ダメ人間育成プログラム
@kanji
第一話 ジェラシーに燃える天の声
「ああ、どうにも話がまとまらん。つまらん」
そう呟き煙草を吸い始めた中年ほどの髭を生やしたじじい……いえ失礼、男性ですが、この男性、作家を生業としているのですがどうにもなかなか筆が進まないらしく、こうやって日々頭をもしゃくしゃさせながら煙草を吸い物思いにふけるのが日常となっております。
いやはや、いい加減その遅筆ぶり、どうにかならないものですかねえ……。締め切り前のあの鬼気迫るような形相で物語を書き綴る様を眺めているのも悪くは無いですが、それでももう少しでもあのやる気を日常に分けられれば、こんな風に苦労せずに済むのにと思わずにはいられません。
読者の皆様もそうは思われませんか?
ああ、申し遅れました、わたくし天の声と申します。以後お見知りおきを。精一杯努めさせていただきますので、どうぞ最後までご覧頂ければ幸いでございます。
「おーい、紗枝。珈琲を入れてくれー」
どうやら休憩に入るようですね。
どうしてこういつもわき道にそれるのでしょうか。
「はーい、今持って行きますよー」
そしてまた、彼の妻である紗枝さんもそんな彼に甘いのですから、もうどうしようもありません。本当、どうしてあんなロクデナシにあそこまで良い方が付いたのでしょうか。私の家内とは大違いですね。
……おっと、話がそれました。
どうにも彼の放つ堕落したオーラに周りが影響するのか、彼の周りにいると真面目な人までもが堕落を始めてのんびりとした空気をまとってしまうのです。一度それにやられかけたこともありました。よもや私をも毒し、監視役を罷免させられるかどうかのところまで追い詰められるとは思いませんでしたよ。ですから油断するわけにはいかぬのです。何としても監視を続けなければ。その為にはもっと引き締めてゆかなければならないですね。何と言っても私が最後の砦なのですから。
これはそんな夫婦とそれを監視する私、天の声がゆるりと堕落していく様を読者が眺めて笑う、なんとも私にとって不愉快な物語です。
追記:余談ですが、いつの間にやら私までもがその歯車に組み込まれていたことに憤慨する私がそこに居たのは言うまでもありません。
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