第168回『ハンギングチェア』→落選

 リラクサと名付けられた椅子が、彼女の部屋の天井からぶら下がっている。

『あれ? ケンジさん、緊張してます?』

 いつものように腰掛けると、ステレオスピーカーからリラクサが小声で話しかけてきた。

「よくわかるな」

『揺れがぎこちないですから』

「そうなんだ。今日は指輪を渡そうと思ってな」

『ご健闘を祈ります』

 二時間後。

 彼女と一戦交えた俺は、ぐったりとリラクサに腰掛けた。

『上手くいったんですね。揺れが穏やかです』

「サンキュ」

『そしてかなり運動しましたね。体重が一キロも減ってます』

「余計なお世話だ」

 こうして俺たちは婚約者となった。が、そういう時に限って仕事が忙しくなる。

 二ヶ月ぶりに彼女に会えた時は、激務のため俺は十キロも痩せてしまった。

「どうしたの? ケンジ!」

「やっと会いに来れたよ。ちょっと休ませてくれ」

「ダメよ、そんな痩せた体じゃ。今は散らかってるし」

「いいだろ? 婚約者なんだし」

 強引に部屋に入った俺は、リラクサに腰掛ける。

 あー、この感じ。激務の中ずっと待ちわびてた極上の心地良さ。

 久しぶりの愛の巣を満喫する俺に、リラクサが無邪気に囁いた。

『あれ? アキラさん、ちょっと太りました?』

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