掌の劇場

斉藤小門

第1話 聖夜の大役

「ヒロシ君はとっても大切な役なんだからね」


先生はそう何度も言った。


「そう、舞台の真ん中に立ってみんなを見渡すんだよ」


先生は僕の肩と背中を何度か押しながら視線をめぐらすことを教えた。


「いい、ヒロシ君はこのお芝居ではみんなが注目する大事な役なんだよ。だからしっかりね」


先生はそう笑顔で言った。僕の大好きな笑顔だ。先生の笑顔のためならばなんでもできる。


「じゃあ、いい? サクラちゃんがここに立つからヒロシ君は少しあとからでてきて、その横に立ってね」


やっぱり、先生の笑顔は素敵だ。


「サクラちゃんは赤ちゃんのお人形を抱いているから、ヒロシ君はその赤ちゃんのことを『かわいいな』って感じでみてね」


先生はちょっと考えているみたいだった。


「サクラちゃんが『この御子に幸せを』っていうから、ヒロシ君はその横で前をしっかりみていてね」


先生は続けて言った。


「ヒロシ君には台詞はないけれど、何も言わなくても大事な役なんだよ」


先生は再び笑顔になっていた。僕はそれだけでやる気になった。


僕の通う幼稚園のクリスマスのお芝居はその次の日に行われた。


僕の役はヨゼフというんだそうだ。

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