first episode:An injury 第2話「探検部」

 first episode;An injury 第2話「探検部」


「……うっ……うぅ……うあぁぁぁぁぁぁ」

「……」


あれ、俺はどうしてこんなところにいるんだろう。目の前に広がるのは赤い……水?


「お、おい!大丈夫か――!?」


 声が聞こえる。

 なんだろう。

 目が見えない。

 この、暗闇の中で、1人の女の子の声だけが、反響して聞こえた。


……


「核、起きろー!朝だぞー!」

「……あ?」


 目をパチっと気合で開ける。というより、あんなに大きい声をだされて起きない訳がない。


「優衣」

「なんだ?」

「起すのは構わないんだが……」

「ああ」

「馬乗りはやめてくれ」

「マウントポジションで一発KOだぜ?」

「しらねぇよ!とりあえずどけ!」

「こんな美少女に馬乗りされても何の気も起きないのか」

「ああ、起きない。だからさっさとどけ」


 優衣は、ぶつくさ文句を言いながらもベッドから降りていった。

 たく、自分で美少女って口にだすようになったな……これからどうなるんだよ……。

 そして、俺はベッドに置いてある、目ざまし時計を見た――。


「クズ!起きろ!」

「……はい」

「お前がとろとろしてるせいで核が遅刻しそうだぜ!」

「……はい、申し訳ありませんでした。以後気をつけますので今日は勘弁してください」

「よし、次から気をつけろよ。次にこんなことがあったらこの部屋から追い出すからな」

「……」


 谷風の小さなすすり声が聞こえたかと思えば、優衣は満足そうに降りてきた。

 そして、俺は固まっている。


「核、どうした?早く準備しろよ」

「ああ、そうだな。早く準備すべきだな。もう12時だ」

「そうだぜ。早く着換えろ」

「……どうしてこの時間まで起してくれなかったんだ!?」

「…………準備しろ」

「おい!?」

「……」


 優衣の無言の圧力ほど怖いものはない……ということで、俺はさっさと準備をし始めた。

 谷風はベッドの上ですすり泣いている。時々、これは主人公が受けるべき言葉じゃね?と唸っているが良くわからないから放置だ。

 俺が着替えていると、優衣は何故か台所に立って、何かを始めていた。

 ……いや、まて……!

 異臭がするぞ!?それに優衣は料理ができなかったはずだぞ!?

 谷風もバッと布団を跳ね上げ、すぐに上から降りてきた。


「おい、核!まさか……」

「ああ、そのまさかだ……俺の注意不足だった……」

「ん、核。もう着替えたのか、座っておけよ」


 谷風がダラダラと汗を流す中、優衣は笑顔でこちらを捉えて、また台所に視線を戻した。

 谷風が、汗をさらに流しながら、小声で話しかけてきた。大丈夫か、お前。


「下手したら今日学校いけねーぞ……」

「……そうだな」

「……」

「……そうだな」

「お前も相当参ってるんだな」

「……あ……ぁ……」

「大丈夫だ、俺が全部食ってやる。任せておけ」

「お前、男だよ……」

「おう!」

「出来たぜ!渾身の料理だ」


 優衣が、運んできた料理は、この世のものとは思えないほどの異臭を放ち、さらには隣の部屋から何故か悲鳴が聞こえてきた。

 なんだ、この匂いは毒なのか?空気感染でもするのか?

 目の前が霞む。これ、やばくないか……?

 谷風を見ると、もう今にも倒れそうになりながらも、置かれたらすぐに食べる、という目をしている。

 お前、本当に男だよ……いや、ただの馬鹿の可能性も否定できないが……。


「ほら、早く食べろ。もう時間がな――」


 優衣がお皿を置いた。

 1秒目、谷風は身を乗り出し、皿を奪い去るようにして皿を自分の手元に持ってきた。

 2秒目、優衣が反応し、消えた皿を追い掛けると谷風が持っている所まで確認した。

 3秒目、谷風が皿を口まで持っていって、表現ができないほど黒い料理が皿から谷風の口へと移動している。

 4秒目、優衣が目を見開いて、谷風を見ているなか、谷風は料理で気絶。


「……うっ!?」

「……」

「……優衣、言うことがあるよな」

「な、なんのことやら」

「まぁ、いいや。学校行くぞ、昼まで遅刻したらやばい」

「……うん」


 谷風、お前の犠牲は無駄にしないで俺は進んでいく!

 優衣を連れて、学校に向かった。


……


「あら、今来たの?」


 愛瑠さんが長い髪を揺らしながらこっちに近づいてきた。

 ここ教室なのに一々きたのか……。


「ええ、今来ましたよ……」

「優衣ちゃん、ちゃんと起してき――?」

「はぁ……」


 愛瑠さんが、優衣の異変を察知してこちらに近づいて小声で話しかけてきた。


「どうしたの?まさか……カサくん、なにかしたの?」

「いや、優衣が料理作ってくれたんですけど……」

「あ、そういうことなのね。よかったわ……」

「?何がよかったんですか?」

「あ、ううん。なんでもないのよ。それより、こんな時間に来るなんてカサくんもやるわねぇ」

「俺もこんな時間に起きるなんて思ってませんでしたよ」

「そう。あ、トリちゃんから伝言預かってるんだけど、放課後は部室集合ね」

「部室……そうか、俺は部長か……」

「そういうこと。だから、ちゃんと来るのよ」

「分かりましたよ……」


 優衣は相変わらず落ち込んでいた。

 あとで謝っておこう……。

 それからも、授業は何事もなく過ぎていった。


……


 放課後。部室の扉を開け放つ。

 凛と愛瑠さんと優衣はすでに到着していた。谷風はいないみたいだ。

 そして、教卓には探検部と名付けられた部活の顧問である、先生がいた。


「お、来たな。お前で最後だぞ」


 ……な……に!?


「ど、どういうことだ!?凛!谷風も入ってるんじゃなかったのか!」

「……」


 凛は気まずそうに目を逸らす。そこで俺は愛瑠さんを見た。


「どうしたの?」

「どうしたの、じゃない!谷風もいるんじゃなかったのか!」

「そんなこと言ったかしら?」

「昨日の晩、言ったじゃないか!」

「……しょうがないわね。先生。谷風くんも入れてあげてください」


 先生は今までのやり取りを聞かなかったかのように、「ああ」と言って何かの紙にボールペンを走らせていた。

 走らせていたポールペンが止まる。先生が顔をあげて、こっちを見て、口を開いた。


「神風が部長でよかったか?」

「……そういうことになってるみたいです」

「分かった」


 何がわかった、なんだ。俺はやっぱり部長になるのか……?


「カサくん、座ったら?」


 愛瑠さんが椅子を持ってきて、こっちこっちと手招きをする。


「あぁ、はい」


 座る寸前に、優衣が俺の椅子をハンカチでサッと拭いてくれた。


「……なんだよ」

俺がずっとみていたのが気に触ったのか、睨みつけてきた。

「いや、ありがとう」

「……あ、ああ。まぁ、気にすんな。朝は私も悪かった」

「そうか……こっちこそ悪かった」

「うん」


 うん……?優衣がそんなことを言っているのは初めてきいた。

 まぁ、いいか。思考する前に、先生もよって来たので、思考は停止せざる負えなかった。


「神風、これな。ちゃんと書いてくれよ」


 先生がノートを手渡してきた。

 シャーペンで文字が書かれている、前面と思わしきところを読む。

 探検部、日記帳。

 日記帳ってなんだ。


「……先生、これは何をするものですか」

「これか、これは探検部の活動を記録していくものだ。ちゃんと、書いてくれよ。日付と、あった出来ごとを記録してくれ」

「……どうしてこんな面倒なものを……」

「俺が顧問になったからには、適当なことは許さん。ちゃんとやってくれよ?」

「うぇ……」

「うぇ、じゃない。日記は大切だぞ――」


……


 寮へ帰宅したあと、俺は崩れるように倒れた。前を見ると、谷風は帰ってきてないようだった。

 何してるんだアイツ。まぁ、そんなことはいいか……疲れた。

 先生の日記講座は2時間続いた。どうして日記だけであれだけ話せるんだ、先生……。

 それに熱弁だったし……。そのせいで日記を書きたくなってきた。

 疲れた頭を働かせながら、机の上に探検部の日記を出す。

 シャーペンを筆箱から取り出し、ペンを日記に走らせる。

 4月16日

 探検部の活動を開始した(無理やり部長にさせられた)

 新しい部員として、谷風が入部した。正直アイツがいないと俺が弄られる(主に愛瑠さんに)

 明日から、本格的に探検部の活動を開始する予定らしい

 らしいというのは殆ど凛が仕切っているからだ(部長というのは飾りらしい)

 それにしても凛にしては、物事を提案するのは珍しいと思った

 何故だろう、でもやるからには、頑張ろう


……


 目覚まし時計のピピピッという機械音で目が覚める。

 ごろっと身体を反転させて、未だに機械音が鳴る時計を見る。7時半。余裕で間に合う時間だ。

 布団を撥ね退け、陽光が差し込んできている、カーテンをシャッと開けると陽光が強くなり、眠たい目が覚醒する。


「……」

「うぉっまぶしっ!」

「起きたか、谷風」

「ああ。閉めろ。俺はまた寝るんだ」


 もぞもぞとまた布団に入ろうとする。まぁ、いいか。別にアイツが遅刻しようと構わないし。


「……起せよ!」

「構ってほしいなんて小学生かお前!」

「おーい。起きてるかー!」

ガチャっと音がして、扉から順番に優衣、凛、愛瑠さんが入って来た。

「みんな、おはよう」

「おはよう、核。谷風は……ああ……」

「おはよう、カサくん。今日はちゃんと起きたのね」

「神風くん、おはようございます」


 どうして俺だけに挨拶が飛んでくるんだろうな。布団を被っているのに谷風がすすり泣いているのが聞こえてきていた。

 お前は、なんで起きなかったんだよ……起きてたらお前にも挨拶はきてただろうに。


「……ぐぅ……」


 寝始めやがった。


「どうする?」

「いや、あたし達はどうでもいいんだが……」

「そうだよな……」


 ……どうするか。

 とりあえずゆする。


「んぁ……そんなに俺のことが好きなのかい?」

「……ほっとこう」

「そう、だな」

「そうね」

「そうですね」


 凛は基本優等生で通っているが、こういう時は酷い。


「うぉ!?話してる時間なくなってきたぞ!早くでるぞ!」

「……本当ね!急がないと!」

「神風くん、早く!」


 どうして凛と愛瑠さんは既に靴を履いているんだ。

 それから一分後。谷風が起て、学校に行くのが遅れた。

 ……無事な朝は俺にはこないんだろうか。


……


「!今日はプールの授業なはずだろ!?」


 谷風が、授業中に騒ぎ出した。


「何言ってるんだ、お前……ほら、先生が困ってるだろ、座りなさい」

「いやいや、そんな風にいってもだまされねぇぞ!?」

「なにがだよ!」

「いやだから!お前が水着を着てて!俺と二人で遊んでたろ!」

「身の毛もよだつのようなことを言うな!それはお前の夢だ!」

「んなことねぇだろ!?お前は砂浜を走ってただろ!」

「……うぇ……」

「うぇ、じゃねぇ!本当なんだよ!みんな、信じてくれ!」

『……』

「クラス全員ひでぇぇぇ――!」

「とりあえず座れよ。顔真っ赤にしてないで」

「うぜぇ!」

「……優衣」


 パチンっと俺は指を鳴らす。すると優衣は谷風の隣へ一瞬で移動し、何かを耳に囁き始めた。


「…………♪」

「…………!?」


 なんだ。谷風が震え始めたぞ……。


「…………。……ズ……カ……♪」

「!?!?――□☆!∵ω」


 おい!意味不明な言葉を吐いた上に泡吹いたぞ、泡!大丈夫か!?

 そしてスタスタと優衣は戻ってきた。なんでさっきより肌がツヤツヤしてるんだよ。

 なんというのだろうか。すべてを包み込むような笑みだ。


「おい……優衣やりすぎじゃないのか」

「アイツにはあれくらいしないといけないだろ?いいじゃねぇか……お灸だ」

「お灸か。だったら、いいかもな……」


 アイツが体をビクンビクンと仰け反らしていることを除けばだが。


……


「酷いめにあった……」

「お前、病院に担ぎ込まれたくせにどうして平然と食堂にいるんだよ。しかもハンバーグ食うって、もうちょっと軽いのにしとけ」

「俺は腹が減ってる。だからハンバーグを食う」

「そうかよ……」

「谷風、しょうゆ」

「ははっ優衣様」


 今までにこんなことがあったりもしたが、さっきのことでいままで以上に谷風は優衣に恐怖を抱いたらしい。


「谷風」

「!?」


 おいおい、お前本当に何言われたんだよ。

 優衣のことだから――すまない、谷風。優衣は確かに怖い。

 俺のイメージでもそんなことをやられたら俺もこうなる自信がある。


「なにか言ったか?核」

「!?――いや、なんでもないぞ!」

「そうか?」


 どうして心の中を読めるんだ。お前はなんでもできるなッ。

 しばらくの静寂。時々会話が止まると全員がご飯を食べだす。

 そうじゃないとまともに食べれないんだが……。

 すると、優衣が、自分の食べているうどんに息を吹きかけながら、声を発した。


「そういえば愛瑠さんと凛は?」

「あの2人は、屋上でご飯を食べてるみたいだぞ」

「……」


 優衣の目が少し何かを考えている仕草になった。

 考えているけど、考えがすべて悪い方向に向かっていそうな目。


「……優衣、気になるのか?」

「いや、なんでも……ない。大丈夫――はあたしが……絶対に」

「?」


 優衣は相変わらずころころ表情が変わるな――いつの頃だったか。

 ……あれ?思いだせない。まぁ、そんなことは今はいいか。

 目の前で何か決意を固めようとしている女の子が先だ。


「優衣、まだまだ時間があるから探検部の活動するぞ」

「……」


 口をポカーンと開ける優衣。そりゃそうだろう、今までやる気がないと散々言っていたんだから、でも――。


「やるからには真面目にやるぞ、だから愛瑠さんと凛を迎えにいこう。早くしないと昼休みが終わっちまう」

「……ははっそうだな!よし、いくぞ!」

「え!?お前らちょ、ちょっと待てよ!まだ俺、食器返してねぇーよ!」


 谷風が五月蠅く俺達を追い始めた。逃げるように優衣の手を引いていく。

 優衣の目にさっきまでの姿はなく、今はただ、ただ楽しそうに笑っていた。

 その顔こそ、優衣だ。

 そんな、気がした。


……


 夕焼けが差しこみ、机が朱色に染まっている、放課後の部室。

 昼休みに活動をしようと思ったものの、今日はいつもより次の時間が早いのを忘れていて、教室についた辺りで予鈴がなってしまった為に放課後まで活動が持ちこされることになった。

 そして今に至る。


「んで、何するんだ?」


 とりあえず部室にいる部員全員に聞いてみることにした。


「そうですね……図書室に行くのはどうでしょう」

「図書室?」

「はい。この探検部の活動目的は神風くん覚えてますよね?」

「あ、ああ……」


 頭を回転させて凛が昨日言ったことを浮かび上がらせる。

 そういえば――「探検部は……地下を掘って未知の生物を探すんです!」って言ってたか……。


「未知の生物を探すんだったな?そこにいるだろ」

「……?」


 凛は不思議そうに俺が指差したところを振り向く。

 そこには、幸せそうな顔をした男。


「……き――い――……!?」

「何してるの?谷風くん……」

「そうだよ!男が好き嫌い好き嫌いって花弁をむしってたら悪いか!?」

「いや、誰も悪いとは言ってないが……お前……」


 しかも開き直るって……お前……。


「ちなみに誰のことを考えてやってたの?」

「それは当然……愛瑠さんに決まってるじゃないですか」

「…………」


 愛瑠さんの表情が固まった。何もかもが固まっている――。

 あ、目がパッと開いてまた細まった。愛瑠さんのあの目は……危ない。


「谷風くん♪ちょっとこっちおいでー」


 いつの間にか部室の扉まで移動していた愛瑠さんが、谷風に向かってこっちにおいでとばかりに手首を上下運動させていた。


「愛瑠さんのお呼びとあらばー!」


 ……谷風は犬のように走って愛瑠さんのところへ走った。幸せな奴だな、どんなことがあってもポジティブに考えられるから……。

 それから数分後、谷風は憔悴しきった要素で帰ってきた。何をやっていたかというのも聞かないほうが身のためだろう。

 愛瑠さんは本当に末恐ろしい。


……


 あのあと図書室へ移動。

 目的は当然地下を掘って未知の生物を探すための資料、らしい……。

 パラパラと本をめくる。

 なになに?地下には未知の生物が暮らしているという可能性があるというのが明らかになった。

 23年前に地面から人がでてきているというのを目撃している人が多くいるのだ。目撃証言では、人間と変わらないような背丈だった。未知の生物というより人間だったという意見が多い。

 しかし、そんな簡単に地下にいる未知の生物が見つかってくれるだろうか――。

 ちゃんと読むなら、まだまだ時間がかかりそうなほど分厚い。。しかし23年前ね、俺なんかは生まれてないな……。

 23年前なら、先生なら何か知って――。


「神風じゃないか」

「!先生!?」

「お前がちゃんと活動をしようとするなんてな」

「……俺はやるからにはちゃんとやりますよ」

「そうか、それが一番だな。やるからにはやり通せよ」

「……?はい。それより、先生は地下にいる未知の生物なんて見たことがありますか?」

「……ないな。校庭で兎風達が読んでたぞ、早く行ってやれ」

「分かりました」


校庭?校庭で何しようっていうんだ。


……


 夕日が傾き、月が目にくっきり映るほどハッキリしてきた頃、校庭には凛、優衣、愛瑠さん、谷風が待っていた。


「あ、神風くん。やっときましたね」

「……なんでみんなシャベルを持ってるんだ?」

「ここを掘るんだとさ」


 優衣がザクっと掘る場所にシャベルを刺してくれる。

 校庭から少し離れた場所にある、大きな樹の下を掘るらしい。


「どうしてこんなところを?」

「これの100ページを見てください」


 凛が本を手渡してくれる。

 100ページを早速開き、中身を見てみると、学校の校庭さっき優衣がシャベルを置いた辺りの樹を指している地図が乗っていた。


「これは?」


 愛瑠さんがすぐに説明を開始してくれる。


「23年前から地下から何かがでてきているっていうのが色々な情報誌に載ってるのは知ってる?」

「知ってます」


 というかさっき見た。


「未知の生物の目撃例が一番多いのがここ、らしいの。だからトリちゃんがここを掘ろうって……」

「え?ふーかちゃんも賛同してくれたのになんでそんなに残念そうな声をだすの!?」

「ふぅ……」

「とりあえずもう遅いからとっとと掘らないか?」

「あ、そうね」


 それから黙々とシャベルで掘り進めるうちに色々なことに気がついた。

 普通の地面にしては土が柔らかく、最近も掘り出されたような感じがした。

 ものの20分ほどでかなり下のところまで掘ることができたものの、そこで優衣が今日は終わろうぜ、と言ったので、そこで解散となった。


「……ちゃん。分かってるの?」

「……わかってる。大丈夫、だから」

「そう。でも、貴方が――」


 樹の裏、誰にも見えないところで、愛瑠さんと凛が話しているのが途切れ途切れに聞こえたものの、すぐに寮へ帰ることにした。


……


 4月17日

 探検部の本格的活動を開始した

 地下に存在する、未知の生物を探すのが目的の探検部だが、今日は図書室で手掛かりを見つけ、校庭で穴を掘った

 10mには達しそうな穴だけど、未だに掘っている土は柔らかいままだ。一体どこまで柔らかい土が続いているんだろう?

 案外あの地図は本当なのかもしれない……何故だかそう思った

 寮に戻ったあとはいつも通り、みんなが部屋にて、どんちゃん騒ぎとはいかなかった

 全員今日は疲れたんだろうと思う

 明日には、さらに土を掘って硬い土を見つけたい、でも、本当に硬い土までいけるんだろうか……もしかしたらずっと柔らかい土かもしれない、でもずっと掘り続けるんだろう

 何かがでてくると信じて

 今日は疲れた……もう寝よう


……


 朝、起きて、しっかり朝食をとり学校へ向かう途中。

 優衣が追いついてきた。


「おはよう。優衣」

「おはよう、今日は随分早いんだな」

「早くに目が覚めたからなぁ……」

「寝不足か」

「んまぁ、そうだな」

「っと……お前らあぶねーだろ!」


 隣のグラウンドから野球のボールが飛んできたのを優衣が取り、それを優衣が放り返した。

 普通な光景だけど、今目の前で起こったのはそんな生易しいことじゃなかった。

 優衣が投球フォームをとり、そこから放たれたボールはグラウンドからボールがでないように張られているネットを突き抜け、1000mは離れたところにいるキャッチャーにまで届き、ボールを取ったキャッチャーからバフンと いう音がなった。

 あれは、相当痛い。優衣ってあんなに筋力あったんだな……。


「核!危ない!」

「は!?」


 優衣がこっちを見て焦ったのか、その筋力で俺を道路へ押し出した。

 目の前には、何か白くネバネバしたものが落ちていた。丁度さっき俺の頭上があった付近だ。

 ――そこからの記憶は定かじゃない。

 いつの間にか優衣が声をあげていて、しゃくり泣いている。

 目の前には赤い血だまり。

 ああ、前にもこんなことがあったけなぁ……。いつの頃だったんだろう。その時も誰かが泣いていた気がする。

 そして俺の耳には新しい声が聞こえ始めた。


「カサくん!?トリちゃん!救急車!保健室!」


 さすが愛瑠さんだ。取り乱すこともなく、的確に指示を飛ばしてくれる。


「……うっ……うあぁぁぁぁ……」


 優衣の悲しい悲痛な声だけが俺の耳に届いていた。

 優衣は、今も昔も変わらないな。



 first episode:An injury 第2話「探検部」オワリ


 第3話「優衣」へ続く

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