第179回『鶏が先』→落選

「それってまるで、鶏が先か、卵が――」

 アツシが小難しい禅問答に持ち込もうとしたから、先制攻撃してやった。

「犬が先か、でしょ?」

「ああ?」

 呆然とするアツシ。私は畳みかける。

「あんたはどっちが先だと思う? 鶏か、犬か」

「何の話?」

「いいから、どっち?」

 反論の隙なんて与えてあげない。根負けした彼が呟いた。

「鶏が先じゃねえの? ほら、鶏は十番目で犬は十一番目だろ?」

 むふふ、やっぱそう来たか。

「あんた中国人? 日本人なら犬が先でしょ」

「はあ? どっからそんなこと」

「桃太郎。家来になるのは犬が先なんだよ」

「むはっ、それかよ」

 ちょっと考え事するアツシは反撃を開始した。

「いいかサキ。桃太郎の家来も中国の故事から来てるんだぜ。もし犬があの時、もっと早く到着してたら家来は羊と猿と雉だったんだ」

「えっ?」

 そうなの?

「だから、鶏が先」

 でも待って。何かおかしい。

「それって……よく考えたら、犬が先ってことじゃない?」

「えっ?」

 彼も矛盾に気づいたようだ。青い顔してる。

 ――鶏が先なら犬が先になって、犬が先なら犬は先にならない?

 なんだかよく分からなくなった私たちは、通学路でそっと手を繋いだんだ。

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