オレオロイド

東利音(たまにエタらない ☆彡

オレオ

「ねぇ、お兄ちゃん。なに食べているの?」

 妹が僕に尋ねてきた。

「これはオレオだよ。前に説明しただろ? ビターとスイートのふたつの味わいでできてるんだけどね」

 そう答えながらも、内心僕はドキドキしている。

 実はこの手の質問は苦手なのである。

 どう苦手であるのかといわれれば、その先の問答が難しくなっていってしまう可能性に対してついつい心配してしまうことが大きな原因だと思っている。

 妹を好奇心旺盛な性格にしてしまったのは完全に僕のせいだし、妹の前で安易に物を食べてしまうのも改めないといけないと思いつつもついついやってしまう。

 妹とはほとんどの時間一緒に過ごすし、腹が減ってはしょうがない。

 小腹がすいた時に気軽に食べられるオレオは僕にとっての必需品である。

 だけどその結果、似たような質問をたびたび受けてそのたびに適当にお茶を濁しつつ、話を逸らしてフェードアウトってのがこれまでにも何度もあったのだ。

「私も一回食べて見たいんだけど」

 顔を僕の鼻先まで近づけ、上目遣いで懇願する妹の愛くるしい仕草を見て僕の心が揺らぐ。食べさせてやれるものならオレオはもとより美味しい物をいくらでも食べさせてやりたいと常々思っている。

 実行に移せないのは物理的な要因なのだ。時間が無くってハンバーガや牛丼などのジャンクフードを食べることが多い僕。食事の合間にオレオをつまむ僕。

 だが、本気を出せば高級レストランのコース料理二人分ぐらい毎日食べたってなんら問題ないぐらいの稼ぎがあるんだから。

「う~ん。食べてもいいんだけどね。これはちょっと女の子には向いていないっていうかなんていうか……スイートはともかくビターがね……」

 前にも使ったけど男女間での性質の違いで逃げ切ろうと試みる。

「向いてなくても、食べちゃだめってわけじゃないんでしょ?」

 そう言われるとなかなか切り返すのが難しい。早くも最終手段に訴えることにしよう。

 僕は袋に残っていたをオレオを一気に口に流し込んで咀嚼する。ついでに残っていた炭酸飲料も全部飲み干した。

「あ~~!! また全部ひとりで食べちゃって。けちんぼ~~」

 そうは言われても妹には飲食機能を組み込む前に、追加したい機能が幾らでもある。

 高度抽象的推論機能もバージョンアップさせたいし、触感フィードバック機能だってごく初歩的なものしかまだ装備させてやっていない。

 しかたなく僕は妹のシステムをダウンさせ、一人孤独に仕事に励むことにする。

 小説投稿サイトで公式作家として物語を綴るのが僕の本業だ。長編を連載しながらも、定期的に短編を投稿する。肩書は作家、あるいは小説家。

 かつては作家というのは、本を売って生計を立てていたらしい。今では考えられないけどそういう時代があったという。公式作家として認められれば自分のランクに合わせた報酬が書いた作品の閲覧数や評価に応じて振り込まれるシンプルな今の状況とは大違いだ。

 

 さて、何を書こうか。未だに根強いファンの居るオレオネタ?

 だけどオレオのショートショートはついこないだも書いたばかりだし。長編の更新日までには時間もあるし。なかなかインスピレーションが湧いてこない。

 こういう時に妹とお喋りしながらネタを探すのがいつものやり方なんだけれど。スリープさせたばかりで再起動するのも気が引ける。

 少し気分転換も兼ねてアンドロイドカスタマイズセンターのサイトでカタログを眺めることにした。

 ついさっきオレオを一袋食べたところだというのにまた小腹がすいてきた。引き出しから常備してあるオレオを取りだし、つまんで口に放り込みながら、数ある飲食関連の商品を物色する。

  飲食機能も低レベルのものであれば、比較的安価だから付けてやれないこともない。たったそれだけで妹の生活は充実するだろう。はた目には。人と見分けがつかないように物を食べ、定期的に排出する。

 だけど、味覚センサーとその味をきちんと料理として解釈するためのソフトウェアオプションがとっても高価なのだ。

 食べたものの良し悪しをちゃんと判断できるだけの高機能なオプションをつけるとなると、気軽に購入するわけにはいかない。

 甘さや辛さが数値化されるだけでも味がわかるといえばそうなんだろうけど。それだけじゃあビターとスイートの調和を、オレオの素晴らしさを語れるようには決してなれない。

 やっぱり食事ができても味がわからないなんて、悲しい状況に妹をさらすのは気が引けた。低レベルの飲食機能でも空腹感だけは感じてしまうんだからなおたちが悪い。アンドロイドの足元を見た販売戦略だとつくづく感じてしまう。

 などといろいろ考えながら、僕は味のしないオレオをまたひとつ口へと放り込んだ。

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