如何に真実かという妄言

@Da-Ya-Ma

所謂ある一つだけの物語未満

 やあ、少年。少しばかり話をしよう。

 私は心がすさんだ奴にしか見えない特別な者だ。そいつらに大きな夢を持たせるためにこうやって方々を飛び回っている。別に死神でも悪魔でもない、『人』か『物』あるいは『何か』として扱ってくれ。

 私が今話す内容は如何に賢いお言葉ということかを示すためにお前に一切の発言をさせぬつもりでいる。不満は漏らすなよ、なにせここ一か月お前は誰と話をした? うれしくて死んでしまいそうだよな? 感謝申し上げよ。

 ふむ、小気味悪い部屋は評価に値する。ここまできれいに整っている部屋、ゴミきれ端きれ全く見当たらない部屋は貴様のような人種のゴミには似合わない、むしろ貴様自身をゴミというのにふさわしくするために部屋が全力を尽くしているきさえする。

 ああ、引きこもりのお供パソコンがあるじゃないか、あなた様はこれで一体幾つの幻想を見てきたのだろう、想像に堪えないね。仕事に使っていたという言い訳は全く通じないからな、俺は前もってあんたのPCの履歴を見ておいた。やっぱりあなたには敵いませんね、履歴が通販サイトで埋まってやがる。どこから金出してくるんだ。

 いいか、金というのは命と同価値でもないが金絡みで死んだ奴をうんと見てきた。世を動かす資本を全面的に否定する野暮なことはしないが、社会のゾンビにまでなって金目をねたぐるその様は生命の尊さえ感じてしまう。打って変わって貴様の共産主義の類のアンチ資本主義に頼るしかない、そんなような貧相な形相は何だ? よくここまで生き残れたな、また褒めるべき箇所が増えてしまった。貴様は社会のど底辺じゃないのか? いつも口癖にしているのを知っているぞ、「誰か俺を殺してくれ」って、それに応えてあげてやろう。

 俺だって神じゃない仏でもない、救いの手を差し伸べるにはあまりにも醜すぎる貴様に施しをするならば、翼を授けるしかないとは考えている。あくまで一提案だが、大空に飛び立つというのはすごく気持ちがいいぞ。あなた様がどうしてここまで自堕落なのか私は知らないが、今の生活が本望ではなかったことはれっきとした真実であることは知っている。その上での提案なんだ。

 そうだな、弔いの言葉は必要か、もう少し待ってくれ…………今考えている、その間にまあ、話の続きでもしようか。

 私が申し上げたいのはやはり貴様は一縷の望みに己をかけ続けているのを何とかして止めさせるためだけにわざわざ飛んできたということで、決してお前の脳の中で繰り広げられる幻想の端きれがこう飛び回っている訳でなく、ただ俄に存在してきた現実という名の鉄槌があなたに当たろうとしている、そういうことだ、現実は『塵カス』だろ? 俺の容姿がそう物語っている。だってさ、黒光の上、光沢もいやらしく、しまいにはボロボロ、悪魔でもこんな格好せんぞ、破かれたゴミ袋の擬人化のコスプレのような恰好。非常に悪趣味である。

 私は雑談がしたい。そのため話が四方八方に飛び散ってしまうその点に関して言えば申し訳なく思う。ただ、貴様はさっきから笑っているばかりだな、そりゃ耳を塞ぎたくなるような嫌みを浴びせ続けているのにも関わらず笑っているのは必死に現実から逃げようとしていて非常に滑稽である。客観的に自分を見下して微笑するのは常人では出来ない代物だ。このことも褒めてやろう。

 ん、そろそろ死にたくなったか? 心も荒んでいる奴には言葉の一つ一つが恐ろしく聞こえていたのかもしれないな。部屋をゴミで染めたくないから自決なら外でやってくれその間も付きまとってやる。自分の死の瞬間まで誰かに見られているのは至福の時間を感じることだろう、何せその光景が冥土の土産になるのだからな。その、なんだろう、良い死に方で死にたいよな? 本望だよな? それなら良かったです……。

 翼は用意してある。いつでも飛べるぞ、それと手ごろな飛び立つ場所があればいいが、ベランダはこの部屋には付いていなさそうだし、大きそうな窓から身を投げ出すほかに方法は無いな。忘れる前に『死ぬなよ』とだけ弔いの言葉を添えておくよ。なあに心配はいらない。今から大空へ旅立とうとしているがどう転んだって必ず飛べるようにするさ、約束したっていい。あなた様が望むなら飛ばないというのもありだがその選択は貴様に丸投げする。受け身次第でどうにでもなるからな、人は。俺も人になりたかったなあ。

 ところで親は今何しているのかな。いささか愚問でしたか。答えたくなかった身振りで示せ。まあ貴様がお家の寄生虫ということは分かり切っているが改めて確認してみるとするか、やはり家庭は崩壊しているのか。もう死んだほうが楽になれるぞ、死んでしまいなよ! 息絶えるんだ。この世に望みなんてお前が伸ばせる腕の長さじゃ余りにも遠すぎる、諦めよ、一切の望みとやらを捨て去れ、ほらほら、手を伸ばして俺を捕まえてみろよ、それに望みをかけてみろよ! 俺は窓の外だ。そうだな、俺を捕まえたなら今より素晴らしい世界を与えてあげましょう、ほら、窓を開けて身を乗り出して。

 ようやく死ぬ気になったのですね嬉しいです私は、後は足を出して。ゆっくりゆっくり、遅えよ! 大空に羽ばたけよ! そして地に落ちろ!

 …………バーカ、誰が二階から落ちただけで死ぬか。しばらく地に這いつくばっていろ、次は縄も用意してやる。じゃあな。


俺は空想にも裏切られた。

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