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「勇者のデメリットとしては、いくつか御座いますが、まあ大きく分けて二つほど。一つは魔王を倒したその後に人々からの関心が下がりやすくなる為、別の魔王や、上級レベルの魔物を定期的に狩り続けなければならないことです。ただ、それを続けているとハードルが自然と上がっていくので、途中でしんどくなって引退する人が大勢出てきます」
「と……いうと。魔王を倒さずにいた方がいいってことですか?」
「そう仰られる方も多いのですが、勇者は人々に注目されて初めて勇者と認められるお仕事ですので。手柄を立てなければいずれ人々の記憶からフェードアウトして、酷いと剣持って振り回してるだけの人と認識されてしまいます」
同じネタだけじゃ生きられないってことですね。
「しかも勇者は噂にされないくらい目立っていないだけで、年間に万単位ほど志望者がおりますので、競争率も高く、並大抵の努力では人々の耳に入るような勇者にはなれません、もし成功したとしても、それが長続きするか保証は一切できません」
常に上を目指し進んで行く者が真の勇者として生き残るのです。
人々の記憶に残り続けるというのは、ある意味で一番大変な仕事とも言えます。
「うわぁ……勇者ってそんな厳しいんですか」
「デメリットのもう一つは、勇者として、メンタルの強度が求められるということでしょうか。勇者にイベントはつきものですが、それらがけして楽しいだけのイベントとは限りません。心が潰されるような、トラウマ確定のものもランダムで襲ってきます。例えば、始まりの街がいきなり燃やされたり、パーティ内から裏切り者が出たり、途中離脱なんて可愛いものです、パーティ外れて二度と戻って来なかった、なんてこともありますし。メンバーが目の前で戦死したり、なんてのもよくある話です」
「な……生々しいですね」
「そういった数々の予期せぬ困難、そしていくつもの屍を乗り越える覚悟が備わっていらっしゃる方が私は『勇者』に相応しい方であると思っております」
と、『勇者』に関してはこんなところでしょうか、少々話しすぎてしまった気もしますが。
まあ、お客様相手に嘘を申すわけにも行きませんしね。
「いかがですか?『勇者』のお仕事」
「……ううん、僕にはそんな度胸あると思えないので、それに勇者って柄でもないですし。すみませんが別のを探してもらっていいですか……?」
微笑みながら確認すると、彼はまた少し顔色を悪くしながら、控えめに手を挙げた。
残念、『勇者』はお気に召しませんか。
「それですと、お客様がビジュアルの方を気にされるのでしたら、『戦士』、それか『騎士』なんてどうでしょうか?こちらの二つもそれなりに上位ランキングに入っております」
「え、『戦士』と『騎士』ってどう違うんですか?」
「わかりやすく申し上げますと、一定の機関に属すか属さないかの違いですね。『騎士』は基本王都なんかの騎士団に身を置き、民を守るべく武術の心得を学びます。かたや『戦士』はそういった組織に属さず単独で行動している者が多いです。序盤で勇者にスカウトされやすいのが『戦士』の方ですね。どちらもステータスの伸びは勇者に次いで安定している為、スカウトされれば一軍として重宝されることでしょう」
それに筋骨隆々、野盗も裸で逃げ出しそうな用心棒系のお客様の容姿でしたら、名のある勇者にも直ぐにスカウトされるでしょうし、騎士団に所属しても、魔王のステータス引き継ぎで出世街道まっしぐらウハウハですよ。
「そう、ですかね。できますかね、僕なんかが」
「ええ、人の助けになりたいというお客様のご希望にも添っておりますし、ただ……」
「た、ただ……?」
「勇者とパーティを組んだ場合、戦士は貴重な前衛としてスタメン入りはほぼ確定ですが、打たれ弱い仲間の盾役、経験値稼ぎ、いわば壁にされることも多い職業です」
「壁ッ!?」
「酷いとボッコボコに殴られるだけで戦闘が終わります」
この前なんて、それが嫌になって泣きながら転職された戦士の方がいましたっけ。
「一方『騎士』の方は、国の
「ちょ、ちょっと待ってください……」
「はい、いかがなされました?」
「血生臭いのは、あんまり……戦争とか嫌いなんです」
ああ、そうでした。
お客様は、無益な争いを好まれない。魔王でも、中身僧侶なお方で御座いました。
「かしこまりました。では、争いごとに発展するような野蛮な職業は除外させて頂きましょう」
そう言えば、彼はまた体を縮こめるように小声で謝罪をし、後頭部を掻いた。
「すいません。注文が多くて」
「いいえ、お気になさらないで下さい。ご希望が明確であればあるほど絞り込めますので、それにお仕事はまだまだ山ほど御座いますので」
ゆっくりペースでいきましょう。
「そうですね、争いごとを好まないお客様に適したお仕事となりますと……」
「あの、できれば特別なスキルが無くてもできそうなものってあります?」
「どなたでも始められる、スキル不問のお仕事ですね。勿論ございますよ」
そうですね、その代表的なお仕事といいますと。
「こちらなどいかがでしょうか」
「え……これって――」
スキル不問、年齢問わず、老若男女どなたでもOK。
人気は高くはありませんが、一般的なお仕事としては有名です。
「あの、これ、……まず仕事なんですか?」
「ええ、少々特殊ではありますが、お仕事ですよ。『村人』はれっきとしたジョブの一つです」
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