異星のげぇむ

迷夢

第1話 げぇむの始まり

 部活帰りの諸角もろずみ れんは気付けば、知らない場所にいた。


(……疲れてんのかな……?)


 帰宅途中で気付けば知らない場所にいた、もしくは家に帰りついていたということは疲れた人にはよくあることらしいので蓮はそう思いつつ首を傾げる。


 しかし、現在いる場所は何かの建物の中。しかも体育館のような場所で同じように首を傾げている人々や恐慌状態に陥りそうな人もいた。それらを見るとどう考えても異常事態だ。


「せんぱ~い」

「……おぉ、藤野。お前、この状態何か分かるか?」


 向こうから後輩の藤野 鉄平が駆け寄ってくる。鍛えられた体に童顔の地毛が茶髪の後輩は蓮の質問に首を振った。


「いや、わかりません。先輩はどうッスか?」

「分からんな」

「そッスか……」


 顔を俯ける鉄平。落胆する彼に声をかけようとすると不意に壇上が淡く光り始めて声が聞こえる。


『地球人・日本地区8の皆さん、こんばんは。まずは突然このような事態に招いたことについて謝罪しよう』


 男性とも女性とも取れないような声、酷く偉そうな口調が聞こえると全体の意識はそこに向けられた。誰も声を発さない中で壇上の光は集まり、球体になるとそこから続けて声が発せられる。


『さて、反論等に付き合って時間を費やすのも面倒なので各々の声はカットさせてもらっていることを了承してくれ。また、異邦人のため、言葉遣いがおかしくても意味を察して欲しい』


 声が告げることで蓮はそこで初めて鉄平と会話しようとしても声を発せないことに気付いた。声は続ける。


『まず、要点から。我々は君らが言うところの異星人だ。現時点での地球で観測や推定できる宇宙の範囲外に住む知的生命体。今回、現時点で君らの星よりもはるかに高度な文明を持つ我らが君らにコンタクトを取った目的は娯楽』


(……娯楽? それこそ俺らよりも発達した文明を持つなら俺らとコンタクトを取る必要なんてないんじゃ……)


 鉄平は疑問視する。その思考に反応したかのように声は説明を加えた。


『我々は、君らと同じようなヒト型である。同じような進化をしてきた。しかし、あまりにも進化し過ぎた我々は理性と本能の間にギャップを生み出してしまったのだよ。生物的な本能としては闘争、美食、性欲などを好みつつも発達した理性においては効率や合理性を重視し、本能に意味を見いだせずに不合理な行動に移すことがなくなった。また、発達し過ぎた文明において、我々がやることは殆どなく君らで言う機械が全てを熟す。その為、我々は暇でね』


 声は諦観を込めてそう言った後、楽しげなものに塗り替えた。


『それで、我々とよく似た生命体の滑稽な……失礼、生命体の精一杯生きている姿を観賞することが娯楽なのだよ。君らで言う、創作世界を見るのと同じでね。さて前置きが長くなって来たな。君らの世界の創作と同じでね、最初が長すぎると観客たちは無言で立ち去るのだよ。さっさと本題に入らせてもらう』


 声がそう言うと全員の目の前、胸の辺りに近未来を描いた映画などに出現するような黒い画面が現れて光の文字が手を触れてくださいと点滅する。


『後は、その画面の指示に従ってくれ。期待している』


 そう言うと目の前の光は消え、場に声が戻る。しかし、次の瞬間には全員が個別空間に飛ばされた。


「……あー。声は、出るな……さっきのは何だったんだろうか……」


 蓮は声が出ることを確認して取り敢えずは画面に手を触れる。すると画面が光り認証しましたの文字が出て次の画面へと移る。


 次の画面にはこうあった。



 レン様。ご登録ありがとうございます。


 これより、『げぇむ』についての説明を行わせていただきます。


 1.本『げぇむ』が行われている期間、他の空間とは時の流れを異なるように設定してあるため、ご安心して『げぇむ』にお取り組み下さい。


 2.あなたの故郷の世界、「地球」の参加者の本『げぇむ』のこの空間における開催期間は最長半年で、地球時間において最長30秒程度となります。


 3.本『げぇむ』をクリアされた方には開催星より報酬として好きな『力』を最大で3つ差し上げます。


 4.本『げぇむ』は開催者方の意向によってクエストをクリアしていくものとなります。脱落した際には正しく「地球」にお戻りいただけるのでご安心ください。


 5.『げぇむ』の際にメインクエスト以外に開催者方のポイントを稼ぐことが出来ればそれをサブクエストとして認めます。奮って様々な行動を起こしてください。


 6.本『げぇむ』は「地球」外で行われている物のため、全ての「地球」の法律の適用範囲外です。



 この大原則6つの他にも細々としたものが多くあったがレンは次へと書かれて明転している場所に触れ、説明を読む。


 次の画面はどうやらステータス決定らしい。



 異能:「地球」には存在しない能力。その者の個性を現し、宝玉として出現させる。宝玉を奪われるとその時点で振られたポイントの2割を失う。10で能力は顕在し、30まで上げられる。10を切った状態で相手に宝玉を奪われると能力も奪われる。


 身体:その者の身体能力を向上させ、力の使い方を理解させる。クエストに失敗した際にはそのポイントの2割を失う。5以下は病弱。10が一般値。20でアスリートレベルまで行き、50まで上げられる。


 絆:本『げぇむ』におけるパートナーの好感度を決める。本人も生きている為、心が移ろう可能性もあるがポイントが一定値以上ある場合、浮気の可能性はない。

5で顕在し、15で好意を示す。20で恋人になってくれ、50まで上がる。



 レンは異能の欄に【刀】とありそれが12、身体は17、絆は7だった。そしてボーナスポイントが10あり、それをどう振るかが肝心なようだ。


「取り敢えず、弄ってみるか……」


 操作しますか? の明転箇所にレンが触れると目の前に刀と黒墨で力強く書かれている白濁した宝玉とレンがこれまで見たことのないような美少女が現れた。


 長く、豊かな白髪。傷んでいるようには全く見えないエネルギーに富んだストレートヘア。線は細いのにもかかわらずその空色の目からは意思の強さが窺える。

 その意志の強い大きな目の周囲には白くてもその存在をはっきりと示す長いまつげが覆っており、神が計算し尽くしたかのようなバランスで高過ぎず、低過ぎない鼻が通っており、桜色の唇との位置関係も完璧だった。

 白磁器のような色のきめ細やかな肌。少し薄いがそれでもしっかりとあると言える胸。嫋やかなくびれから魅惑的なヒップラインに続く長い脚。


 どれをとっても素晴らしい女性だ。


「おぉ……」


 そんな彼女が宝玉と一緒に飛んでいる。レンは微かに震えながら手を伸ばした。それを無言で見る美少女。


「これがあれば、俺は超能力が……!」

「そっちなのね」


 美少女は半眼で、レンとその手に握られた宝玉を見ていた。



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