第171回『おしゃべりな靴』→落選
「切り札は靴音認証です」
「靴音認証?」
怪訝な顔をする社長に俺は必死に説明を始めた。面接を突破し、予算を獲得するために。
「正面玄関の床にマイクを設置し、靴音のパターンで個人を特定するのです。社員の健康把握やストレスチェックにも使えます。不審人物の検出も可能でしょう」
「ほお、それはいい」
社長も興味を持ってくれた。あと一歩だ。
「ところで、それが懸案の問題解決になるのかね?」
「大丈夫です。予算があれば必ず解決できます」
「わかった。件の対策費は君に預ける」
「ありがとうございます。早速、靴音認証導入のポスターを社内に掲示します」
こうして俺は予算を獲得した。
三ヶ月後。俺は社長に呼び出される。
「すごいぞ。システム導入の告知をしてから靴の選択についての苦情が消えたよ。苦痛という声も無くなった」
それもそのはず、声の大きな社員は全員、底の柔らかい靴に履き替えたのだから。
「管理したがる人間は管理されたがらない、というのは本当だったな」
満足そうな顔の社長。俺の目論見は成功した。
「ところで、社員のストレスチェックはどうなってるのかね?」
「それが社長、残念ながら靴音がしなくなって認証が不可能に……」
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