え⁉︎ ソ連兵って畑から取れるの⁉︎

蕃茄河豚

1ヶ月目

(1日目) 大分産のソ連兵

 タイムスリップ物(ミリタリー系)でよくあるのが、冴えないやつが戦時中に飛ばされるやつ。もしくは自衛隊とかが飛ばされるやつ。


 そいつらは良いよ。大概、仲間がいたり言葉がちゃんと通じるから。俺なんか言葉も通じない場所だぜ。



 俺は大分で農家をやってた。祖父の畑を継いだものの無駄に広いわ、借金はあるわで経営はまさに火の車。そして今年ついに自然も俺を見放した。台風の直撃、集中豪雨、暖冬、冷夏。


 農家にとっては、まさに地獄。


 ほとんど出荷できなかった。そのせいで東南アジアから出稼ぎに日本に来た奴等に給料を払えなくなった。奴等は辞めていった。


 その後は借金も払えないし、生活もその日しのげれば奇跡だった。


 9月。俺は都会に逃げようと思い、有り金を全て使って、電車にのった。

 俺は本州に向かっていたと思う。


「トイレ、トイレ〜」

 九州を出るあたりで尿意に襲われた。我慢する理由も無く、トイレに向かった。

「ふう〜」

 ここまでは良かったんだ、ここまではな……。

「うっ、あ”ぁ〜」

 ビックリしたよ。血だらけの男が倒れてたんだから。

 せっかく尿意から解放されたのに面倒に襲われた。

「どう、どうしたんですか」

 特急列車の床が血で真っ赤になっていた。

「これを……」

 なんだこれ。

 それは日記のようだった、ロシア語で書かれていた。なんで日記のようだったってわかるかというと、後半は日本語で日記が書いてあったから。

「車掌さんを呼んできますから……待ってて下さい」

 俺はこの時焦っていた。普通、他の人にも助けを求めるべきだろう。そうしておけば運命が変わったかもしれない。

 でも、血だらけの人が倒れてたら焦っちゃうよね、普通。

 俺は走った。知らない人を助けるために。


「どうしました?」

 車掌は俺より全然イケメンだった。

「あのっ、ひ、人が……血だらけで」

「え?」

「とにかく来てくださいっ!」

「はい!」

 俺はこの時、違和感を覚えていた。一応振り返る俺。

 なんかさっきより古いような気がするけど、気のせいか……。


「こっ、ここですっ!」

「どこです?」

「あ、あれ?」

 そこには、誰も倒れてなかった。綺麗に掃除された床。血なんてついてない。

「すいません」

「いえいえ、何かあれば言ってください」

 やっぱりあの車掌さん、イケメンだ。

「それに、もしそのような人が居られた場合はきちんと助けますよ」


「あのー」

「どうしました?」

 持ち場に戻ろうとする車掌さんを呼び止めた。迷惑だったかな?

「座席って……あんなでしたっけ?」

「え、はい」

 再びこちらを見るイケメン。

 きゃああ、かっくぅいいーーー。

「座席はいつも通り50年前の物を使っていますよ」

「あっ、そうですか」

「それじゃあ、良い夜を」

「あっ、良い夜を」

 きょどりすぎだったかな。

 でも、俺の手には血だらけの日記が握り締められていた。


 座席に戻ると急な眠気に襲われた。

「50年前の座席かー」

 俺は久々に熟睡した。


 俺は違和感を覚えた。それが何なのか、確かめる為に振り返ったり、車掌さんに聞いたりしたけどわからなかった。それに疲れていたから、その所為だろうと思った。


 起きると、特急はすでに九州をでていた。

 同時に違和感は更に大きなものになる。


「あれ? なんで車輌が……」

 俺がいた車輌の後ろの車輌。座席がなくなり、満員電車になっている。

 おかしい、昨日は違った。


 人間は好奇心の塊だ。あんまり恐怖がない時は何よりも好奇心優先だ。気になって満員電車に俺は突っ込んでいった。


 満員電車の中で移動している奴ほど邪魔な奴は居ない。それを俺がしてるんだから睨み付けられるのは当然だ。

 違和感は次第に、強くなっていく。電車の後ろに行くほどに。


 突如、俺はめまいに襲われた。なんか、すごい襲われてるような気がする。


 急いで近くの席に無理矢理、座る。

 あれ? 視界がぼやけて………………。


「@!)+〒*☆%+<^?」

「えっ⁉︎」

 気づくと俺は床に座り込んでいた。

 何時間眠っていたのだろう。

 しかも、外国人に起こされた。なんて言ってるんだ? さしおり、『大丈夫か?』みたいな感じかな。……って、寒っ!

「~*%<€$?$~'」

『これを使え』って感じで外国人が上着を差し出した。驚くほど生地が悪い。

 そこで俺は気づいた。

 あれ? 窓が……。無い? それによく見たら全員、外国人じゃ……。


 キィィィィッ

 電車が急停止した。俺はよろめいて手を床についた。

 あれ? 床も変わって……。

「#^*~$^%#^*~$^%!」

 外で誰かが叫んだと同時に、車輌のドア? が開いた。いや、ドアという言い方は間違っていると思う。壁だと思ってた所が急に開いた。車体の三分の一ほどの大きさだ。


 外国人達が外に出て行った。さっき上着をくれた彼が俺を引っ張りだした。

 みんな、変な帽子かぶってるな。

 人混みの中で揉みくちゃになりながらおもった。


 まぁ、知らない人がソ連兵のサイドキャップを見たらそう思うよね。


 俺は目の前の景色を見て唖然とした。

 そこに広がるのは無機質なビル群、ではなく大地だった。それに遠くには街も見える。

 黒煙が上がっていた。


 そこに見えた街は1942年のスターリングラードだった。



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