



「グアッ」

 全体重のかかる攻撃は円が想像していたものよりも強烈であった。

 ビーストの攻撃を止めようと円はその前足を掴んだものの、それでも尚体重をかけてくるもので円の体が仰向けに倒れそうになる。


「クッォオッ――!」

 ビーストの体を押さえながら崩れてしまいそうなギリギリのバランスを保ち続けなければならない。


 この状況をどう打破するか。

 このまま横に避ける、等、このパワーの前ではそうしようとしたその時点でバランスを崩しかねないのでその策は無しだ。

 そんな時。


(――ッ! あれは)

 円の目に付いたのはビーストの体の側面にある、恵里衣がつけたであろう傷跡。それはビーストの重殻をも砕き、その皮膚を深く切り裂いていた。


「クッ――!!」

 円は右足にエネルギーを集中させる。

 すると赤い光が地面に広がり、渦を巻くように右足へと光が入り込んでいった。


「ハァアッ!!」

 力をめいっぱいため込んだその足を以て、円はその傷跡へと回し蹴りをたたき込んだ。


 軸足のみでビーストの全体重を支えられるものではない。

 当然円の体軸はずれ、倒れ始めていた。

 だが円が倒れてしまうよりも円自身の蹴撃が炸裂する方が早かった。

 ビーストの悲鳴が耳に痛い。


 だがそれ以上は考えない。


 傷跡に円の蹴撃が炸裂したため、その痛みにビーストは蹴撃から逃げるように体を避けた。――同時、

 円は倒れかかった方に重心を移動させ、態勢を持ち直す。

 態勢の良さで言うならビーストのほうが軸持ちはいい。


 すぐに反撃に入れる態勢に入り、未だ構えられない円に向けて光弾を打ち出そうとした。


 瞬間、


 円が蹴撃したその傷跡が突然爆発した。

 赤い光はその傷跡に張り付くようにあった。

 その光が、ビーストの重殻を爆裂させたのだ。

 突然の出来事にビーストはそのダメージよりも困惑したかのように爆裂した自分の部位を見ようとする。


「――ッ!」

 円はその隙を見逃すまい。

 腕に光をため込み、すぐさま光刃をうちはなった。

 その光刃はビーストのちょうど鼻先に直撃し閃光を散らす。

 このビーストへの追撃はここまでだ。

 なぜなら、もう一体の二足のビーストが円のすぐ背後におり、鋭い爪で円の体を裂こうとしているからだ。



 当然、気づいている。

 ビーストの体が自信の体に触れる前に、肘でビーストの腹部を強打して動きを止め、

「ハァアアッ……!」

 全身に力を込めて片手片脇を掴んで腰に乗せ、

「ゼァアアアッ!!」


 二足のビーストのいる方へと思いっきり投げ飛ばした。

 突然自分の相方が跳んできたことで、

 それを受け止めようとしたためか円の目でもとれるほど、二足のビーストはその場で身構えていた。


(一瞬で終わらせるから。どうか動くなよ……!)



 円は両手を大きく広げ、光をため込む。

 太陽のように明るく熱い光だ。

 その光は渦を巻きながら円の両手に集約されていく。

 その光をため込んだ両手を前に突き出すと両掌の間に小さな太陽が生まれた。だが、形は揺らいでおりその力の不安定さを見せている。


 円が両手で楕円を描くように位置を逆にすると、小さな太陽が白いコロナを纏い、球を形どった。


 球の中心で、プロミネンスが渦を巻いてその中にとどまっている。

 ニ体のビーストが激突したと同時、

 円は大きく身を引いて力をため込んで。

 二足のビーストがもう一体のビーストを受け止めきりニ体が円の方に向いたと同時、


「ハァアアッ!!!」

 大きく踏み出し両手を広げるように突き出し、

 球体を爆発させた。

 瞬間、内にたまっていたプロミネンスが太陽フレアのように噴き出し、ニ体のビーストの方へと一直線に向かう。


 それは音よりも速い。

 打ち出されたプロミネンスを防ぐ手だては――暇は無い。

 一体のビーストにプロミネンスが直撃すると爆発して衝撃波が広がる。

 その衝撃は大柄なニ体のビーストすらも余裕で取り込めるほどであった。


 威力は空間が歪んでしまうほど。

 ニ体のビーストはそのプロミネンスに押され続け吹っ飛ばされ、空を飛ぶ。

 しばらくしてからニ体とも直立で着地し、地面を滑走した。


 それも止まるとビーストニ体はうめき声を上げてしばらくその場でばたつく。

 と、爆発とともに体が頭から尾へと向かうように、ニ体のビーストは砕け散った。


 悲鳴も、苦しみもほとんど無い。

 本当に一瞬なのだ。

 だが、まだ終わっていない。


「チッ……!」

 上空に浮かぶ混沌の光の銀河。

 それがまた強い光を発し始めた。

 また、ビーストを蘇らせようとしているのだ。


「クッ!」

 もう一発使えば間違いなくエネルギーが切れる。

 そんなこと、心配している暇はない。

 すぐさま円は再びおなじ技を打ち出す構えを取る――。

 刹那、


「……ッ!?」

 小さな太陽を生み出している円の背後から極太の赤い光線が通り過ぎ、混沌の光の銀河を貫いた。


 そのとき一瞬、ビーストのような獣の悲鳴が聞こえたがその瞬間に銀河はガラスが砕け散るように数多の粒子となって消滅した。

 静かになったその場で、円は脱力した。

 赤くなっていた両方の瞳も元の色に戻る。


「今のは……」

 赤い光線が打ち出された背後に振り向くと、恵里衣が地面に刀を差して赤い光をその刀に纏わせていた。


 恵里衣のエネルギーの限界を知らせる光の波はほとんど常に現れているかのように波と波の間隔はほとんど無かった。


「うぐ……っ」

 立つことすらもままならない。当然だ。

 人間で言うと今の恵里衣の状態は全身の間接やら筋肉や等がとてつもない疲労で悲鳴をあげて立つことすら不可能な状態なのだ。


「おっと」

 恵里衣の体が完全に倒れきる前にすぐさま円は駆け寄り、支えてやる。

 恵里衣の体はほんのりと熱を帯びており、若干円の体温よりも高いようであった。


「……っ、手柄独り占め、許さないわよ」

「よく頑張ったな、お互い」

 恵里衣のどうにか見せてくれた、一番の笑顔に円もおなじ表情で返した。




     4




「なんて強さだ……」

 モニターをみる本木の声は震えていた。

 興奮だろうか。

 恐れだろうか。

 吉宗も自分の心臓が大きく鼓動しているのが分かっていた。体全体の肌も立っている。

 ブリッジにいるそのば全員、円と恵里衣が移るモニターから目を離せない。


「これが……スピリットの力」

 と言う、オペレーターの一人。

 吉宗が戦力としてほしがる理由も分かる。この強さに人間の技術が追いつくには一体どれほどの年月が必要なのだろう。

 だが、彼らの場合そういった年月だけの問題だけではないのかもしれない。


「ああ。震えたで、円。お前さんの強さに」

 人間ではたどり着けない力を、こうも映像越しでも伝わる。

 吉宗にとっては是非とも、天ヶ瀬円を引き入れたくなった。

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