第164回『明日の猫へ』→落選

「あっ!」

 小学生の娘が旅行先で叫んだ。

「子供部屋のカーテン、開けたままだ……」

 それは南向きの窓だった。

「なにか困ることでもあるのか?」

 すると娘は泣き出す。

「ごめんなさいパパ。金魚鉢を置いたままなの」

 金魚鉢って窓際に!?

「それって去年買ったやつか?」

「うん」

 それはマズい。あれは典型的な球形だった。

「頼む、明日の天気を調べてくれ。自宅周辺の」

 俺は血相を変え妻を向く。

「ちょっと待ってて」

 もし晴れだったらヤバい。金魚鉢レンズで自宅が火事になる。

「今日は雨だけど、明日の降水確率は五十パーセントだって」

 それって、まるでシュレディンガーの猫じゃないか。

「緑ちゃん、暑くて死んじゃうよ」

「だよな、マズいよな」

 泣きじゃくる娘をなだめながら考える。

 ――旅行を中止するか否か?

 すると妻が娘に言った。

「緑ちゃんなら平気よ。甲羅干ししてたりね」

 へっ? それって……

「緑ちゃんって亀?」

「ママが夏祭りですくったの忘れたの?」

 そうだっけ? でも亀ならレンズにならないなと俺は胸をなでおろす。

 しかし娘はお冠。

「パパもママも大っ嫌い。私、絶対帰る!」

 明日の猫はやはり予測不能だった。

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