僕らはこの崩れ去った世界を生きる

生きるしかばね

プロローグ 裏切り

 元あった惑星が環境汚染で住めなくなったのを見て自分たちの故郷を捨て、宇宙に移住した人類たちはテラフォーミング可能な惑星をみつけそこに移住する。

 移住当初は何の問題はなかったが、緊急事態だったからか国家という枠組みが崩壊していた。誰もが手を取り合って、平和に惑星開拓を始めたのだ。

 人類はその惑星の各地に生存可能エリアであるコロニーを建設し、そこを中心に近隣のテラフォーミングを行なっていく。

 それから20年は何事もなかったらしいが、徐々に歯車が狂い出したそうだ。まぁそれも当然だろうと思うのだが。何が起こったのかというと、人間が豊かで安定した生活を取り戻すに連れて宗教や人種による差別が始まったのだ。国家人種宗教の成熟した文化が一斉に消滅したのだ。文明レベルは兎もかくとして、文化レベルは1からの出発となる。

 その後、この惑星は様々な思惑に支配されるようになった。戦争が起きコロニーが破壊され大量の人が死ぬということが起きた。

 それにたいし貴重な資源人材場所を失うのを是としなかった集団がいた。それが、コロニー内で重機の設計など日常必需品を開発していた企業達だった。いつしか、企業はその収益の枠組みを超え独自の連合体となり複数のコロニーを支配し始めた。その間、対立を煽っていた多数の宗教は結果として統廃合を繰り返し、一つの宗教へ変貌するその宗教が支配するコロニー連合が発生、企業連とのにらみ合いが始まる。それらの存在を是とせず企業連や統合されなかった宗教が集まってできた自由同盟が発足し、世界は三すくみの状況となる。まぁ全てを受け入れ、全てに関して友好的な中立コロニー群があるにはあるのだが。

 あそこは元になった民族性というか、なんというか……

 そこから100年が経過し、一人の少年が自由同盟のコロニー内部の清掃を終えとある場所へ向けて走っていた。まだ齢は13歳ほどで、その体は筋肉質ではあるものの、やせ細っている。

 自由同盟では企業の力も弱く宗教的にも対立が起きているため、教育面や物資などが明らかに足りていない。だからこのような少年が、掃除などの仕事についてその日の食い扶持を維持しないといけなくなってくるのだ。

「やってるねぇ」

 彼ぐらいの歳の子供は、よく戦争の駒として扱われるため、神の尖兵や企業の兵隊になればこの自由同盟でも死ぬまでは裕福な暮らしができる。

 しかしこの少年にとっては、そんな一瞬の時より抜け出して中立コロニーに向かった方がいいと思っていた。

 そう考えながら作業用の人形重機であるインナーフレームだけの機体を見る。CX-01s戦闘用のアウターフレームを装備できない本来の意味での重機用の機体を眺めながら少年は小さく苦笑いを浮かべた。

 Sとはコロニー外で作業するように設計されているためコックピットの機密性が保証されている機体群のことを指す。

「もうきたのか」

「防衛網のダウンまで時間はあるけどね」

 この工房の親方を見て、少年は苦笑いを浮かべた。工房といっても打ち捨てられたコロニー内の区画で勝手に開いているだけだが。

 その機体の隣には、コロニー建設用のリベットガンを改造した銃器や、ハンマーそれ地ならし用のランマーを改造して作られた杭を連続で叩きつける武器が置いてある。

「しかし、すごいな」

「別の拠点には、1世代前だがちゃんとした軍用機が置いてある。その武器で倒せるのは神の尖兵の下っ端が操るインナーフレームだけの機体だろう。アウターの装甲は抜けねぇよ。パワーも足りないしな」

 ただしだと親方はつぶやく。その目は一つだけ手段があると。

「インナーとアウターを分けたせいで可動域の部分がどうしてもインナーの硬さに依存する。それでもまぁアウターほどの硬さはないからそいつらでも撃ち抜ける」

 戦闘中ピンポイントで狙うということは無理なのを知っていていう親方に、もうちょっとマシな案を出せよと少年はつぶやいた。

「ないから、無謀なんだろ。ちった分かれ。ガキが衝動的に決めやがって、しかし明日しかないっていうのは、本当だからなぁ。明日以降になると強化された防衛網を突破しなきゃいけなくなる」

「だったら、心配いらん俺が攻めるのは」

 少年の目線の先には、大きな神殿が立っていた。このコロニーを統べる宗教団体の拠点だ。

「ちょっと待て、まさかバカなことはよせよ確かに防衛網が切れたら地下からは侵入しやすくなるが、防衛しているのは全部アウター付きなんだぞ」

 親方はひょうひょうと笑う少年に怒る。当たり前だろう、重機で戦車が大量にいる場所に潜り込むのだから。

「その日、神兵は動かせないからアウター付きがあいつらの追撃に着く、神兵サイドにも俺らの味方がいるつうことだよ」

 そう言いながらゆっくりと機体に登っていく。いっときだからよろしくなと、少年はつぶやいた。

 

 少年は狭いコックピットの中で、少し笑う搬入用の地下道の入り口に潜り込んでいた。コロニー各地には防衛用のため、どこからでも出撃できる場所があるのだ。廃棄された区画には厳重な扉があるものの防衛装置がない。防衛装置がある付近まで行って待機していればいいということだ。

「神兵か……」

 そうは呼ばれているものの、使い捨てのコマでその家族もなぐみものにされるパターンが多く見られる。いくら洗脳しようが、感情のみは抑えきれないのだろう、今回の作戦にしろ内通者が大量にいた。

 むしろ逃げる連中を囮にして、内通者と内通者の家族を逃がせるのが少年の役割だったりする。

「作戦行動5分前か」

 インスタント麺にしろ何にしろ、この待つ時間が以上に長く感じるよなと彼は苦笑いを浮かべる。

 コロニー内の緊急警報が鳴り響き、それが防衛システムが落ちたことを少年に知らせる。少年はフルスロットル状態で機体をかる。インナーフレームから露出した駆動系が悲鳴をあげながら、加速度を爆発的に上げていく。

 重機用に開発されたものなのに、軽やかな動きを見せているのは少年の操縦スキルが高いからか。

「もうそろそろか」

 集音マイクが拾った爆発音をコックピットで聞きながら、武装というか工具というかなんというかだが、武装をアクティブにする。彼の顔にはひょうひょうとした笑はなく潜り込む。

IFFに反応があり、目の前にひょろっとしたインナーフレームだけの機体じゃなく、アウターフレームを付けた機体が現れる。駆動部分以外に赤を基調とした塗装が施された装甲がつき耳の横から尖ったセンサーを生やしバイザーのような目を持つ機体は、少年の機体に通信を送ってくる。

『貴方が黒幕ね』

 女性の声がする。少年兵じゃないことに彼は驚き、小さくあぁと答えた。年齢をごまかすためである。

『貴方のノーマルスーツと機体は向こうに。インナーフレームは脱出組以外の機体は全て破壊したわ』

 その前にと通信をおくり、少年のかるインナーフレームが右手にハンマーを持ち左手にリベットガンを持った状態で跳躍する。

 インナーフレームの右腕が唸り、ハンマーが天井にめり込む。めり込んだハンマーの柄をつかんだ状態で、リベットガンが火花を飛ばした。

 音は四発リベットより思い落下音がする。

『ロックオンアラート寄りに先に気づいたの』

 驚く協力者に、少年は苦笑いを浮かべながらため息を吐いた。まさか宙ぶらりんでもろに反動を受ける状態から四肢バラバラのだるまに出来たのは奇跡だと思いながら。

「こちらの武装はまだ貧弱なんだ頼むよ」

 めり込んだハンマーをそのままにして、インナーフレームが着地する。その一連の動作は、あまりにも優雅で、見るものが見たら惚れ惚れとしてしまいそうになるだろう。

『神兵経験は、ないんですね』

 異質なものを見るような視線を感じて、彼はコックピットで苦笑いを浮かべていた。それはそうだろうと思う。

「出自はわかってはいないが、体がこいつらの動かし方を知っているんだ。まぁ覚えているコックピットはもっと原始的なものだけどね」

 彼がいた場所に銃弾が撃ち込まれるものの、彼はその場で反転してそれを避ける。リベットガンを投げ捨て、ランマーを装着する。地下の構造はあらかた知っている。この壁を壊せば隣のトンネルにつながり既存のトンネルは崩落することを。

 少年は苦笑いを浮かべて、敵機を眺めた。

「こっちだ」

 赤い機体の腕を引っ張りトンネルを破壊した彼は一直線に目的地のポイントまで進んでいく。

『私がいるのになんでこんな大掛かりなことを』

 戸惑う彼女に向けて、少年はコックピットで微笑を浮かべていた。

「この機体は重機として作られている。巻き込まれないなら何でもやるさ」

 勝って生き延びなくちゃ意味がねぇんだよ俺ら捨て駒やただのゴミはなと、少年が続ける。彼女は自身の機体のコックピットで息を飲んだ。

 私は甘かったのだと、彼に教えられたということを理解して操縦桿を握りなおした。

「っち、IFFに未確認機5か」

 ランまーしかない今、この機体では勝てないということを悟る。だがと少年は目線を上げた。

「3体相手できるか」

 少年の声に彼女が反応する。当たり前だと、しかしその返答をした後に彼女は気づいてしまう。彼は一体どうやって相手を倒すのだろうかと。

 その瞬間、インナーフレームだけの機体がそこに躍り出る。しかし、見えてきた5体の緑色のずんぐりむっくりの機体の方が早い。

 インナーフレームの左腕を銃で吹き飛ばし、迫る近接武装が顔面をもぎ取る。しかしインナーフレームは止まらない。右手に装備されたランマーを敵機の腰関節に当て……腰関節ごと機体を真っ二つにする。駆動系統に致命的な損傷を受けて真っ二つになった機体が不安定になり爆発をする。それに飛び乗る形でインナーフレームは敵機に向けて吹き飛ばされる。

 フレームの爆発の影響が閉鎖空間でもろに出たのか、カメラをはじめとするセンサー系統がダウンする。駆動系統がダウンしていないのが幸いだろう。

「いい子だ」

 少年はそう漏らすと、金属がぶつかる音を頼りに敵機に片腕で張り付いた。次の瞬間、少年の乗っていたインナーフレームが自爆する。

 アウターがついた戦闘機体とはいえ、自爆の爆発には耐え切れず自壊した。

『ちょっと、今の何。死んでないでしょうね』

 煙が腫れて3体が消え自身含めて4体のアウター付きしかいなくなったのを確認して、彼女は目を見開く。二回目の爆発は、彼が爆発したのだということに気づいたからだ。

「捨て駒にならないって言ったじゃない」

 彼女はコックピット出口を漏らしながら、3体をどう処理するかの方に意識を切り替える。下手に動けば自分もここで死んでしまうからだ。

 2機が落とされたことで、彼らの油断がなくなったのだろう連携に連携を重ねて赤色の機体は徐々に押されていく。右に飛べば右を抑えられ、左に飛べば左を抑えられる。後ろに下がろうとすれば集中砲火を浴びて蜂の巣だ。

 中途半端な広さの空間内では格闘戦しか出来ない。それゆえに数の差というのが顕著に現れるのだった。


 血がぽたりぽたりと地面に落ちる。それを見ながら少年はしくったなぁと笑う、簡単な止血は認めもう問題はないだろう。

「不意打ちだから2機は落とせたが、多分三機はきついだろうなぁ」

 それでもまぁ自機を爆破してまででも彼女の目をごまかしたかったのには理由がある。

「俺だ、手筈通りに進めろ的はA6防衛ラインから逃げているはずだ」

 捨て駒にはならんよと、少年はつぶやく。たとえそれが裏切りだとしてもだ。少年の意思は固く常に前を見据えていた。

「さて、こいつが例のアレか……」

 彼女から教えられた通りの場所に来た彼は、そこに鎮座する機体を見て少しだけ苦笑いを浮かべる。

「インナーはCX-15、アウターベースはモルアルトとフォルマーテの混成か」

 モルアルトは先ほど対峙していた緑のずんぐりむっくりのきたいだ。フォルマーテとは青を基調としたカラーリングをしており、細身かつ軽量装甲が中心だが各部に取り付けられた大型ブースターが浮いている機体となっている。

 このコロニーの神兵の上位職者がよく使う機体だ。それをミックスして作られているであろうこの機体は、黒を基調とし赤いラインが刻まれていた。

「なるほど堅牢かつブースターの補助により通常の機体と同様のスピードで動けるのか」

 まぁ脱出までの間だから、こんな実験機まがいのやつでも我慢してやるかと小さく笑う。

「味方も敵も何もかも裏切って今があるんだ」

 彼が機体を動かした瞬間、機体に暗号通信が入る。それは彼がここにいる理由であり、今後の生きる目標となったものだった。

『ここまでの道筋を描いたのは私だったわね』

 懐かしい少女の姿が画面に映し出されて、少年は照れたような苦笑いを浮かべた。

「そうだったな」

『これを見る頃には、私は象徴として眠っていることでしょう。歴代の聖女とともにね。だけどあなたはそれを許容できなくて、行動に出る。お願い、この狂ったコロニーを……導いて』

 俺は壊すつもりだったんだけどなぁと、苦々しく彼は笑うとまぁいいかとつぶやいた。

「IFFは書き換え済みか……行くぞ」

 ブースターを蒸し、地下のトンネルを爆走していく。赤いラインが発行しており、複数の線をトンネル内に描き出す。

「おら避けろ」

 通信回線を彼は開き、ニヤリと笑う。黒い機体は緑のずんぐりむっくりの機体モルアルトに突撃していく。彼は3体残したのに2体に減っていることを確認し、へぇとつぶやく。

 彼がやったのは不意打ちだ。不意打ちだからそれができたのだ。彼女は真っ向から3体と対峙して落としたことになる。純粋に技量が優れているのだろうと、小さく笑う。

『はぁ、さっき爆発したはずでしょ』

「捨て駒にはならんと言ったはずだが。残り一機だぜここは引き受ける。ガキどもを頼んだ」

 女性はコックピットの中でため息をつきながら、また後でと来た道を引き返していく。

 それをセンサー越しに確認しながら、少年は最後に残った一機に秘匿通信を送る。

「ご苦労、無線操縦疲れたろ。司教」

『大司教閣下から、ねぎらいの言葉だけで十分です。しかしよろしかったので、あの女を行かせても』

 大司教と呼ばれた彼は、まぁいいんじゃないかなぁと上のものにあるまじきくだけた言い方をする。

「助祭ごときが逃げたところでと言いたいところだが、枢機卿猊下の政敵とともに、ポイント稼ぎをしてくれたために嘆願として神兵とアレの離脱を認めたんだよ」

 正確には認めさせただが、少年はゆっくりと笑う。通信を切ると操縦桿を握りこんだ。

「さようなら、いい仕事だったよ。助祭」

 遠くで爆発音がし、彼が助祭と読んだ女性の機体の信号が途絶えたことを確認するのだった。

「陛下、私は今より任務を開始するためコロニーを離れます。以上」

『幸運を祈りますよ大司教。我がコロニー、ネルトリアに繁栄を』

 少年は、何も返さずに機体を動かす。彼の旅は……裏切りと猜疑心にゆがんだ道はここから始まるのだから。

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