第170回『さかもりあがり』→落選

『盛って盛り上がった彼のそれは……』


「何だ? この文は?」

 編集長はしかめっ面で原稿を机に置いた。面倒臭そうに担当編集者は答える。

「漢字の重複のところですよね?」

「そうだ。これでは『炎天下の下』みたいじゃないか」

「私もその違和感を伝えたのですが、作家先生は全く聞く耳を持ってくれなくて。意味が違うって言うんです」

「意味が違う?」

「そうです。『盛って』は行為を、『盛り上がって』は状態を示すとか」

「同じじゃないか」

「でも、「修正なんてしない」の一点張りで。原稿を引き上げるとまで言われました」

「全くしょうがないな、あの先生は」

「ですよね……」

 すると編集長が「そうだ」と手を打つ。何か思いついたようだ。

「フリガナを振るというのはどうだ?」

「と言いますと?」

「最初の『盛って』のところに『さかって』とフリガナを振るんだよ。間違ったフリして」

「ちょ、ちょっと待って下さい。そしたら意味が全然変わって……」

「そっちの方が面白いじゃないか。私が許可する」


『盛って盛り上がった彼のそれは、古墳の中でも一際そそり立っていて……』

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