君を消してあげたい

戯 一樹

第1話 その日、すべてが崩れた


 幼なじみが義父殺害容疑で逮捕された。


 その知らせを聞いた時、僕は呆然とした。頭の中が真っ白になって、なにも考えられなくなった。

 幼なじみが逮捕されたと初めて聞かされたのは、朝のHRの時だった。それまではいつも通り身支度を済ませて、いつも通り自転車で学校に行って、いつも通りだれかと挨拶を交わすでもなく自分の席に大人しく着いて、HRまで適当に時間を潰していた。

 いつもと変わらない退屈な日常。違う点があるとすれば、学校全体が妙に騒がしかったことぐらいだが、クラスにだれも友達がおらず、また人間不信気味の性格なので、クラスメイト達のざわめきにも、元より興味がなかった。

 周囲の小うるさい雑談を聞き流しつつ、時間を潰すのに文庫本を開いて黙々と読んでいると、担任教師が物々しい顔をして教室へと入ってきた。


「出席確認をする前に、まず皆さんに報告しなければならないことがあります」


 そう前置いて、学校のみんなからお母さん先生と親まれているその柔和な笑顔を一切消し、心中複雑そうに渋面になって言の葉を紡いだ。


「既に知っている方もいるかもしれませんが、今朝方、市内で殺人事件が起こりました。逮捕されたのはうちの学校の生徒で、今は酷い怪我をしていることもあって、とある病院で治療を受けています」

「俺知ってる! 隣りのクラスの桜ってやつだろ?」


 その名前を聞いた瞬間、僕は思わず椅子を倒して立ち上がった。

 まさかそんなはずは。でも、しかし。

 様々な感情が胸中を巡る。驚愕と疑心でない交ぜになった状態だった。


「どうしたの? 急に立ち上がって」

「いえ、何でもありません……」


 訝る先生に弱々しく応えて、僕は椅子を起こして座り直す。

 頭が混乱していた。先生が後で全校集会をやるとかどうとか言っていた気がしたが、まるで頭に入ってこなかった。

 それより最も気にすべき点は、「桜」という名前の方であった。

 信じたくなかった。嘘や間違いだと思いたかった。

 だって、その名前は。


 僕の大切な、幼なじみの名前だったのだから。

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