2
慌てて顔を背けて口を抑える。
いけない、いけない、いけない!
お客様の御前でなんてはしたない真似を。
ぷるぷる震える体を前に戻し、息を大きく吸い込み、もう一度書面を見る。
「……ふっは、」
いけない。二度目の失態を……。
見間違いじゃない、ちゃんと達筆で書かれていた。
おお……おおおお。
「あの、どうされました……なにか問題でも」
「もっ……申し訳ありませんお客様、ご確認をさせて頂きたいのですが、お客様の現ご職業というのは」
私大変な勘違いをしていました。
この御時世ですし、大体、見た目からして騙されました。
スキンヘッドに、一本もない眉。特大ハンバーグでも入っているんじゃないかと思えるくらいの逞しい腕、眼力だけで人を殺せそうな人相の悪さ。そこにいるだけで空気を凍らせるような佇まい。布切れみたいなチョッキに、薄汚れたズボン。そしてスリッパを履く足は裸足。
てっきりそう。王都のゴロツキか、盗賊団の頭、海賊、それかサーカスの猛獣使い、とかそこらだと思っていたんですよ。ええ。
大事なことなので、もう一度いいますが。この御時世です。
だって今や、それっていったら人気職ベスト5に食い込むものですし、まずなったら転職を希望する人なんていないやつです。
しかもしかも、最近は若輩者が多く志願する職で、キャラやビジュアルもかなりバラエティに富んでいるんです。一番多いのがイケメン、並びに美少女、幼女なんてのもいるようですし。まぁだいたい、水牛やらなんやらの角を生やしたり、翼を持っていたり、悪魔的な尻尾があったり。または白髪だったり、眼帯や、オッドアイとか、耳が尖っていたりとか、そういうオプションがあったりっていう、デザインがかなり凝ってるんですよね。最近のライトノベルでだって、可愛い女の子が……とかっていうの多いですしね。
この方がもしそうだったら、それこそファミコン時代になってしまいますよ。
絶滅危惧種にも値しますよ。
「その、……つまり、ですから」
転職希望をなさる、この土色の顔をしたお客様の現ご職業は――。
「魔王……です。そこに書いてある通り、魔法の魔に、王の王で……」
「まじか‼︎ ――あ、いや。すいません。今のくしゃみです」
本日三度目の失態。
凄い大御所が来てしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます